2024年私のホラー映画ベスト 10(ホラー・スラッシャー・スプラッタ部門)
今年はホラー映画を追い続けていく中で息切れのない楽しい年だった。
KADOKAWAさんの「第 1 回日本ホラー映画大賞」というコンペティションに始まり、伝説級と言える名作の続編や前日譚、個性豊かなアジアンホラーが大手シネコンに進出……など、規模の大小を問わず常に盛り上がりを感じながら常に映画館に足を運びまくっていた記憶しか無い。
待望の作品の公開に駆けつけ、ロビーでフライヤーを手にして先の楽しみが増えていく。本当にこの繰り返しだったように思う。
カリコレ無くなるのは悲しいけれど、未体験ゾーン2025の報は既に公開されているので、来年もミニシアターに足しげく通います。
2024年も残すところあとわずか。
個人的には、年内にホラー映画を観に行くスケジュールは全て終了したので、少し気が早いが劇場鑑賞した約45本のホラー映画(Filmarksのジャンル表記がホラーの作品)のうち、今年の個人的ベストホラー映画と、各種クセの強さで心に残った特別な作品(俺デミー賞特別部門)を書いて、1年のホラー映画活動の締めくくりとしたい。
(今年はホラー映画以外にも「出会えて良かった!」映画がたくさんあったので、そちらは記事を分けてまた後日)
Filmarksに私がつけた★点数の高さそのままの反映ではなく、映画前後の思い入れや余韻も含んだ並びになっているのでご了承下さい。
※記事の性質上ネタバレを含みます。
※本記事は評論ではなく、私の個人的なお気に入りが基準である、というのを理解できない方は閲覧をオススメしません。他者の好き嫌いを批評する時に自分の感想を自分の言葉を尽くして語ることをせず、ただ多数派や賞レースといった「長いもの」に巻かれて
「オスカー獲った映画好きじゃない人間は見る目ない」
「でも興収が証明してる。残念だったな(笑)」
のような、その他大勢の威を借る目線で(賞レース論ではなく)一個人の感想を否定して強者になったと認識し、相対的映画評しか持たない人は、ご自身と同じ考えのプロの批評家さんによる映画批評雑誌や動画をオススメします(まず現実的に、賞や興行収入と映画の質は必ずしもイコールではない事を知らない時点で映画文化よりTVの方が向いてますね)。
■ベスト10『オーメン ザ・ファースト』
悪魔の子「ダミアン」出生前の因縁の物語。
一作目にあった墓の中のヤマイヌに関して等、やや無理矢理な辻褄合わせは感じられたが、光と影の表裏一体性から最悪なタブーで描き上げた前日譚としてストレートで面白かった。
元祖『オーメン』は視覚的・残酷度的にはホラー映画としてかなりもの静かな部類に入る(所々に過激な描写はあるがそれが連続するわけではなく「ダミアン何だか怖いな」のイヤな不穏さで空気を保定する感じ)。
それに対して本作は凄まじい直接的スプラッタ、性暴力、精神崩壊、悪魔的陰謀等をモロに叩きつけてくるので「オーメンらしくないな」といった印象のある前日譚がファンの賛否を分けそう。
私はこの本作の作風の方が好きな要素の詰め合わせだったため、かなりお気に入りでした。ただ年齢制限下げてまで、作品の象徴と言っていい肝心なシーンにモザイクつけた日本の公開体制は疑問。オーメン観たがる未知数の(いても配給会社として考えた時商業的・映画への期待層的なプラスがそう見込まれないであろう)子供より、シリーズを観てきた大人にターゲットを合わせて欲しかった。
■ベスト9 『みなに幸あれ』
幸福と不幸とを、ある種の自己責任論にあるような“牌の取り合い”で捉える理論を日本的に掘り下げた奇怪ホラー。
