踏切の霊の噂
オカルト好きな友達A子の付き合いで、とある心霊スポットである踏切に行くことになった。
その踏切は私たちがいつも利用している沿線上のT駅とその隣のK駅との間に存在する。
その区間は日ごろ人身事故も多く、幽霊の目撃談も多いという。
心霊スポットに行くなら暗くなってからだよね。
学校が終わった後、私達はカラオケで時間を潰してから電車に乗り、いつも降りる駅を通り越してT駅に向かった。
空はすっかり暗くなり、電車は通勤客で混雑していた。
T駅の駅前広場は飲食店や商業施設も多く、明るくて賑やかだった。
今度みんなで遊びに来ようなんて話をしながら、スマホのナビを頼りに駅前広場を抜けて線路沿いにK駅に向かって歩いた。
線路沿いの道は車一台が通れるほどの道幅。明かりは街灯があるだけで、駅前とは比べ物にならないほど暗かった。歩く人の姿も、私達は以外にいない。
K駅に向かってしばらく歩いていると、暗がりに赤いランプが見えてきた。
さらに近づくと、暗がりに浮かび上がるように踏切が見えた。
それまで他愛ない会話をしていたA子の口数もだんだんと減っていった。
そして、私達は噂の踏切に着いた。
踏切の周囲は暗く、民家すらも住人はもう寝ているのか明かりが消えていた。
上がったままの遮断機。
心なしか空気が冷たく感じた。
A子はさっそく「心霊写真♪」と浮かれながら、スマホで踏切の写真を撮りはじめた。
静寂の中でシャッター音がやたらと大きく聞こえる。
遮断機の先は上下線の二本の線路が並び、その向こうは工事中のようで道の両サイドには高い防護壁が建てられていた。
そして、その奥は闇のように真っ暗だった。
ふと警報機の袂に目をやると、そこには空瓶に刺さった枯れた花が添えられていて、私はゾワっとした。
「もう充分撮ったでしょ。そろそろ帰ろうよ」
「んー。何も写らずか。ここは結構期待したんだけどなぁ」
写真にはA子が期待したようなものは一切写らなかったようだ。
そんなA子に呆れながら、もう帰ろうと駅の方に体を向けた。
「最後にさ、踏切の向こうとこっちに分かれて電車が来るのを待ってみようよ。私が向こうに行くからさ」
と、私の返事も聞かずにA子は踏切を渡り始めた。
すると、ちょうど踏切の警報が鳴り始め、遮断機がゆっくりと降り始めた。
「終わったら帰るからね!」
私がそう叫ぶと、すぐにA子から『了解』という絵文字がスマホに届き、踏切の向こうでA子が手を振った。
そして、スマホをこちらに向けた後、A子からまたメッセージが届いた。
『そんなに大きな声を出したら、ご近所さんに迷惑だよ(照れた絵文字)』
そのメッセージに少しイラッとしながらも、私は電車が来るのを待った。
踏切の警報が鳴る中、A子は踏切の向こうでも写真撮影をしているようだった。
”カンカンカンカン”
警報が鳴り続けるが、いつまで経っても電車が来ない。
”カンカンカンカン”
上下に繰り返される警報灯の赤いランプと同じように鳴り続ける警報。
聞いているとだんだんと不安になってくる。
電車はまるで来ず、遮断機は閉じたまま。
A子はとっくに写真撮影を止め、退屈そうにこちらを向いて立っている。
すると、スマホにA子からメッセージが届いた。
『電車遅くない?』
『全然来ないね』
『早くそっち戻りたいんだけど』
『何か撮れた?』
『まったく。幽霊はおろか誰もいないし、完全に期待はずれ』
そんなやり取りをA子とスマホを通してしていた。
”カンカンカンカン”
繰り返される踏切の音と光。
何時になったら電車は来るのか、いつまで待てば踏切は開くのか。
不安になってくる。
すると、A子からメッセージが届いた。
『なんかさ、この音を聞いてると気分が悪くなってくるんだけど』
『え、大丈夫?』
『電車も来ないし、もうそっち行こうかな』
A子は遮断機を乗り越えてこちらに来るつもりのようだった。
私は『危ないからやめなよ』とメッセージを送った。
だが、A子は左右を気にしながらも遮断機に手をかけて乗り越えようとした。
