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華々しく始めた「チャレンジ」の顛末(前編)

2017年4月から、紫波町で採用する地域おこし協力隊の1期生として着任した私。
任期中の3年間は本当にいろいろなことに挑戦させてもらったのだが、目に見える「成果」をつくることができたものは正直ほとんどないかもしれない。

申し訳なさ情けなさで、「プロジェクト始めます」と言ったきり、事の顛末まで語ることを避けてしまったものも多かった。

しかし、2020年3月に卒業し、その後も町に暮らし続ける私に対して
たっしーが来てくれてよかった
という声を、未だにたくさんの方が掛けてくださるのだ。

それに私は救われている


本当に伝えるべき「私の経験」は何なのか?

私にとって、ここでの挑戦は失敗も含めて、いや、失敗こそが大きな糧となっているのは確かである。

中でも、一世一代のチャレンジだった「Tilers houseプロジェクト」は、私にたくさんのことを教えてくれた。

実は、このプロジェクトの顛末は、Facebookでしか公開していない。
それは正直、かなり痛みを伴う経験だったからである。

けれど、時が経って、これこそが「チャレンジによる学びであり、私が人生をかけて次の世代に伝えていきたいことの本質なのでは?と最近になって思えるようになった。

だいぶ長くなりそうなので、前編・後編に分けて綴っていきたいと思う。


前編は、胸を張って公開していた「プロジェクト始めます!」のところをまとめて記しておく。

以下は、2018年に「ご縁をつむぐ旅」ブログで公開した記事をもとに再構成したものだ。
「ご縁をつむぐ旅」ブログは地域おこし協力隊時代に立ち上げたもので、現在はめっきり更新できなくなってしまったため、ドメインの解約の検討を始めた。
そこで、残しておきたい記事はリライトしてこのnoteに移しておこう、と思った次第である。


刻まれた歴史をひもといて、私たちの手でまた紡ぎ始めたい

2018年4月23日

日詰商店街をリノベーションする

今、岩手県紫波町では、空き家をリノベーションして活用していこうという動きがあります。
日詰リノベーションまちづくり」です。

紫波町の中央部に位置する「日詰商店街」は、昔から紫波町のまさに“中心”として栄えてきた歴史ある商店街。

日詰商店街のメインストリート


地方創生の成功事例として注目されている「オガール」が代名詞とも言える紫波町ですが、そんなオガールから、最寄駅である紫波中央駅を挟んでちょうど反対側に位置するのが日詰商店街です。

飲食店を中心に、まだまだ活気のある商店街。
ですが、少しずつ空き家空き店舗が目立つようになり、かつての賑わいを想像すると、少しさみしくなってしまったのかなという印象です。

そんな日詰商店街を中心としたエリアを、リノベーションという手法を使って再び盛り上げていこう
というのが、日詰のリノベーションなのです。


引き継ぎたい歴史を見つけた

リノベーションは、建て替えでもなければ、リフォームでもありません。

建物や土地が、どんな人にどんな風に使われてきたのか。
そのエリアに根付いてきた暮らしがどんなものか。

そういった歴史をひもといて、そこにある想いをくみ取って、そうやって次の世代へ引き継いでいく。

そんな文脈に共感して、私も関わり始めた1軒の空き家があります。

店舗兼住居として使われていた空き家

日詰商店街のメインストリートを少しくだったところ。
かつてはタイル屋さんとして営まれていた店舗兼住居です。

おばあちゃんが亡くなってから、約20年の間、ひっそりとまちを見守り続けてきた建物でした。
2階は4部屋に分かれていて、近くにある警察署へ単身赴任してきた警察官が下宿していたんだとか。
母屋の奥には2階建ての倉庫があり、たくさんのタイルが眠っています。

建物のあちらこちらにも、職人さんが丁寧に貼ったタイルがありました。
それがとっても、愛おしい。

きっと、ここはたくさんの人が集まっていた場所だったんだと思います。
片づけても、片づけても、湧き出るような食器の数々が、それを物語っていました。

私たちはここを、「タイルを貼る人」という意味のtilersにかけて
Tilers house(タイラーズハウス)
と名付けました。

1枚1枚は、大きさも、材質だって、ぜんぜん違うかもしれない。
でも、それが集まったとき、世界にたった一つだけのアートになります。
意外な組み合わせもあるでしょうし、形が変わっていくこともあるでしょう。

