【本】阿部真大『会社のなかの「仕事」社会のなかの「仕事」~資本主義経済下の職業の考え方』
なぜこの本を手にとったか?
「終身雇用」「年功賃金」「企業別組合」が特徴的な日本の雇用制度の土台には「メンバーシップ型雇用」があります。
ひとつの職種のプロになるのではなく、同じ会社の人事や営業などさまざまな職種を経験しながら、その会社のプロになる、のが「メンバーシップ型雇用」。
皆が同じ方向をむいて一丸となり、日本の高度成長期を支えるのには絶大なる力を発揮しましたが、人の考え方も環境も多様になっている現代とはあちらこちらでひずみが出てきています。
やりがい搾取の蔓延、カスタマーハラスメント、なくならない「超」長時間労働、企業文化の硬直性。
それらを解決するためには、仕事を、会社などの「組織」とは別に「社会」のなかに位置づけ直す必要がある、それが「職業」の本来的なあり方である、と説くのがこの本。
本屋でみかけ、現代の混沌と解く鍵のひとつがありそうだと思い、読んでみました。
この本で得たもの
1.自分の仕事を会社という組織のなかだけでなく、「ユーモア」などを利用して社会のなかで位置付け直せるようにする=やりがい搾取が見える化できる
2.組織で働くうち、人は「組織人」になっていくので、人を組織の文化に染め上げないようにすることこそマネジメントの重要な機能
3.社会を変えるのは、私たちひとりひとりから
1について、著者はまず「お客様ファースト」などの掛け声をもとに、過剰な顧客サービスのインフレが起こっており、客室乗務員を「フライト中のなんでもやさん」とみなすようなカスタマーが生まれ、カスタマーハラスメントにつながっている現状を示します。
そんな現状を改善するためには、「この職業はどの仕事をどこまでやるかに対して、個別の企業にとどまらない、『社会的な合意』を形成していく必要がある」というのが著者の意見です。
これが日本においてあまりできていないのは、日本の雇用慣行が、職種ごとのジョブ型ではなく、その組織のなかのなんでも屋であるメンバーシップ型にあることと、関係ないとは思えません。
きちんと相手の仕事の中核と範囲を認識して尊重すること。
それは、私も社会の成熟につながると思います。
2.人はほっておくと「組織人」になってしまうからそうならないよう、組織のもつ引力から働くひとを引き離す「脱―組織のマネジメント」について、著者は自身が研究者である特性から、サバティカル制度をあげています。
「研究がうまく進まないとき、研究以外の仕事にやたらと精を出し、自らの「職業」を忘れがちな私に対して、定期的に研究者であることを思い出させてくれる本学(著者の所属する甲南大学)の諸制度によって、私は研究者として研鑽を重ねることができている(本書もその制度のひとつ、サバティカル制度の賜である)。
組織人濃度が高くなりすぎてしまうと、池井戸潤の半沢直樹シリーズ等の悪役のように、人を人格のある人と扱うのではなく、自分自身も人格ある個人としてではなくふるまうような状況が生まれる可能性があります。
これは、戦前の日本の軍部等にもあてはまる話なのではないでしょうか。
そこで、自分を組織の仕事から切り離し、社会の仕事をしているという意識をもつため、著者はリカレント教育や、パートタイム田舎就労という方法を提案しています。
ここには今主流のリスキリングも含まれるのではないでしょうか。
そして最後の3について。
コロナ禍になってテレワークは広がりましたが、「オンライン朝礼」等のメンバーシップ型雇用の慣行はそのままで、育児や介護をしている女性の働き方は楽になるどころか「テレワークなのに保育園に預けるの?」等逆風もあった、という話から、著者は、旧来の古いやり方を変えるのは、「そんなやり方はだめだ!」という否定や、コロナ禍等の外圧ではだめだと述べます。
旧来の組織のなかにいる個人個人が、それぞれに違和感を持ち、サバティカル制度やパートタイム田舎就労等の体験を通して、自分の仕事を組織の仕事ではなく社会の仕事をして位置づけていく。
たしかに、そうすることで着実に変えていけるものはありそうです。
まずは、自分から。
著者の「元気な人はもっと元気に、そうでない人はゆるく生きられる社会」が理想の社会だという意見に、私も賛同します。
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