「トリビアの泉」のトリビア
「トリビアの泉~素晴らしきムダ知識~」といえば、2002年から2006年までレギュラー放送を行い、その後2007年、2010年、2011年、2012年に特番が放送されたフジテレビ系列のバラエティである。地味に今年放送開始20周年。
私はこの番組をちょっと信じられないくらい熱愛しており、今でも世界一好きなバラエティ番組の座は揺るがず、ざっくり言えば第一志望の高校や大学に合格できたのもこの番組のおかげなのだが、とにかくそれぐらい好きだったので小学生の頃にはその影響でネット上の雑学系サイトをうろうろするようになっていた。その中のあるサイトで、だいたいこんな感じのトリビアを見つけた。
ある回で「ガリレオ・ガリレイは『それでも地球は回っている』と言っていない」というトリビアを放送する予定だったが、取材した専門家が放送前に朝日新聞の「be」でそのトリビアをバラしてしまったため、放送ではカットしてなかったことにされた
トリビアのトリビアである。トリビアで放送され「へぇの本」にも収録されたトリビアだけでなくいわゆる「欠番」トリビア、さらに「もしかしたら放送されるかもしれなかった幻のトリビア」にも興味を持っていたので、この話の真相がずっと気になっていた。そして時が流れ、新聞の縮刷版というものの存在を知り、図書館に通って昔の新聞を見るようになった頃、ハッと気づいた。
「これ、あのトリビアの真相調べられるじゃん……!」
「be」は朝日新聞の二部紙で、2002年から土曜版となり、2005年4月~2009年4月の間は土・日の二本立てで発行されていた。新聞でポロリしてしまうということは「トリビアの泉」という番組がメジャーになったレギュラー昇格以降のことではないかと見当をつけ、ゴールデン初回放送週の「be」(2003年7月5日)から順に1ページずつ見ていった。そうして作業を続けていくと……それは2004年1月24日発行分にあった。
実際にご覧下さい、と言うわけにもいかないので引用するが、それはこのような文章だった。
田中一郎・金沢大学教授(57)は、神戸大教授だった青木氏に指導を受けた。青木研究室にあった膨大な原資料を読破し、イタリアにも留学した。師が書かなかった根拠を示して、伝説の真偽に関する判断を明快に下した。
「それでも地球は動く? あれはまったくの作り話ですよ」
ガリレオ自身の書き残したものの中に、この言葉は一切見当たらず、伝記では死後1世紀以上たってからロンドンで出版された本に初めて出てくるという。……
田中教授は最近、TV番組「トリビアの泉」から取材を受けた。ガリレオの名言が創作だったことに、我々としては「へぇ~」と言いたくなるが、科学史家にすれば、そんな事実も知らないことが「へぇ~」だ。
(朝日新聞「be on Saturday」 2004.1.24(土) 2面)
まさにあのサイトの中で言われていた通りだった。というか、サイトの管理人がこの号を読んでサイトに載せたのだろう。
それにしてもこの教授も放送前に内容をバラしてしまうとはなかなかうかつだ。科学史家は我々が知らないことに「へぇ~」かもしれないが、こちらからすればまだ放送していない内容を言っちゃいけないことを知らないのに「へぇ~」である。
とはいえ、今わかっている事実は「取材を受けた専門家が『be』でその内容を話した」ことと「番組では『ガリレオの名言は創作』という内容は放送されなかった」ことだけであり、本当に「放送する予定だったのにバラしたせいでお蔵入りになった」のか、それとも予備として一応取材だけしておいたのか、番組の作り方を知らないのでなんとも言えないがそのあたりの真相はわからない。もしかしたら放送時期と「be」の発行日にズレがあり、専門家も「be」の記者も放送後に載るつもりで喋ったり書いたりしたのかもしれない。
とにもかくにも数年越しに裏付けが取れて感無量だった。面倒くさくても一つ一つ地道に当たっていって真相を見つける。1万個に1個あるかないかというあさりの真珠を探すために10万個食べたり、陸上トラックにカップラーメンの麺を1本ずつ貼りつけて長さを測ったり、桜の木をまるごと柵で囲って最後の1枚まで花びらを回収して数えたり、そんな調査ばかりしていた「トリビアの泉」から学んだことのひとつである。
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