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「ダイヤモンドの鷹」は何がダメだったのか?

1988年、南海からダイエーに買収され「福岡ダイエーホークス」となった時に制定された「球団歌」、「ダイヤモンドの鷹」(作詞/阿久悠、作曲/宇崎竜童、歌/竜童組)。しかし世に出た瞬間からファンや選手・監督からの人気も球団歌としての地位も低空飛行で、球団側もわりと早い段階で「公式応援歌」の地位にあった「いざゆけ若鷹軍団」の方をガンガン流し始め、親会社のダイエーも売り場でエンドレスリピートし野球を知らない主婦にすら圧倒的な知名度を誇りお父さんたちのカラオケでも「ダイエー」の部分を自社の名前に変えて歌われ福岡を代表する曲にまで成長した一方で、こちらは試合前の練習や最終戦セレモニーくらいでしか流れなくなり、ついに球団名が「福岡ソフトバンクホークスとなった2005年に「ソフトバンクになっても使い続けてほしい」というファンからの熱い支持が寄せられた「いざゆけ若鷹軍団」に球団歌の座を奪われ、ひっそりと役目を終えた。

なぜこれほどまでに「ダイヤモンドの鷹」は「いざゆけ若鷹軍団」と差がついてしまったのか。先に言っておくと、曲としてはカッコいいし好きではある。あるのだが、「球団歌」として見た場合欠点がいくつもある。全然ダメと言って良い。


ダメポイントその①覚えにくい

ただ、選手には戸惑い気味。聞くのも歌うのも演歌専門の山内孝徳投手の反応は「ナウすぎて、ついていけない」。杉浦監督も「すぐには覚えられないなあ」と苦笑い。

https://web.archive.org/web/20080120220029/https://www.sponichi.co.jp/baseball/special/calender/calender_january/KFullNormal20071226151.html

これらのコメントの通り、「ダイヤ〜」はこれまでの軍歌マーチ調の球団歌とは全く異なるロックでファンクなリズムだったのだが、このせいでメロディがめちゃくちゃ覚えづらい。先述したように曲としては好きなので何十回も聴いているはずなのだが、それでもさあ歌ってくださいと言われたら自信がない。こういうファンがみんなで歌うような球団の歌は校歌などと同じように「覚えやすい」ことが絶対条件である。長く支持されているものは一度聴いたらもう歌えるくらい覚えやすい。それこそ先代球団歌「南海ホークスの歌」とか。誰でも歌える。近鉄の「炎えろ!近鉄バファローズ」なんて一度どころか一度目聴いてる途中で歌えるようになった。七五調のリズムも重要である。長く歌い継がれてきた曲にマーチ調・七五調が多いのはそういうことだろう。歴史があるものには歴史を維持できるだけの理由がある。球団歌にファンクとかいらないのである。

その後から我らが千葉ロッテマリーンズの「We Love Marines」やオリックス・バファローズの「SKY」などポップ寄りな球団歌も出てきて受け入れられているが、そういうのとも違う。同じポップス風でもWe〜もSKYもやはり「覚えやすい」という基本条件はちゃんと押さえられている。

ダメポイントその②アカペラでは成り立たない

「ダイヤ~」はボーカルだけでなく、ギターやらドラムやらベースやらバックの演奏も込みで成り立っている。一般のポップスやロックならそれが普通だが、球団歌はそれだとちょっとまずい。例えば阪神タイガースの歌(六甲おろし)なら、そこらへんのおじさんが居酒屋でダミ声で歌ってもちゃんと「六甲おろし」として成立する。少々音程が外れていても問題はない。伴奏つきで正確な音程で歌ったCD音源でないと「六甲おろし」に聞こえないということはない。なんといってもあのオマリーの六甲おろしですら人の耳は「六甲おろし」として認識できるのだ。伴奏でごまかすことのないメロディ自体の強さがある証拠だ。①で述べた「覚えやすさ」と合わせ、こういうジャンルの歌は個々の音楽的能力に依拠するものであってはいけない。「ダイヤ〜」は宇崎竜童が歌い上げているから歌として成立するのであって、オマリー級のアレが歌ったら目も当てられないことになるだろう。

ダメポイントその③歌うところに球団名が含まれていない

私だけだったら申し訳ないが、ファンはやはり自分の好きなチームの名前をちゃんと歌いたいものだと思う。We Love~も「千葉ロッテマリーンズ」のところが一番気持ちいい。他の球団の曲もだいたいチーム名のところが一番高揚する。ここが「ダイヤ~」に欠けている。「阿久悠、わかってないな……」とすら思った。やっぱり「Fukuoka Daiei Hawks♪」(なんかシャレた女性コーラス)じゃダメなのだ。ヤクルトの東京音頭のように広く浸透して盛り上がる既存曲ならともかく。これでは「いざゆけ~」のように「ダイエー」を自社名に変えて歌うという受容のされ方は望めない。

ダメポイントその④別に歌いたくならない

これを言ったらおしまいだと思うが、聴いていても特に歌いたい気持ちにはならない。座って聴く歌。ラッキー7でこれが流れても黙って聴くと思う。少し前なら都合がよかったかもしれない。

このような「ダイヤ〜」に比べて、「いざゆけ~」は先に挙げた条件を全部クリアしている。キャッチーだし、ちゃんと七五調だし、「ダイエー(ソフトバンク)ホークス」をきちんと歌いこんている。やっぱり球団歌にファンクとかナウとかいらないのだ。老若男女に愛される文化としての野球の歌はこうでないと。「ダイヤ〜」は確かにカッコいい曲ではあるが、やはり2020年代の今聴くと古臭いというか、「いかにも80年代だなぁ」と思ってしまう。対する「いざゆけ~」はアレンジを加えながら使われているが、今聴いてもメロディに古さは感じない。昔ながらの作法を用いた曲と今時の手法を取り入れた曲、時として後者の方があっという間に懐かしいものになってしまうことがある。


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