【J1 第8節 vs 清水】"完結"までもう一歩
この記事でわかること
・前半に苦戦した理由
・後半の修正
・ロングカウンターが成立しなかった一因
・デンの素晴らしさ
清水戦、終盤に追いつかれて1-1の引き分けでした。前半の内容から後半は立て直し、先制点を奪取。追加点を挙げるチャンスがありつつも決め切れず、最後はそのしわ寄せがきてしまい同点に追いつかれました。新監督を迎え、ボールを保持して繋いでくる清水に対して浦和はどう対応し、どこを狙われたのか。前半苦戦した理由と、後半に持ち直した要因を中心に振り返っていきます。
前半に苦戦した仕組み
今節の浦和は、直近2試合と違いミドルラインで4-4-2を組織する基本の形に戻りました。始める場所は違えど2トップから誘導を始め、サイドに誘導する仕組みは通常通り。その中でも清水が背中を見せた際にはGKまで積極的に追う姿勢を見せました。
これに対して清水は、2トップ脇から運んで浦和SHを引き出してその裏や周りのスペースでWG、トップ下、SBら集まってポゼッション安定を図ったり、ポジションを旋回することで浦和に選択を連続的に迫ってパスコースやスペースの創出を試みました。実際、前半はこの仕組みに手を焼き、PA付近までボールを運ばれるシーンが多発。
特に厄介だったのが清水のCB立田です。ボールを「運ぶ」ことが大事だというのは、大槻監督が常々指摘していることですが、立田は左サイドでこれを実現。この立田を起点にSBのファンソッコが関根の裏に立つことで橋岡を引き出し、その橋岡の裏にWGやIHが走り込む形は前半に最もピンチを迎えたパターンだったのではないでしょうか。
26:00~ はこのスキームで裏を取られピンチを迎えます。【図2】
【図2】橋岡の裏を使われた流れ (3枚)
37:45~ も同様の流れでした。
物理的に遠いゴール。現時点で可能性が高いのは"敵陣"
とはいえ、浦和も何もできなかったわけではなく、押し込まれながらも組織的な4-4のブロックを崩さず、最後はデンと槙野を中心に跳ね返す。そこに大きな綻びはありませんでした。しかし、前半が清水優勢で推移した原因は、ボールを奪ってからのポジティブトランジションの局面ではないでしょうか。
浦和の4-4ブロックはディフェンスラインに並ぶことを許容してでも原則、SHがしっかり戻ります。その裏返しとして、ボールを奪ってポジティブトランジションに移行するときにゴールまで走る距離が長くなかなか人数をかけてシュートまで辿り着くことができませんでした。深い位置でボールを奪った際は、2トップやエヴェルトンを預けて時間を作り、10:30~の汰木のシーンのようにSHが続いて参加することもタスクとして課されています。
しかし、それは清水側にとっても織り込み済みで、特に1つ目に受ける2トップに対してはかなりタイトに対応していましたし、前半はボールを跳ね返す位置がPA内まで下がっていたこともあり、前線のタスクとしてはより重いものとなっていました。【図3】
【図3】SHのタスク (3枚)
結果としてパワーが足りなかったか、この試合ではロングカウンターはシュートへの最後の一歩で精度を欠く場面が多くゴールまでは辿り着けませんでした。これは良い悪いではなく、そういう設計、やり方を選んでいるので、まずは前半を無失点で終えた結果を評価して、今後はどこでボールを奪えているか、そこからカウンター、ゴールへと繋がるかという、非保持〜ポジティブトランジションの成熟度合いを見ていくべきでしょう。2トップの誘導に合わせて前に出たり、最終ライン付近まで下がったり、そこからゴール前までスプリントしたりと、SHのタスクは多岐に渡り、重いものではありますが、これが今季のやり方です。
そんな中で前半で得点の可能性を一番感じたのは、相手が後ろ向きのプレーをした時に前から追った時や、長いボールで背走させた後のネガティブトランジションでハイプレスを続行し、ボールを奪った時に発揮されるショートカウンターでした。先制点にもつながったパターンですが、後半の修正に繋がりました。
