ハマギバ・クロニクル
[ShortNote:2021.3.24]
ハマギバ、つまり横浜にいる柳葉敏郎の総称。彼は秋田生まれ秋田育ち恵比寿経由で秋田在住のはずなんですが、なぜか横浜が異常に似合います。ギバちゃんに似合う街ランキング第1位。横浜に住んだこともないのに名誉横浜市民に選びたくなる。というか私は一応今のところ横浜に関係があるので名誉市民を選出する権利があると思うんですよ。
クロニクルその1:螢(1989)
こないだの踊り子の話でも出した初主演映画。舞台が横浜です。恐らく踊り子にも横浜駅から乗ったのでしょう。とにかく「横浜のヤクザ」という語感が似合う。横浜といえば中華ですが、中華料理屋も似合う。柳葉敏郎を中華料理屋に入れると高確率で荒れるという法則があるのですが、それについては長くなるので別の機会にします。ここでは至って穏やかにお食事しています。白昼堂々ヤクザが出入りしている時点で穏やかではないという説もありますが。
謙ちゃんのアパートの近くの川にかかっているのが旭橋で、これは中区の日ノ出町にある橋なのですが、いかにも日ノ出町に住んでそうな感じがすごい。駅周辺ぐらいしか知りませんが似合うのはわかる。
クロニクルその2:Morocco 横浜愚連隊物語1&2(1996)
80年代から遡って戦後すぐの1945年、今度は横浜の愚連隊のボス。横浜は開国の港であり異国情緒が漂っているところも特徴のひとつですが、ここでは占領下の時代ということもありさらに異国感が強いです。
そんなホームタウン・横浜で暴れ回る華やかなリーダー・「モロッコの辰」。なんといっても喧嘩が鬼のように強い。たぶんギバキャラ史上最強なのではないでしょうか。なぜそう言えるかというと、ステゴロで米兵に勝っているからです。しかもけっこう余裕で。螢ではわりとボコられる側だったけどこちらではどちらかというとボコる側。
みんなの兄貴として慕われていて、愚連隊はヤクザと比べると上下関係がゆるいので仲良しな雰囲気もあって(デートの時仕事だってごまかして出ていくのをみんながニヤニヤして見送るシーンがかわいい)、でも想いを寄せる藤枝さん(演-岸本加世子)の前ではカッコつけてエレガントぶっちゃう。
辰ちゃんのハマっぽいポイントはまず英語を解するところ。そのコミュニケーション能力で進駐軍のジョニーという兵士と仲良くなります。既に述べている通り柳葉敏郎のかつてのニックネームも「ジョニー」でしたので、Wジョニーです。
そんな完璧な男ですが、実はこの時代死因第1位だった結核に侵されています。これは薬だと言ってレモンをかじるところに文学を感じる。ギバキャラ界の梶井基次郎。病状は確実に進行していき、密かに死への恐怖を抱えながらやはりこの時代大流行していたヒロポンに溺れたり、あんなに強いボスなのにトランプ占いが趣味だったり、我が子のための薬代を吐血の痕が残るハンカチに包んで人にあげてしまう優しさをもっていたり、粗暴さの裏に隠し持った繊細さがこの上なく美しい。今この瞬間に命を燃やし尽くしているような生き方をしていながら、レモンをかじるのも占いをするのも死に怯えるのも、自分には未来があると信じたいからなんですよね。愚連隊の時代も、恋に争いにと大騒ぎだった青春の日々も、藤枝さんとの愛も、そして自分自身の命さえも終わっていこうとしている運命への哀愁を背負いながら、行くことは叶わないであろう遠い異国の地(=モロッコ)を夢見る男に横浜の港はよく似合います。全国どこの港にもない横浜だけが持つ華やかさと切なさががっちりはまっていると思います。
クロニクルその3:まむしの兄弟(1997)
なんだかしんみりしてしまったので次はド派手で能天気なヤクザ屋さんのお話です。愛されバカをやらせたら天下一品な男柳葉敏郎の集大成です。褒め言葉ですよ。
弟分と一心同体でものすごくバカだけどものすごくまっすぐで人情に厚くて、死んだお母さんに似てる女性をすぐ好きになっちゃうという惚れてしまう情報が山下公園の港に停泊してる船の上で明かされるなどするまむしの兄貴の方・政さん。「あの男を死なせたら世界中の女に恨まれるよ」とまで言われるほどの世界遺産。ユネスコで保護すべき。