そんなタイルと同じように、ここがひとりひとり個性を持った多様な人たちが集い思い思いの時間を過ごせる場所になったら。

さまざまなひととの関わりの中で、自分らしい「暮らし」を試しつづけていくような、そんな場所になったら。

かつて、ここで営まれてきた暮らしがある。
それをひもときながら、ふたたび紡ぎ始める決意をしました。


タイルのように、多様な個性が集う場所にしたい

2018年4月26日

ここ紫波町で私がやってみたいこと

私は、紫波町の地域おこし協力隊として活動しています。

2018年4月で2年目に入ったところですが、地域おこし協力隊の任期3年間のうちに、ひとつ試したいと思っていることがありました。

──地域の子どもから大人まで、多様な人たちが集まってきて、知らず知らずのうちに交じりあっているような空間をつくってみたい。

それは、すべての人が自分の人生を思いっきり楽しめるような、多様な生き方がゆるされる居場所づくりをするという私の夢を実現することでもあります。


夢につながる私のルーツ

私は、小学校・中学校と2度のいじめを経験して、自分が生きていることの価値を見失った子ども時代を過ごしました。
そんな私を救ってくれたのが、学校の外にあった「居場所」でした。

小学校の頃は、地域のなかでいろんな習い事に通っていた。
中学校の頃は、ボーイスカウトの仲間たちがいた。

こんな私でも、生きていていいんだ
そう思わせてくれた居場所、心の拠り所が、私を一人ぼっちの暗闇から助け出してくれました。

また、中学時代に家族で1年間移り住んだフランスでの異文化体験も、私を支え続けてくれています。

こんな人もいるんだ
こんな生き方もあっていいんだ

そんな選択肢が多ければ多いほど、何かひとつ壁にぶつかってもつまずいて転んでもまた歩き出そうと思える気がするんです。


多様な人と交わり、多様な生き方を知る機会があること。
一緒に熱くなれるような仲間と出会えること。

それが、みずから心惹かれるものを見つけるきっかけになる。
そして、信じた道を歩みだせる。
うまくいかなかったら、休んでもいいし、路線変更したっていい。

そうやって、ひとりひとりが自分の価値を認め、自分の人生全力で楽しめるようになったらいいな。
そんなコミュニティで、私も暮らしていきたいな。

そんなことをずっと考えていました。

だから、この紫波町で、とりあえずやってみることにしたんです。


ワクワクする場所と仲間に出会った

この空き家を紹介してもらった時、
あ、ここだ!
と思いました。

タイル屋さん、という歴史
一枚一枚貼りあわせていくタイルと、ひとりひとり個性のある人たちが集うイメージが、とても合うなぁと思ったんです。

そして、周辺のエリアも。

商店街から少し離れた穏やかな場所であり、目の前には細い川を挟んで町の運動公園・総合体育館があります。
いつも人で賑わっている、というわけではないけれど、グラウンドゴルフを楽しむおじいちゃん・おばあちゃんの姿が見えたり、遠くにスポーツ少年団のこどもたちの声が聞こえたり。
少し歩くと、紫波町の中心を流れる北上川の河川敷もあります。

ここを住み開いたら、どうなるだろう。
とても、ワクワクしました。

そして、そんな私のワクワクに共感してくれた人がいました。
私と同世代で、時を同じくして紫波町に移住してきた仲間
リノベーションしてシェアハウスを運営したい!」
という想いを打ち明けてくれたのです。

うまくいくかどうか分からないけれど、一緒にやってみることに決めました。

だってここは、試していく場だから。
そうして私たちは、小さなチャレンジを始めました。


壊してつくる、コミュニティ

2018年5月4日

いよいよ始まったリノベーション序章

母屋の奥に2階建ての倉庫があるのですが、母屋と倉庫のちょうど真ん中に、増築されたのであろう小さな物置小屋がありました。

母屋から直接入れるようになっているのですが、中に入ってみると床は腐って今にも抜けそうな様子。
残しておくのは危ないという判断でした。

こうして、Tilers houseリノベーションの序章的に始まったのが、物置小屋の解体です。

季節は冬。
しかも雪のピーク、2月に解体作業が始まりました。

ツタのように絡まった固い木の枝を引っぺがすところから

物置の中には、様々なものが置かれていて足の踏み場もないほど。
それらをすっかり外へ出してから、ようやく解体作業に入りました。

プロジェクトメンバーの女子2人だけでは運べないような、重たいものも。
解体作業は、たくさんの人が手伝いに来てくれました。

やっと骨組みだけになった

特に、2~3月にインターンシップとして紫波町に来てくれた2人の大学生が期間限定メンバーとして力をフルに発揮してくれました。

2月の寒さは想像以上で、手は痛みを通り越して感覚がなくなり、足の冷たさは我慢ができなくなって靴下に貼るカイロを買いに走ったほど。

日詰商店街の「藤屋食堂」さんであったかいランチをいただいて、寒さと疲労を癒してもらいながら頑張った1か月間でした。

そんなこんなで、物置小屋はきれいさっぱりなくなりましたが、こんなに小さな小屋を壊すのでさえ、ここまで大変だとは想像していませんでした。

きれいさっぱり!

