推しCMの話番外編~クリネックス~
[ShortNote:2020.4.11]
(画像はイメージです)
・クリネックスティシュー(赤鬼篇/天使篇)
怖いCMというのは読んで字のごとく怖いものですが、CMの主役である商品/サービスが怖くする必要のあるものなのかどうかというのも重要なポイントです。例えばホラー映画やホラーゲームのCMはそもそも怖いものを宣伝するCMなので怖くて当然というか怖くなければおかしいです。怖くないCMにしておいて実際の映画やゲームの内容が死ぬほど怖かったら逆宣伝詐欺になってしまいます。あまりにやりすぎるとそれはそれでSIRENのようにクレームが来るかもしれませんが怖いもののCMは怖い、唐辛子を入れた料理は辛いぐらい自然なことです。しかし世の中には怖くする必要が1ミリもないにもかかわらずホラーのCMを軽く超えてしまうほど怖く仕上がっているCMがあり、これはその代表例です。
タイトルでわかる通りこのCMが宣伝するものはティッシュです。どこにでもある怖くもなんともないただの日用品です。明るく楽しい雰囲気にして「手ざわりがいい!」とか「いろいろ使える!」とか言っていればそれはそれで十分なはずです。ティッシュを必要としない人はほとんどいないので、「クリネックス」という有名なブランド名と品質をアピールすれば視聴者は買ってくれたはずです。それがこのCMです。
赤鬼篇は赤い子鬼に扮した子どもと女優の松坂慶子さん、天使篇は天使に扮した子どもが出ています。子どもと美女、つまり人の目を惹きつける法則の3B(Baby、Beauty、Beast)のうち2つのBが入っておりここでも素材は王道のはずですが、問題はその内容です。
子どもががティッシュを延々と引き抜いて空に放り投げ、松坂さんがそれを見守っています。BGMの「平和な日々に」(赤鬼篇)が流れる中「クリネックスティシューをお使いですか」という謎のナレーションが入って終わります。クリネックスティシューをお使いかどうかは見ればわかるしただひたすら放り投げているのでただの無駄遣いです。10年前に見て以来怖すぎて一度も見返していないので内容が合ってるかどうかわかりませんが、だいたいこんな感じだったと思います。まったくもって意味不明です。あまりの恐ろしさに「呪われたCM」という都市伝説までできてしまいました。
不気味すぎてティッシュという商品の何を伝えたいのかさっぱりわかりません。見た直後はそこらへんにあるクリネックスが怖くて直視できなかったのでむしろクリネックスのネガキャンなのではという気すらします。
どっちも不気味ですが個人的には怖さの面では天使篇の圧勝です。BGMがなんだかよくわからず(ちゃんとした楽曲みたいですが)最後のナレーションの時に逆再生か何かのようななんとも形容しがたい変な音が鳴ります。1985年の映像なので劣化もあるかもしれませんが、この音がとにかく怖い。子鬼は扮装感が強いしどことなくコミカルなイメージもあるけど天使はなんとなく本物なんじゃないか? という気分にさせられます。いかにも怖い存在の鬼よりもかわいらしくて優しげな天使の方が怖い。深いですね。もし赤鬼篇だけ見て「なんだ、そんなに怖くないじゃん」と思ったなら天使篇も見てみることをおすすめします。
ということでそもそもCMなのかどうかもわからない、「全然怖くないティッシュを使って一番怖い映像作った奴が優勝」コンテストのグランプリ作品としか思えない映像ですが、なんでティッシュのCMがこうなってしまったのか考えてみました。
①とにかくインパクトを残そうとした説
昭和の時代は今よりはるかに怖いCMが多いんですが、苦情を気にするよりもとにかくインパクトの強いCMをみたいな思想もあったのではないかと思われます。特にティッシュのような日用品は派手な新機能や斬新なデザインを持っているわけではないので、普通にやったら埋没すると考えて印象に残るCMを作ろうとしたのかもしれません。印象に残りすぎですが。
②そもそも感性がズレていた説
CM制作者の方々に大変失礼な物言いなのですが、そもそも制作陣に「怖いCMを作ってやろう」という意図はまったくなく、これが本当に「かわいい」「幻想的」だと思って作っておりむしろ怖いだの不気味だの見ると呪われるだの言われることは予想外だったという説です。天使の方はもともと70年代からクリネックスのCMに出ていて、そっちのCMは普通にかわいらしいので今回も同じような感じで作ったつもりだったのかもしれません。
③特に何も考えていなかった説
また失礼ですが「小鬼とか出てきたら面白いんじゃないですか」ぐらいのノリで決まった説。というかこのくらい軽いノリでやってたことにしておかないと怖すぎる。深刻な感じで三日三晩寝ずに協議してできたのがあれだったらどうしよう。
④アンチクリネックスの陰謀説
そんなわけはないけどそうなんじゃないかと思ってしまう。クリネックスが大嫌いで大嫌いで仕方なくてクリネックスを使うと呪われるぐらいのイメージにしてやりたかった人の陰謀かこっそり社内に潜入していたライバルティッシュメーカーのスパイの仕業か何かじゃないと納得できないくらいの怖さ。この説の立場を取ってあの映像を思い返すと「陰謀なんだからこんなに怖くても仕方ないな!」という気持ちになるので、消化できない現実をどうにか飲み込んで自分を納得させるのには陰謀論って便利だなあと思いました。
(今のクリネックスのCMガッキーで本当によかった)