勇者ノベリットの冒険(抜粋版5)
「やれやれ、やっと来たのね。遅かったじゃない」
そして老婆はそう呟いた。
ノベリットは一度頷くと、
「すまない、ヴァンダール。途(みち)が分からなかった。つい先程までは」
と老婆に告げ、軽く頭を下げた。
その様子に老婆――ヴァンダール――はふふっと口元を歪めて微笑んだ。
「まあ、仕方ない。『夢に届くのはそれを信じる者のみ』だからねえ。でも、大したもんだ」
「何がだ」
「あんたは『自分の夢』の中に他の『意識』を、『ニンゲン』をそのまんま連れてきたんだよ?
どれだけの『想いの強さ』があればそんな半ば『宇宙を超えるようなこと』が出来るのか、私にはさっぱり分からないけど、でもひとつだけ言える。
それは――『あんたならそれは可能だと、私は信じていた』ということさ」
そう言うとヴァンダールは安楽椅子から大儀そうに立ち上がり、小屋の窓辺へ向かって歩いた。
そして窓の外をそっと指さす。
仲間とともにアニエスも外に目を向けた。
そこに繰り広げられた光景――それに、アニエスは『ぎょっ』と目を奪われた。
窓の向こうで、『世界が割れていた』。
その光景はそうとしか表現のしようがない。
広がる光景は森の姿であったが、斜に『ひび』のような『線』が見えた。
アニエスは目を擦ったが、光景は変わらなかった。
上から下まで、それこそ天の果てから大地に至るまで、すっかり引き通された1本の『線』。
それは揺らぎ、たわみ、その向こうにぎらぎらとした目を刺すような『かがやき』が満ちていた。