KADOKAWAホラー映画大賞作品。
日本の映画が好む「ボソボソ喋りの台詞回しリアリティ」と「狭い世界でのネクラないし陰湿な人間模様」と「ナンセンス波状攻撃による個性出し」が全て盛り込まれている為、これらがとにかく苦手な私は雰囲気そのものに一瞬身構えたが、それらを駆使してわけの分からなすぎる世界を構築し、しかし所々に既存の理屈や民間信仰にカスるものを塗りたくって独自のシュールな恐怖を確立した絶妙なバランスが好き。
泥臭い力押しで奇妙さと生理的嫌悪を重ねていく、浮世離れした、一歩間違えばサムくなってしまいそうな雰囲気を、古川琴音さんの人間味ある演技がギリギリで「人間ドラマ」につなぎとめていた。
■ベスト8 『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』
著作権切れの『Winnie the Pooh』を悪趣味イジリするホラースプラッタの続編。
プーじゃなくてもいいし、プーらしさ少なすぎるだろ!と誰もが思った前作から、かなり誠実な方向にパンプアップした名作。
シルエットで区別のつかない小太り二人、でしかなかったプーとピグレットという殺人鬼を刷新、著作権切れにくわわったティガー等のキャラクターが増加。
中でも飛行可能で知能が高い「梟(オウル)」の存在が映画の水準を爆上げしている。
プー達が原作で行う、
“橋から川上に枝を落として、川下側に見に行き誰の落とした枝が先に流れてくるかのゲーム”
を、人間の脚で行うシーンがめちゃくちゃお気に入り。ちゃんと原作イジりができてるじゃないか!!!!
ちなみに
「プー達が人体実験の産物って設定を2作目で急に出してきた」
的に言ってる人がかなり多かったが、1作目の開幕冒頭からちゃんと「異種交配」って設定は一応ある。
■ベスト7 『エイリアン:ロムルス』
伝説的SFホラー『エイリアン』1作目直後でありながら『プロメテウス』等エイリアン全シリーズそれぞれに目配せのあるイコンが多数散りばめられ、それでいて単体の作品としてエンタメ度が高い傑作。
CGで後から合成するのではなく、模型等実物を用いたSFXの雄弁な存在感が光り、CGはCGの持ち味である“VFXでしか出来ない表現”の底力で二馬力の映像表現が共存しているのも素晴らしい。
昔からあるゼノモーフ(エイリアン)の描写で、たとえばあれをCGで作ったとして
「糸を引く粘液」はCGで作っても「その粘液が滴りながらブルンルン……って揺れている様」は絶対深追いして作られない
とずっと私は思っていて、そこにある質量が持つ絵力を再確認。
ただ、アンドロイドに「アンディ」ってネーミングはド直球すぎて、主人公かその親か分からないが名付け親の感性に驚くわ(笑)。
■ベスト6 『怨泊 ONPAKU』
日本・香港合作の香港ホラー。
独特の複雑性にエキセントリックな残酷描写やストーリーで唯一無二の映画を手がける藤井秀剛監督、トラウマ級香港スプラッタ『ドリーム・ホーム』のジョシー・ホーさん主演。
日本を訪れた香港の女性が、右も左も分からない中「民泊」への滞在を余儀なくされる。
異文化に放り込まれた不安さ(によって見るもの全てが怖く感じる)の中で、彼女の因果と運命が露呈し、やがて狂気の犠牲となる目まぐるしい爆発力。観ていて、呆然と呑み込まれた。
ビビッドな色使いや演出、序盤のシラコを食べるシーンの伏線等好きな箇所が多い。
クールジャパンに誇りを刺激されて浮かれながら、その実海外資本に買い叩かれる現代日本。
その根底に、手をこまねく“もしも”が存在したら……?
