解雇事件は大部分が訴訟にならず、なっても4分の3が和解〜JILPT調査研究
労働政策研究・研修機構が、解雇による会社と労働者の争いについて、大部分が訴訟とならず、なっても和解がほとんどであるという、興味深い調査結果を公表しています。
調査結果は、JILPTリサーチアイ第84回として、「解雇等無効判決後における復職状況」という記事で紹介されています。
執筆者は、『ジョブ型雇用社会とは何か』などで知られる、労働政策研究・研修機構所長の濱口桂一郎先生。
人手不足により、採用での選考があまい状態で雇用せざるを得ず、退職勧奨も昨今増えているようです。
解雇に関わるこういった傾向を押さえておくことは、万が一の備えのためにも必要だと思いました。
調査結果の内容は?
方法:日本労働弁護団と経営法曹会議以外の弁護士団体も対象とし、郵送調査ではなく各弁護士会のメーリングリストを利用してWEB上の調査票で回答を記入
調査期間:2023年の10月6日から11月6日の1ヶ月間
全体の回収率:14.0%(231人/1655人)
1.解雇等事件の相談から訴訟提起に至った割合
10%未満で全体の約30%、10%から19%が全体の24%
▶︎20%未満で半数以上の割合
解雇の相談に来ても、大部分は訴訟の提起には至ってないということ。
2.解雇事件がどういう形で終局したか
・訴訟になった830人の労働者のうち和解になったのが639人(77%)
・和解せずに判決に至ったものは185人(22.3%)
・訴訟取り下げ6人(0.7%)
2-1.和解の中身
地位確認(解雇ではなくて在籍)61件(7.3%)
合意退職578人(69.6%)
3.和解案を拒絶したのはどちらか
全160件中、労働者側が拒絶したのが72件(45.0%)、使用者側が拒絶したのが34件(21.3%)、双方が拒絶したのが54件(33.8%)
3-2.和解案の拒絶理由(労働者側)
「合意退職の和解案だったが、労働者が復職を希望」34.7%
「合意退職の和解案だったが、解決金額が低かった」30.6%
「合意退職の和解案だったが、解雇無効を確信」22.3%
3-3.和解案の拒絶理由(会社側)
「合意退職の和解案だったが使用者が金銭支払を希望せず」19.4%
「合意退職の和解案だったが、解決金額が高かった」13.9%
「地位確認の和解案だったが、使用者が復職を希望せず」15.3%
「地位確認の和解案だったが、解雇有効を確信」 11.1%
以上のような内容となっています。
さらに、事件はこれで終わりではありません。
判決により解雇が無効となった場合、通常考えれば、解雇が無効になったのだから、労働者は復職することになると思います。
ですが、解雇等無効判決の99名を分母とすると、復職した者は37件(37.4%)と半数以下とのことです。
また、復職したと言っても、さらにその後、
・継続就業した者30件(30.3%)
・復職後不本意退職をした者7件(7.1%)
となっているそう。
つまりは解雇無効となっても、復職し、また、継続雇用している割合となると、かなり少なくなるということです。
それに対して、解雇無効判決を勝ち得たものの、復職していないという人が、99人中54件(54.5%)と半数以上になっているそうです。
ここから学べること
これは結局、最終的に、労働者として解雇無効と動いたものの、解雇無効と認められても、そこで働き続けるのはなかなか難しいという現実を表していると思います。
こういったことを問題視し、解雇無効となったら、復職ではなく、金銭で救済する手段があるのではないかということも、厚生労働省で審議され、報告書がまとめられています。
これらの現実をみた場合、労働者として、会社として、どうすべきか。
労働者としては、金銭救済制度がはじまれば別ですが、この人手不足のなかでは、争っても、争っただけのものが得られる可能性は低いといってもいいのではないでしょうか。
また、会社としては、解雇という手段をとらざるを得ないときは、争いごとになった時の和解のパターンを学び、いくらまでなら金銭的に解決が可能、というところまで社内で固めておくと、いざと言う時慌てずに済みそうです。
退職勧奨をダチョウ倶楽部の「どうぞどうぞ」方式で?
もし、金銭はどうしても払いたくない、と思う場合は、解雇する前に、退職勧奨で何とかならないかを試すことも一手です。
労働法関係に詳しい弁護士の向井蘭先生のポッドキャストでは、ちょうど今朝、退職勧奨の「どうぞどうぞ方式」が紹介されていました。
奇抜なテクニックではなく、仕事をする者としては当たり前のことなので、さすが向井先生、現場をよくわかっていらっしゃると思いました。
こちらもご参考までに。
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