働き方はデロゲーションからオプトアウトへ?note778日目
皆さんは、働くことについて定める法である労働基準法では、労働時間は、1日8時間、週40時間と定められていることを知っていますか?
このように、労働基準法では、「労働させてはならない」と明確に禁止の定めがあります。
禁止されていると聞くと、疑問に思われることがあると思います。
「えっ、じゃあ、なんで8時間をこえて働く日があるのだろう。法律をやぶっていることになるのかな?」
ほとんどの場合は、だいじょうぶ。
法律をやぶっているわけではないので、安心してください。
1.いま残業を可能にしているのはデロゲーション
実は、労働基準法では、第32条で「〜てはならない」と労働時間を制限しながらも、その抜け道を用意しているのです。
それが、俗に「サブロク協定」といわれる届出のもととなるこの条文です。
要するに、労働基準法では、第32条で労働時間の上限を定めているけれども、第36条で、「こうすれば労働時間を延長できますよ」という抜け道を用意しているわけです。
こういったやりかたを、「デロゲーション(Derogation)」といいます。
法律は中央集権的な一律なもののため、現場の多様化にたいしては硬直的です。
そこで、現場に合わせるためにカスタマイズが必要になります。
この、「規制はきつすぎるから、もっと柔軟に法律の定める基準を下回ってもよい」という余地を認めることを、法からの逸脱を認めるという意味で、デロゲーションと呼ぶのです。
このデロゲーションは、決まったルールに対しての免罰的な効果を、集団に対してもたらします。
たとえば、一緒の職場で働いているメンバーが10人いるとして、その事業場で、労働者も合意してサブロク協定を出せば、その10人は皆、労働基準法第32条で決めた1日8時間、週40時間という労働時間の上限を超えることが可能になるのです。
ですが、いま、一緒の職場で働くメンバー全員が、同じ労働条件で働いているという職場はどのくらいあるでしょうか?
なかには、育児や介護で短時間勤務の人がいたり、パート社員で5時間勤務という人もいるでしょう。
そうでなくても、そもそもそんなに残業なんてしたくない、自分の時間が欲しい、という人も増えているかもしれません。
あちらこちらで多様性と言われますが、いまの労働基準法第36条のデロゲーションは、法からの逸脱なはずなのに、個々の多様性を一律に包摂した仕組みになっています。
2.未来の働き方は個々でオプトアウト?
一方、EUでは、日本と同じように労働時間の上限規制はありますが、そのルールの適用を外すのには、「オプトアウト」という仕組みが使われています。
目的を達成する義務を負いつつ、その方法や形式は各加盟国にゆだねられている「EU指令」という指針がありますが、そのなかに、労働者個人の同意に基づき、週48時間労働などを適用しないことを認める「オプトアウト」の条項があるのです。
日本でも、これからますます多様性がすすみます。
労働力人口の減少も確実な世の中、人手不足が続くようになれば、これまでのように、会社が会社の都合で労働者を一律に残業させて働かせようという風潮は、変わらざるを得ません。
となると、労働者が、自分の業務に責任を持ち、この日は残業することが必要だから残業する、と、自由な意思で決めて残業する、「オプトアウト式」のほうが、しっくりくるようになるのではないでしょうか?
日本の当たり前は、世界の当たり前ではない。
これからの働き方を考えるうえでは、そういったこれまでの常識からの脱却がますます必要になっていくでしょう。