浅草で「俵星玄蕃」を歌った人
数年前、友達の馴染みの店に何度か連れて行ってもらいました。
店のママもママの結婚相手も息子も全員歌が上手いカラオケスナックです。東京・浅草の庶民的な店で近所のお年寄りや、浅草の旦那衆がやってきてサクッと歌っていくという。
あるとき、9時くらいだったので店はまだすいていました。店に入った瞬間正面のカラオケモニターにババんと出たのは「俵星玄蕃」。
三波春夫さんの唄で忠臣蔵を謳った名曲ですが、歌謡曲と浪花節と講談が混じっているとっても難しい曲です。
これをカラオケで歌おうという人は、ただ好きだから歌いたいという人、そうでなければよっぽど上手い人です。だって、歌謡曲と浪花節を区別して歌うなんてできます?講談なんて言葉を間違えずに言うだけで精一杯ではありあませんか、普通。
イントロが鳴ってる間に私たちは席につき、「どうなの?上手いのかな?」とわくわくしていました。
「♪や~りは錆びて~も、こ~の名は錆びぃぬ♪」
上手かったです。
友達の膝を叩いて「上手いねっ!!」と言ったら「グラス片手にステージに上がってる段階でもう上手いよ」と言われました。そのとおりですね。
ママに聞いたら、初めてのお客さんで平塚から来た人とのこと。
一人で初めての店に入って、ステージで歌っちゃうってカッコイイじゃありませんか。
「俵星玄蕃」に触発されて、私は春日八郎さんの「長崎の女」を入れました。曲名がモニターに表示されると遠くの席から平塚の人が「この歌好き」と声をかけてくださり、嬉しかったですね。
別れた女性を想って長崎を訪れる異国情緒たっぷりの名曲です。共通点はありませんが、「俵星…」が好きな人は「長崎の女」もきっと好きだろうと思ったのが当たっていました。
私も平塚の人もリアルタイムでこれらの唄が好きだったわけではないでしょう。そんな歳ではありませんから。人が歌うのを聴いて好きになったのだと思います。
私は全く下手くそでしたが、帰り際「長崎の女よかったですよ」と声をかけてくださり、私は咄嗟に何を言っていいかわからず「俵星、凄かったです」と返事しました。これでは対等な会話になってしまって、自分の嬉しかった気持ち伝わらないですが仕方ないです。
もう二度と逢うことはないでしょうけど、こういうふれあいも懐かしいですね。いつか東京に行くことがあれば店には顔を出すつもりです。
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