サイドの補完性 - AFC Champions League GL 第2節 浦和レッズ vs 山東泰山
この記事でわかること
右サイド活性化の理由
選手の組み合わせで違いが出るサイドの機能性
サイドの分担改善で期待したいこと
浦和レッズサポーター間での議論活性化を目標に戦術を解説するマッチレビュー。今回はACLグループリーグ第2節、山東泰山戦です。
山東泰山は中国超級リーグとカップ戦を制した二冠王者ですが、他の中国勢同様、セカンドチーム主体のメンバー構成。
中国勢とバチバチにやり合うのがACLの醍醐味の一つなので、少し寂しいですね。
日程との兼ね合いもあって、浦和も大幅にメンバーを変更。5-4-1で引く相手に対して5得点を重ねて、危なげなく勝利しました。
一方で、前節に引き続き、左右でクオリティの違いが出ることについて気になったので、選手の組み合わせなどから解説していきます。
相手を引き出して裏
一戦目のセーラーズ戦より更に力の差がある対決となったため、浦和のボール支配率が80%以上という、なかなかお目にかかることがない数字でした。
山東はペナルティエリア内に入らない高さで、5-4-1で布陣。
浦和のフィールドプレイヤーが全員、山東陣内入り、5−4−1のブロックを崩していけるかという構図が続くことになりました。
押し込んでいてるので、山東のカウンターも低い位置からスタート。前線に人も足りず、浦和に事故が連続的に発生しない限りは、シュートすら打たれる心配はない、という一方的な試合でした。
試合をコントロールすることは容易で、最後の崩しの練習みたいになったと思います。
それでも、5-4-1で引かれてスペースを埋められると、そう簡単にゴールが入らないのがサッカーというゲーム。
相手をゴール前から動かして、スペースを作る機能性が浦和には求められました。
ズラして3人目
浦和が狙ったのは、サイドを起点に相手のWBと左右のCBを引き出し、その裏を狙うことでした。
そのために浦和が取った配置は、3-1-6のようなイメージ。
後方は知念を中央に左右に安居とショルツ。中盤中央に柴戸で、前線を5人から6人で埋めて相手を動かす配置でした。
量・質ともに十分な右サイド
前半は特に、右サイドでの崩しが多い印象を抱いたかと思います。
ショルツが高い位置まで運べることと、トップ下の小泉がこちらのサイドを主戦場としていたことが要因でした。
大外を関根か宮本が取ってWBを引き出し、その裏を他方が取りに行くことが基本。
ここで崩すか、WB裏のランニングに付いてきたCBの裏を、小泉が取りに行くシーンもありました。
ショルツの運びと、小泉の間で顔を出す動作で、5-4ブロックの4を中央に留めてからサイドに展開できていたので、ひとつずつズラしてチャンスは作れていました。
左右の機能性の違い
一方の左サイドは少し苦労した印象です。
左には小泉がいない場面が多く、馬渡と大久保の2人で崩しに差し掛かることが多かったです。
相手のWBを引き出してその裏、という移動はできていましたが、山東のSHやCBが付いてきた後の3人目として続く選手が少なく、2人だけで突破していくことが求められる形でした。
2人とも内側でのプレーもできますが、やはり一番得意なのは大外でのプレーですし、ここに関わってくる3人目がいるともう少し改善するかなと思いました。
明本が中央から離れたら最後のクロスに対して一番に飛び込んでいく選手がいなくなりますし、柴戸が潜り込むと、攻→守の切り替え守備対応で最初のフィルターになる役割は誰が担う?という話にもなるので、何かしらの仕組みが必要そうには見えました。
右サイドは良い回り方をしていたので、そこから前半の得点が生まれました。先制点は関根の独力突破の影響が大きかったですが、斜めに裏を取った大久保の動きも良かったと思います。
選択肢が手前ばかりにならないためには大事なので、ボールホルダーが前向きな時に裏を狙う選手がいる、というチームとしての連動性が見せられました。
サイドの役割分担をどう回すか
ハーフタイム、予定されていたであろう交代で、岩波とシャルクが入りました。
左サイドにはシャルクが入り、大久保が中央気味の配置。
ビルドアップでは、前半左サイドに降りる形になっていた安居を中央に配置、馬渡が下がり気味の位置からスタートすることが多かったです。
幅は誰が取る?
