配偶者の収入の壁はふたつ
年末調整の季節です。
年末調整で私たち会社員が手続きする申告をすべてあげると、以下のとおり。
「扶養控除等申告書」年始に出しているもの、異動があった場合は「異動申告書」
「基礎控除申告書」年末調整をする人は全員
「配偶者控除等申告書」配偶者控除を受ける人
「保険料控除申告書」生命保険料・地震保険料等で控除を受ける人
「住宅借入金等特別控除申告書」住宅を購入し、住宅借入金等特別控除を受ける人
「所得金額調整控除申告書」一定以上の収入があり基礎控除は受けられないが一定の扶養家族がいる人
今日はこのうち「配偶者控除」の変化について、今年の税制調査会資料をまじえ、みてみたいと思います。
1.税金の壁はなくなりつつある
配偶者控除は、平成29年(2017年)に大きく変わりました。
所得税の対象となる収入から差し引ける配偶者控除の金額、最大38万円を受けられる条件が、配偶者の収入103万円未満から、150万円まで拡大されたのです(本人の収入が一定以下の場合)。
つまり、それまで「年収を103万円までにおさえないと税金が高くなるので困る」ということで、12月収入を調整していた人もいるかもしれませんが、この改正以降はそれが150万円までになりました。
結果、「103万円の壁」は、以下のグラフのとおり、税金の上ではなくなったことになります。
それならば、年末調整で「配偶者控除」よりも「配偶者特別控除」を利用する人がもっと増えてもいいはずです。
ですが、実際年末調整の処理をしていると、配偶者控除のほうを利用している人がまだまだいます。
なぜでしょうか?
実は、もうひとつ、税金ではない壁があるのです。
それが、給与の扶養手当の壁です。
2.給与にも手当の壁がある
給与には、「扶養手当」「家族手当」という手当がある場合があります。
これは、社員に、収入が少なく扶養すべき家族がいる場合に、会社が出す手当です。
話としては逆になりますが、扶養される家族は、扶養されるからには、収入が少ない必要があります。
税金もそういう考えで、扶養親族の対象とするためには収入制限があります。
さきほどの配偶者控除の150万円以下や、配偶者以外の扶養親族の103万円以下などがそれです。
そして、扶養手当にもその収入制限があります。
税金のルールは法律で決まっていますが、給与の扶養手当のルールは、会社の制度、就業規則などで定められています。
その扶養手当を支給する収入の目安を、103万円以下とするところがまだまだ多いのです。
これが「給与の壁」です。
実際に税制調査会の資料の数字を見てみると、「家族手当」がある会社は令和3年で約4社に1社。
そのうち、配偶者を家族手当の対象にしている場合の、配偶者の収入制限は、令和3年で45%、ほぼ半数です。
家族手当の金額の平均は、令和3年の実績で月に約12,000円。
たとえば、配偶者が150万円ぎりぎりまで働いて、配偶者控除の最大38万円を受けた場合、年収500万円の社員だと、配偶者控除により返ってくる税金は76,000円(38万円✕年収500万円の所得税率20%)。
とすると、家族手当を12,000円✕12ヶ月=144,000円もらったほうがお得です。
つまり、税金が安くなるぶんよりも、家族手当のほうが金額が高いのです。
ですが、家族手当を103万円以内としている会社の割合は、平成30年には5割を超えていましたが、じわじわ減ってきています。
それは、この配偶者の収入の壁がじわじわ変わってきているということ。
会社が家族手当等のルールを決めている就業規則は、内容を変更したら、従業員に周知しなければいけないことになっています。
会社の制度に変更があるという知らせがあったら、「家族手当」はまず確認すべきところ。
注意していきましょう。