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[RIKUTA] 遊戯室

俺にはりくたという幼稚園からの幼馴染がいる。
家も近所で親同士仲が良かったこともあって、俺達は兄弟のように育った。
りくたはいつも明るくてやかましい奴。
よく言えば楽天家。
威勢だけはいいが、暗がりやオカルトを怖がる気の小さな奴だった。

 だというのに、ふとした瞬間におかしなことを口にする。
幼い頃は朧げにも記憶があったが、今ではまったく本人に自覚がない。
その度に、周囲は困惑させられる。
俺もその一人。
りくたの周りでは、とても理解しがたいことが時々起こるのだった。

りくたとの一番古い記憶。
それは俺達がまだ保育園に通っていた時のこと。

俺達が通っていた幼稚園では昼食を食べた後、2時間ほどの昼寝時間があった。
広い遊戯室に人数分の布団が敷き詰められ、そこで園児が一斉に昼寝をする。
いつもは明るい遊戯室が、その時間だけはカーテンが閉じられていて薄暗くなる。
どの布団で寝るかは自由で早い者勝ち。
俺とりくたはいつも隣同士だった。
布団の中に入り、賑やかだった園児たちもいつしか眠りに落ちる。
先生は眠れない子を寝かしつけた後で遊戯室を出て行く。
いつも賑やかな園内も、その時間だけは静かになる。
俺もりくたも寝つきはいい方だった。

だが、ふと目を覚ました時に、時々隣で寝ているはずのりくたの姿が消えている時があった。
布団の上には乱れたタオルケットだけが残されている。
そしてりくたの姿を探すと、そこから離れた床の上や他の子の布団の隅で寝ているのだった。
その度に様子を見にやって来た先生が、りくたを抱きかかえて元の布団に寝かせるのだった。
昼寝時間が終わった後、
「どうしてかあんなところで寝ているのか」と尋ねたが、りくたは「覚えてない」と、惚けるばかりだった。
先生たちも、そんなりくたの寝相の悪さに呆れていた。

そんなある日のことだった。
その日も昼寝時間になり、布団に入ったりくたはすぐに寝息を立てて寝てしまった。
それに引き替え、俺は前日に寝すぎてしまったためか、目を閉じてもなかなか眠ることが出来なかった。

しばらくして、俺の耳元でタオルケットを捲る音と誰かの足音が聞こえた。
目を開けると、布団から這い出したりくたが壁に向かって歩いていた。
俺はトイレにでも行くのだろうと思いながら、何となく様子を伺っていた。

 しかしりくたは遊戯室から出ることはなく、何故か遊戯室の隅で立ち止まり体をフラフラさせながら天井を見上げ、まるで何かを振り払うように腕を左右に動かしながら何か呟いていた。
誰かと話しているようにも見えたが、りくたの前には誰もいなかった。

寝ぼけているのか。
見かねた俺は布団から出て、りくたに声を掛けた。
すると、りくたは眠そうな顔で振り返り、虚ろな目をしてこう答えた。

「この人が寝ている僕を起こそうとする」と。

そう言って指を差したが、そこには誰もいない。
足元で寝ている子がいるだけだった。

「誰もいないよ」

俺がそう言うと、
「もういなくなった」と言ってりくたはその場で寝てしまった。
やはり寝ぼけていたのだろう。

俺はそう思っていた。

別の日。
俺が目を覚ました時、りくたはまた遊戯室の隅に立っていた。
りくたの目の前には、別のクラスの女の子がシクシクと泣いていた。
女の子の泣き声に気づいたのか先生が遊戯室にやって来ると、その女の子とりくたは先生に連れられて遊戯室を出ていき、気になった俺はこっそりとついて行った。

三人は職員室の中に入っていき、泣いている女の子に先生が事情を尋ねた。女の子は泣きながら、りくたが遊戯室に幽霊がいると言ったと訴えた。
りくたは目を擦りながらこう言った。

みんなが寝静まり、先生達がいなくなると、どこからか知らないおばさんが現れて、遊戯室を歩き回りながら寝ている子たちの顔を覗き込んだり、体に触れたりしている。
どうしてか他の子達は起きない。
僕はいつも起こされる。
やめてくれない。
りくたは淡々とそう説明し、先生達は戸惑っているようだった。

寝ぼけていたのでしょう。
と口を揃える先生たちの中で、園長先生はその人の特徴を尋ねた。
りくたは少し考えた後、
どの先生よりも背が高く、片足がくの字に曲がり、汚れたボロボロの水色のエプロンをしている。
顔は長い前髪のせいでよく見えないが、口許にホクロがあるという。
 
それを聞いた園長先生の顔色が一瞬変わったが、ただそれだけだった。
そして、先生と共に女の子とりくたは遊戯室に戻るべく職員室を出ようとし、俺も慌てて先に遊戯室に戻ったのだった。

だが、遊戯室に戻ってきたのはりくただけで、女の子は戻っては来なかった。
りくたはすでに眠そうで、遊戯室に戻ってくるとすぐに寝てしまった。

昼寝時間が終わった後、俺はりくたに尋ねてみたが本人は覚えていない様子だった。終いには怖がらせるなと泣きそうになっていた。

俺には姿は見えなかったが、時々寝静まり返った薄暗い遊戯室の中で誰かが歩き回る音や気配、そして枕元の布団が沈む感覚を覚えたこともあった。
その時は決まって、りくたはおかしな場所で寝ていた。
結局、あの女の子は園を卒業するまで遊戯室で寝る事はなかった。


りくたは不思議な奴で、そんなことが今まで何度もあった。
両親は霊感があるのだろうと言っていたが、その事を伝えるとりくたは必死で拒否していた。
「そんなものはないよ。脅かさないでよ」
と怒っていたが、その後も俺は不可思議な体験をすることになる。
 

しかし、それはまた別の機会に書こうと思う。

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