やり直した後半、試合を動かすのは非保持から
前半の情勢を見て、後半の浦和はやはり今季の基軸、非保持から試合に変化を加えようとしました。主にSHのプレスの開始を早めて、相手が後ろ向きのプレーをしていなくてもミドルラインからではなく最終ラインに対してSHやボランチが前に出て追い込みをかけました。この修正は奏功し、早々に先制点に繋がるスローインを獲得するに至りました。
運べるデン、その先は・・・
では課題にあがることの多い保持の局面について。今節復帰したデンは守備に関してはもちろんですが、ボール保持、ビルドアップの局面でもひとつレベルの違うプレーを見せていました。大槻監督が求めている「ボールを運ぶ」ことで前進する。デンはその要求に高いレベルで応えていると思います。
特に45:35~ 60:30~【図4】 66:15~ のシーンは素晴らしいです。自身の前のスペースとその先の認知、ボールの置き所、運び。ここだけでも見返してみてください。
CBはポジション争いの激戦区ですが、個人的にはデンは頭ひとつ抜けていると思います。早々に欧州に見つからないか心配です。
ただし、「その後」でどこを狙ってゴールまで持っていくのかという仕組みの部分ではチームとしてはまだまだという印象でした。
清水の非保持守備は浦和と正反対とも言うべき思想。SH、特にボールサイドとは逆のSHがあまり下がらず、中盤でしっかりブロックを組むという設計ではありません。その分、攻撃へのパワーを残すことを優先していました。裏返せば、そこが浦和の保持時には狙い所になり得たはずですが、デンの高い個人能力でボールを前に配球した後、浦和としてどうゴールへ迫るかの仕組みはあまり見られず、個人に依存している印象でした。60:30~ のシーンのように、デンが運んで逆サイドのSB周りを使う攻撃をより再現性高くできていればゴールチャンスは増えたと思います。【図4】
【図4】ひとりでライン越え+ボランチに影響を与えるデン
今季の優先順位としては非保持〜ポジティブトランジションの方が高いので、この辺りはシーズンが進むにつれて改善されていくことを期待たいところです。
先制点を得た浦和は4-4のブロックを中心に守りつつ、荻原を入れてカウンターまで完結する走力を補強しながら試合を進めました。しかし、試合を決める2点目が取れるチャンスを複数回作りながらも決めきることができず、最後にその代償を支払う形に。83:00、同点ゴールに繋がるコーナーキックを与えたシーンでは、その前でポジトラが発生。縦に早く、さらに橋岡まで上がりましたが途中でボールを失いました。ラインの押し上げも間に合っておらず、結果的に推進力のある清水の川本に戻ってくるレオナルドとサイドに出て行った柴戸で対応することになりました。ボールを失ったこともですが、1点リードの終盤という場面で自陣から縦に早く、SBも上がっていくという選択はどうだったかな、と思います。
いわゆるオープンな展開と呼ばれる状況ですが、ボールを奪うと早く前へ!という声はスタジアムでもよく上がります。ボールロストへの対応、つまりネガティブトランジションの準備ができていない状態で早く前にボールを送ると、その分早く自陣にボールが返ってきます。
この試合でも得点の可能性を感じたのは、ショートカウンター。これに繋げる非保持局面のハイプレスや、ボール保持にこだわらず敵陣深くにボールを置きそのままネガティブトランジションに移行した時のプレスでした。とはいえ、90分ハイプレスを続けるのは非現実的です。4-4-2のセット守備で決壊しないように試合を進めることを基本としつつ、狙い所である敵陣でのボール奪取からゴールを狙う。ここに、ロングカウンターやボール保持の再現性が高まってくればより勝ち点を拾えるチームになってくるのではないでしょうか。
おわりに
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