ただ、左サイドでは前半とは別の問題があって、幅が足りない印象でした。
シャルクは左サイドも本職とはいえ、大外に張っているタイプではなさそうです。なので、浦和が前進する過程で、大外で幅を取る選手がいないという現象があったと思います。
馬渡が後方でボールを持った時、シャルクに幅を取るように指示する場面が何回かありましたが、シャルクは中央寄りでプレーしたそうでした。
ただ、安定してボール保持・ビルドアップはできるので、時間が経つにつれ、馬渡が高い位置を取りだして大外、シャルクがハーフスペースを使うことが基本になりました。
そこからは、大外が得意な馬渡、内側が得意なシャルクのコンビネーションによる突破も増えたと思います。
右サイドは関根と宮本のコンビネーションは継続しつつ、大久保が3人目で絡むよう形でした。ただ、ハーフスペースでの仕事を小泉と比べてしまうと、見劣りしてしまった印象です。
現代サッカーではサイドを起点にしてから攻め込むことが多いですが、大外で幅を担当する選手と内側でハーフスペースを担当する選手、それぞれの配置と役割のバランスをまだ探っている段階かなという印象です。
セーラーズ戦から続くサイドの役割遂行の差
この試合でも特に前半に顕著でしたが、サイドで機能性に違いが出ることが多いです。
これはセーラーズ戦もそうですが、トップ下に入る江坂・小泉がいないサイドで、崩しの人や質が足りない現象が起きているかなと思います。
前半、左サイドは馬渡と大久保2人だけで何とかすることが求められました。
外側と内側は状況にローテーションしますが、どちらの選手とも内側が一番得意な選手ではないことは多少なりとも影響がありそうです。
逆にセーラーズ戦では、松尾と江坂が2人だけで何とかする場面が多かったですが、相手のカバーリングや仕組み上の混乱があったとはいえ、スムーズに崩せました。
松尾が外側で江坂が内側と、得意なエリアがハッキリしており、得意なことを得意なエリアで行える状況も作れていました。
一方で、ハーフスペースを主戦場とする選手が足りなくなりがちなサイドでは、得意な役割が被っている組み合わせだったり、3人目の加勢がない、という状態が発生しています。
内側の役割
今の浦和で、相手MFとDFの間かつ、いわゆるハーフスペースを主戦場とするのは江坂・小泉です。(シャルクも該当するかもしれない)
彼らがスペシャリストですが、他の選手で、このエリアで質を発揮できる選手が求められているのかもしれません。
後半の立ち位置を見ると、大久保・松崎・関根・松尾がそれぞれ時間帯によって中央気味に配置されて、その役割を試されたような形になったと思います。
シャルクが左サイドで起用されたのも、内側・ハーフスペースでの役割をテストした可能性もあるかと思います。
後半、少し時間が経って、馬渡が大外の高い位置を取ってからは、コンビネーションも良かったです。外と内、お互い補完できるような組み合わせだと、力を発揮しやすいのかなと思います。
ポジションをローテションするのが浦和の崩しではありますが、担当するエリアはある程度決まってくるので、起用する選手の組み合わせは考慮されてくるかもしれません。
ボランチの侵入
別の視点での突破口としては、ボランチの侵入になってくるでしょうか。
選手ごとに得意な役割は違いますし、ある程度の担当エリアは割り振られます。
ただ、相手を動かすためのポジション移動は行うので、ハーフスペースに「誰か」が入ることもあります。
セーラーズ戦の後半では、敦樹が相手MF背後のハーフスペースに侵入する役割を明確に課されていました。
現在、2ボランチ体制が基本ですが、タスクを振ってある程度明確化すると、ボランチの片方が相手のMF背後に潜っていく、という事象を発生させることができそうです。
江坂や小泉がいない方のサイドを補完するために、機を見て前線に加勢することは今後も求められるかもしれません。
まとめ - 結果とテストを両立したい
終わってみれば支配的な内容で5-0の大勝でした。
明らかに力の差がありましたが、あれだけ引かれた相手に得点することは簡単ではないので、結果が出て良かったです。
コロナ禍の事情で中国勢の力が落ちていますが、大邱がセーラーズに敗戦したり、他のグループでも番狂わせがあったりと、油断はできません。
次節からの大邱2連戦は首位争奪の直接対決になると見込まれるので、結果を確保しつつ、残りの試合をテストのように使えたら理想的かなと思います。
特に崩しの局面における役割の分担や、選手起用の組み合わせで大外が得意な選手が多い時に、内側・ハーフスペースで質を出すことができるか、という点で良いトレーニングになったら、と思います。
そのためにも、大邱戦で結果を掴んで、グループリーグ突破を盤石にしたいところです。
圧倒的にボールを支配し、順当に勝利した今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!