荒唐無稽なはずなのに、じっとりリアルに怖く、何処か痛快。これは現代を舞台とした東京の……いや、「TOKYOの怪談」だ。
■ベスト5 『SAW X』
エイリアンやビートルジュース同様、「第1作のその後」を描く。
シリーズがまだ“残虐大喜利”一辺倒でなかった頃の主要キャラクターであるジグソウとアマンダ側の視点から「最前列でゲームを観る」体験を観客に与えた、『ソウ』ファンには嬉しい作品だった。
舞台となるメキシコにて強調されるアステカの神々や遺跡も象徴的。
“生贄の儀式”と聞くと現代人は
「人命軽視の野蛮な考え」
だと捉えがちだが、そうではない。
「人命が尊いと考えていたからこそ、その尊いものを差し出す事で、人命と同じくらい尊い恵みが神からもたらしてもらえる」
という風習なのだ。
命をかけて流す血は、生命の尊さとイコール。これはジグソウの考えに非常に近いのではないだろうか。
ゲームの装置は「脚を切断するノコギリ」という初代『ソウ』に重なるものもあり、やがてラストゲームで「See-Saw」へ。
ただ痛そうさを見せつけるだけではない、装置それぞれのこだわりや、出てきた体液から不純物を濾すワンバンみたいな描写の作り込みもかなり高ポイント。
シナリオにやや宙ぶらりん感は拭えないが、新作が作られているとも聞いているので、この路線で出るならこれからも『ソウ』が楽しみになる。
■ベスト4『バーン・クルア 凶愛の家』
タイのホラー映画。
家を貸す者、借りた者の間に渦巻く闇と、その起源となる因果、過去を描く謎解きホラー。
呪術や儀式、信仰等の得体の知れないオカルティックな恐怖と、その集団に属する者達のいわゆるヒトコワ的恐怖が上手くマッチ。
それまで住んでいた家を人に貸し、引っ越した先で、異変や借り主の行動に恐怖を募らせる女性を最初の主人公に据え、彼女の目線で恐怖を体験させていきながら、夫、宗教団体の老婆と、複数の人物に物語の視点をシフトする事で観客に謎解きを見せていく構成が楽しい。
この手法により複雑に入り組んだ真相を怖がりながらしっかり理解できるエンタメとしての地力が素敵。
恐怖を乗り越えた先にあるエンディングの余韻も、ほろ苦く忘れられない。
■ベスト3 『デッドストリーム』
悪質ないたずらやホームレスいじめを配信し垢BAN常習者の迷惑系配信者が、スポンサーに拾われ起死回生の企画へ。
それは、心霊スポットへのたった一人の泊まり込み生配信。
チープなカメラ、コメント欄等いわゆる生配信動画の体裁をとりながら進んでいくホラーなのだが、そんじょそこらの「配信系肝試しホラー」とは全てにおいてわけが違う(笑)。
配信者のどうしようもなさ、臆病さが終始ろくでもない面白さを醸し出す。
しかも、応援したいのではなく、非常識な目立ちたがり屋を見て
「こんな奴、一度ひどい目に遭っちゃえよ」
と思ってしまいそうになるネット特有のやや暴力的な呆れ感情を掻き立てられる巧みさ。
そこにアクシデント的に現れる熱狂的ファン乱入や、コメント欄の暴言、イキりハンドルネームキッズ、有識者降臨と、おそらく私よりも生配信文化に詳しい人・世代であれば更に笑えたり、ゾッとできる要素盛りだくさん。
オバケ(実体あり)が怖すぎて恐慌状態になり、持ってたカメラをオバケに装備して逃げ出す→以降オバケ目線のライブ配信、というわけの分からない一連のシークエンスだけでもホラー映画の発明すぎて激ヤバ。
低予算・小規模撮影に甘えず逃げず言い訳せずといった、監督(主人公配信者役)の骨の太い職人魂が光る。傑作。
■ベスト2 『テリファー 聖夜の悪夢』
よくぞここまで!!!!
