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「106万円の壁」撤廃、「130万円の壁」とセットで考えよう

「106万円の壁」撤廃への動きが報道されています。
こういった基準変更を考える時は、「106万円の壁」のみの是非を考えるのではなく、いま働いている人全体にどう影響があるかもあわせて考える必要があると思います。

1.そもそも「106万円の壁」とは?

「106万円の壁」というのは、健康保険(40歳以上は介護保険)・厚生年金保険に入る入らないの壁です。

現在、51人以上社会保険に加入している従業員がいる会社では、以下の条件にあう人は、健康保険(介護保険)・厚生年金に自分で加入する必要があります。

1.週20時間以上働く
2.お給料が月額8.8万円以上(残業代や通勤手当等はのぞく)
3.2ヶ月を超えて働く見込み
4.学生ではない

逆にいうと、これのどれかがアンマッチな人は、加入する必要はないことになります。

つまり、週20時間以上働いていても、月額8.8万円未満であれば、加入しなくてもよいのです。

この月額8.8万円以上というのが、年額でいうと106万となり、106万円の壁となっているのです。

2.106万円の壁が撤廃されるとどうなる?

報道では、この「106万円の壁」(月額8.8万円の壁)をなくすとなっています。

あわせて、その前提となる「51人以上社会保険に加入している従業員のいる会社」という条件もなくす動きがあるようです。

つまり、
1.週20時間以上働く
2.2ヶ月を超えて働く見込み
3.学生ではない
の条件のみになるということです。

これまでは、週20時間以上働いても、時給により月額8.8万円を超えなければ、加入対象とはなりませんでした。

週20時間ということは、ひと月4週間で80時間。
8.8万円÷80時間は、1,100円です。

全国の最低賃金が上がるなか、1,100円以上は東京、神奈川、大阪と3都府県。
全国平均が1,055円ですので、最低賃金すれすれの金額ということになります。

結果、週20時間以上のみという条件にすれば、この最低賃金すれすれの、賃上げをはばむ力となる基準は解消できることになるわけです。

3.いま106万円の壁で加入していない人はどうなる?

では、いま、106万円の壁があるため社保に加入していない人にはどんな選択肢があるのでしょう?

106万円の壁等があるため社保に加入していない人で、今回その壁がなくなれば社保に加入する必要があるのは、この条件の人です。

・社会保険加入の従業員が51人以上の会社で、週20時間以上だが106万未満で勤務している人
・社会保険加入の従業員が51人未満5人以上の会社で、20時間以上30時間未満で勤務している人

この人たちは、現在、社保については、ご自分で国民健康保険・国民年金に入っているか、家族の扶養に入っているということになります。

ここで登場するのが、「130万円の壁」。

この壁は、家族の扶養に入っている人に立ちはだかる壁です。
年収130万円を超えると、それなりの収入があるということで、家族の扶養に入れなくなるので、自分で社会保険に入る必要があるのです。

これと、106万円の壁をリンクさせてみましょう。

労働者にとって好ましいのは、家族の扶養に入るか、それとも自分で社会保険に入るかです。

なぜかというと、社会保険料は雇用している会社が半分負担してくれるため、健康保険や厚生年金も保険料に比べ手厚い給付がありますが、国民健康保険・国民年金にはないからです。

とすると、130万円の壁で家族の扶養に入れない人は、もれなく自分で社会保険に加入することができればよい、ということになります。

130万円の壁は、さきほどの最低賃金全国平均1,055円で考えると、1,232時間。
月間で102時間、週で25時間です。

つまり、週20時間以上働けば、5人以上社会保険に加入している従業員がいる会社では社会保険に入れることになるため、130万円の壁で家族の扶養に入れなくなっても、自分で社会保険に入ることができるようになるのです。

現在、「106万円の壁」で社会保険に加入せず、家族の扶養に入っている人が、どうしても社会保険の加入を避けたいと思う場合は、以下の方法をとることになります。

1.1社あたり週20時間未満の仕事にする(収入をキープしたいと思ったら20時間未満を兼業)
2.社会保険に加入している従業員が5人未満の会社に転職する

なかなか、選択肢が絞られてきます。

家族の扶養ではなく、自分で社会保険に加入することで、傷病手当金がもらえるようになったり、将来の年金が増えたりもします。

社会保険労務士としては、「家族の扶養」という選択肢が無条件に良いと思われているような誤解があれば、自分で加入することのメリットもしっかり説明し、考える材料が提供できればと思います。


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