任侠映画×ヒップホップな劇伴の組み合わせも後半の倉庫でのアクションのたたみかけがテンションを上げてくれます。一番好きだったのは小麦粉の袋を撃って火をつけるところ。港の倉庫とかで戦うのいいですよね。何もかも似合いすぎていてもはや横浜はギバちゃんが暴れるために用意された街なのではと思えてきます。違いますよ。違うんですけどそう思ってしまいます。
何よりも一番びっくりするのが1997年なところ。踊る大捜査線と同じ年ですよ。考えられないんですけど。温度差がアフリカと北極ぐらいある。
クロニクルその4:ケイジとケンジ 所轄と地検の24時(2020)
ヤクザ→愚連隊→ヤクザと来ていきなり検事。「いくらなんでも極端すぎる」「中間とかはないのか」などのオーディエンスからの熱い声援を受け、横浜地検みなと支部・樫村武男支部長が颯爽とハマギバに着任しました。柳葉敏郎に横浜が似合うのはアウトローだからじゃなかったんですね。
みなとみらいが似合う。クイーンズスクエアで奥さんへのプレゼントとか買っててほしい。中華街に一軒行きつけだけど誰にも教えてないお店あってほしい。でも持丸さんだけはそのお店のことを知っててほしい。それなりに横浜の街で飲んだりするけど歓楽街には一切近寄らなかったらかわいい。奥さんとのデートコースに港の見える丘公園あってほしい。元町商店街の方からあの階段上って行くルートで。ベイスターズファンだったらいい。でも署長は巨人ファンとかでバチバチしてたらいい。ハマの支部長、無限に妄想できる。
クロニクル番外編:踊る大捜査線 THE MOVIE(1998)
室井さんは霞ヶ関ギバであり横浜とは一切関係ないかと思いきや一瞬だけ横浜にいます。それが身代金受け渡しのシーン。犯人が指定してきた場所が横浜ドリームランド(2002年閉園)という遊園地で、室井さんはその中に停めた車の中から捜査員に無線で指示を出します。一歩も車の外に出ませんが横浜にいることはいるわけです。
で、すごいのはこの横浜ドリームランド、前述の「螢」にも登場しています。謙ちゃんがヒロイン・麻子ちゃんにあるお願いをするシーンで。象徴的ではあるけれどもある意味別れのシーンなので決して楽しい情景ではない。そしてここでも室井さんは上層部にあれこれ口出しされた挙句犯人と接触できずに終わってしまいます。柳葉敏郎にとっては苦い思い出しかない遊園地かもしれません。もう横浜ドリームランドには近づかないでほしい。しかしもう閉園したのでトラウマは消え去った。大丈夫。
クロニクルおまけ:♪Yokohama, love sick 1/2+1/2(1990)
今度はギバちゃんの曲です。横浜が似合う人は横浜を歌っても合う。詞も曲もメロウで色っぽいけどどこか背伸びしてカッコつけているような雰囲気がある。ギバちゃんの声はところどころハスキーがかるときがあって、そこがまた大人になりかけている少年っぽさを醸し出しています。
・柳葉敏郎に似合うヨコハマ
ここからは完全にイマジネーションコーナーです。まずなんといってもハマギバのマストプレイス・中華街。
こういう雨上がりの裏路地が完全に似合う。「いそう」を通り越してもはや「いる」。追っ手と激しくチェイスしてほしい。手負いで。そしてネオンと提灯の明かりに照らされながら力つきたところを中華料理屋の美少女に介抱されてほしい。
こっちはちゃんとしてる方のギバちゃんが似合う日本大通り。みなと支部が所属する横浜地検もあります。探せばどこかで支部長がお茶してるかもしれない。
レトロな雰囲気もあるので昭和初期あたりの駆け出しの新聞記者とかでもいいかも。少年っぽいけどトラディショナルな大人の雰囲気もちゃんと似合うのが若いころのギバちゃんの良さ。トラディショナル&マリンスタイルが似合うから横浜が合うのかもしれない。
元町商店街でお買い物する山手のお嬢様と付き合って港の見える丘公園に行って気づかいのできるスマートな男であることを示そうと思ってばたばたして空回りしてくすくす笑われててほしい。
そして日本丸。船も似合う。
BGM:横浜プレイリスト。サザン&関係者で埋め尽くされそうになるのをなんとか抑えました。湘南エリアじゃないから油断してた。大トリは「Yokohama, love sick 1/2+1/2」です。これを除いて一番ハマギバに合うのは「恋人も濡れる街角」だと思うのですがやはり桑田佳祐の描く男をカッコイイと思うようにできている。愛だけが俺を迷わせる。「横浜リリー」も捨てがたい。これはぜひ演じてほしい。