この一言に尽きる。
それはアート・ザ・クラウンのやり口の過激さだけの話ではない。
ゴアスラッシャーマニア間での語り草に過ぎなかった『テリファー』が、アマプラに現れてノコギリ描写で知名度が上がったあたりでも驚いていたが、昨年2作目が日本全国規模で公開(しかもファンタジー描写山盛りの2時間超え)で更に驚き、今年はまたもファンタジーありの2時間超えに、パンフレットや各種「アート・ザ・クラウン」グッズも売り切れ続出と、驚きの連発だ。
『テリファー』の勢いはとどまるところを知らない。
一般大衆に「怖いもの見たさ(話題性)」やキャッチーなキャラクターからホラーシリーズが支持される現象は何度か見てきたが、正直ここまでの悪趣味系肉体破壊映画が市民権を得るようになるとは予想外の現象だ。
映画3作目は今までにも増してアイデア炸裂の残虐描写と、2作目の主人公やファンタジー的な要素が対峙。
ホラー映画の得意技である名作オマージュもサービスされ、『シャイニング』の裂け目ニコルソンの他「ネズミの尻を炙りけしかけて人体破壊する」は、『エピタフ』という残虐映画のオマージュと思われる(んだけど、合ってるかな??)。
悪ふざけと最悪なゴアアイデアで人々を殺しまくる物言わぬ白黒ピエロ・アートは、サンタ服を着たり目をかっ開いたりと仕草のキモカワさがますますエスカレート。
個人的にだが、ちょうど直前に『人体の構造について』という医療ドキュメンタリー映画で無修正手術シーンを観ていた為、相乗効果として人体破壊特殊メイクの「リアルさ」と「誇張」それぞれの妙を噛みしめられたのも、特殊メイク好きとしては良い体験だった。
(ゴアの誇張に対して、特殊メイク技師でもあるレオーネ監督の考え方にめちゃくちゃ共感できる所があった。良いパンフレットです)
物言わぬピエロ、という理解不能で不敵な殺人鬼像が好きなだけに、今回おとものヴィクトリアに喋らせたのがちょい残念だったかも。
(Wikipediaにある、リトルペイルガールが最初の犠牲者、という設定の明言された公式初出をご存知の方がいたら教えて下さい)
■ベスト1 『サユリ』
今年、個人的に唯一「一本のエンタメホラー」として完全無欠に近かった邦画。
最近のJホラーが、
・演者ファン集客頼み低クオリティ脚本
・考察論客狙い
・不透明で難解な作家性激強
のどれかに属していると断言できる中で、
演者の演技がしっかりしていて魅力を活かし、面白い脚本で、観客の誰もにストーリーとメッセージと種明かしを提供し、監督の色が強いながらも明朗である
というキャスト陣の素晴らしさ、白石晃士監督の手腕の素晴らしさが圧倒的にパワフルかつ映画として、ホラーエンタメとして誠実。
原作漫画を読んだことが無いのだが、オバケである「サユリ」の虐待・殺害被害者である設定は白石監督による脚色だそうで、ここに最近の“裁かれない犯罪者・声なき被害者”に目を向ける監督の意向が色濃い。
しかし、亡霊であるサユリが
「少女(性的虐待を受けた時の姿)」
「太った若者(家族に殺害された時の姿)」
の2つの姿を見せる事で、映画として監督の脚色がしっかり骨格を成す。
虐待と殺害で、サユリの魂は“二度殺された”のだと。
作家性を乗せたいだけの既存のキャラクター改変では決して無いと私には思えた。
そこに、幽霊vs罰当たりメンタル&物理、という作品の特色。ここに、監督が自作で確立してきた要素がベストマッチ。
問題提起と勇気と、救いの種のような声掛けを、何より大きな恐怖と熱狂で包んで観るものに投げかける。
笑いにも、涙にも、この映画体験の全てにエンタメ性と現実的な精神性を感じられた。
私の2024年ベストホラーです!
(次回の記事は、続けて2024年ホラー映画の「クセ強忘れられない作品達」等を書きます。よろしければまた!)