私はとっさに「だめ!」と声を張り上げると、その声に驚いたA子は遮断機に手をかけたまま動きを止めた。
その直後だった。
A子の目の前を警笛とともに猛スピードで特急電車が通り過ぎた。
かなり危なかった。
あのまま踏切内に侵入していたら、きっとA子は電車に轢かれていた。
電車が通り過ぎると警報が止み、遮断機が上がった。
踏切の向こうから、A子が半泣きで私の方に走ってきた。
「もう、ひどいよ! あのまま渡っていたら、私轢かれてたよ!」
「何がひどいの。私は止めたでしょ」
「止めてないじゃん!」
そう言って、A子は自身のスマホを私に見せつけた。
画面にはお互いに送りあったメッセージログが表示されていたが、最後のメッセージを見て私は唖然とした。
『電車も来ないし、もうそっち行こうかな』
というA子のメッセージ後、私からのメッセージはこう表示されていた。
『おいで』
私は『危ないからやめなよ』と送ったのに、届いたのは『おいで』という真逆のメッセージだった。
「私、そんなメッセージ送ってないよ」
A子は信じてくれなかったが、私のスマホには確かに『危ないからやめなよ』というメッセージログが残っていた。
ただ、何故かネットワークエラーで未送信とされていた。
それから数日が経った。
その日、私はアルバイトの面接があり、学校が終わるとそのままお店に向かった。
面接は何事もなく終わり、翌日から働くことになった。
店を出ると、すでに空は暗くなっていた。
私は足早に駅に向かい、ちょうどホームにやってきた電車に飛び乗った。
車内は空いていたが、私は座席には座らずにドアに寄りかかりながら友達にメッセージを送っていた。
駅を三つほど過ぎたあと、電車はスピードを上げた。
窓の外を流れる夜景が、あっという間に過ぎ去っていく。
突然、電車が急ブレーキと共に激しい金属音を立てながら急停車した。
踏ん張っていなければ、危うく倒れるところだった。
車内に乗り合わせた乗客達がざわつき始めた。
誰もが人身事故が起こったと予想した。
少しして、
「何者かの線路立入りがあり、しばし停車します」という車掌のアナウンスが車内に流れた。
私は、
『人身事故で止まった。ついてない』
と友達にメッセージを送った。
それから十五分ほどが過ぎた。
車掌からのアナウンスもなく、状況もわからないまま待たされて続けた。
座席に座っていたサラリーマンが、苛立ちからか貧乏揺すりをはじめた。
立っていた私は足が疲れてきて、座席に座ろうか迷っていた。
その時、ふと窓の外を見た。
すると、真っ暗な住宅街の中で正面だけが明るく、そして赤いランプが上下に点灯していた。
そこは踏切だった。
遮断機は閉じ、警報の音が鳴っているようだった。
その向こうには工事の防護壁らしきものが見える。
それを見て、私は確信した。
それは数日前にA子と来た踏切だということに。
『ここって本当に人身事故が多いんだ』
そう思いながら外を見ていると、遮断機の奥の方からゆっくりと人影が現れた。
それはセーラー服を着た女の子だった。
けれど、よく見ると女の子が履いているスカートが何の抵抗もなく風になびいていた。
女の子には下半身がなく、上半身だけが暗闇に浮いているようだった。
その時、私はA子が言っていた話を思い出していた。
この踏切に現れるという霊の話を。
遮断機の向こうで、セーラー服の女の子が睨むようにこちらを見ている。
視線を逸らせたいのに、何故かそれが出来なかった。
そして、セーラー服の女の子はゆっくりと遮断機をすり抜けて近づいてくる。
その服は赤黒く汚れているように見えた。
迫ってくるその姿に、私は恐怖を感じていた。
その時、車内に『異常なし』というアナウンスが流れた。
そして、電車はまるでそこから逃げるように走り出した。
その沿線では人身事故の他にも、原因不明の遅延がよく起こる。
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