リノベーションって、大変だ……。


手伝ってくれた人たちとの出会い

でも、一段落というわけにはいきません。
本格的な母屋の工事に備えて、不用品の片付けとお掃除のはじまりはじまり。

とにかく、物が多い……

人の暮らしには、これだけの「モノ」があふれているんだなぁ。
そしてそれは、いつか「ゴミ」になってしまうのか……。

改めて考えさせられました。

何回かに分けて、皆さんのお力を借りながらお掃除した結果、大きい荷物はあらかた片付きました。
本当に、解体から片付けまで、お手伝いしてくださった皆さんに感謝です。

お手伝いありがとうございます

作業の中で、初めての出会いがあったりもしました。

Facebookで見て来たよ、とか。
図書館でチラシを見たよ、とか。

こんなふうに、少しずつ、関わってくれる人が増えていくのがとても嬉しかったし、まさに私の描いているものだなあと感じました。
Tilers houseを通じて繋がる出会い広がるコミュニティ


ここから、水回りなど、本格的な工事に向けて調整中。
リノベーション&物件担当の仲間が動いてくれています。

ただ、現時点でも電気は通っており、片付けをしたおかげで、使えるスペースもできました。

これは、試しに開いてみるか?
ということで、コミュニティ担当の私がイベントを企画していくことに。


長い長い冬が明け、楽しい声と灯りがともった日

2018年5月10日

春になったら桜並木が現れた

Tilers houseは、町の総合体育館・運動公園の敷地に面した物件。
この公園を囲む細い川沿いに、桜の木がたくさん植えられているんです。

そう、つまりTilers houseの目の前は桜並木

目の前に広がる桜並木の眺め

正直、冬の間はあまり気付かなかったけれど、春になったら絶景で。笑

これは、お花見しないわけにはいかないでしょ!!
というわけで、記念すべき最初のイベントはお花見に決まりました。

イベント前日、すっかり満開になった桜並木を眺めながら家の風通し簡単なお掃除を実施。

鍵が錆びついて開かなくなっていたガラス戸は、お掃除デーに初対面した方が駆けつけてくれて、クレ5-56でこじ開けてくれました。
感謝感激です!!

ガラスに反射した桜もまた良き

開いてみたら、嬉しいことがたくさん起きた

待ちに待った当日
スッキリと晴れ渡った空に、桜も満開

絶好のお花見日和です

開始早々、色んな方が遊びに来てくれました。

小屋解体やお掃除を手伝ってくれた方。
Facebookで見て気になってて……という方。
差し入れだけ持ってきたよ~、と様子を見に来てくれる地域の仲間も。

同じ日に日詰商店街の「Grandma-farm」さんでリノベーションワークショップが開かれていたこともあり、そちらの休憩がてら寄ってみた、という方もいました。

嬉しかったのは、
電話番してたら、楽しそうな声が聞こえたから
と、ご近所さんが立ち寄ってくれたこと。

持ち寄りお花見会スタート

目の前の運動公園には、グラウンドゴルフを楽しむおじいちゃん・おばあちゃんたちの姿が見えます。
奥の野球場では少年野球の試合が行われていて、風に乗って元気な声が届いてきました。

自前のコントラバスを持って遊びに来てくれた方がいたので、私も持参していたギターを弾きはじめると、自然とセッションに。

即興セッション♪

すると、
なんだか楽しい音が聞こえたから~
と、グラウンドゴルフ真っ最中のおじいちゃんが道具を持ったまま上がってきてくれました。

ぜひゆっくりしてって、とおにぎりを勧めると、一緒に座って演奏を聴いてくれました。

こどもたちも、楽器に興味津々

初めてのギターにワクワク

この日、初めてギターを触った女の子に、
──弾いてみる?
と、手を添えながら一緒に弾いてみたところ、これがかなり楽しかったらしく。

なんと後日、
ギターやりたい!
とパパにお願いして、こども用のギターを買ってもらったそう。


夜まで続いた宴の余韻

だんだんと日が暮れてきて、予定していた終了時間を過ぎ……
2次会に突入しました。笑

みんなで片づけた店舗スペースに移動し、他の部屋にあったダイニングテーブル使えそうな椅子を引っ張り出してきて、思い思いに座ります。

なかなか居心地のいい空間で、おしゃべりも捗ります。

突然始まったコントラバス教室に、こどももおとなも夢中。
確かに、こんな大きな楽器を間近で見ることってないですよね。

優しく教えてくれました

私がパシャパシャと撮っていたカメラも、触ってみたい!というこどもたちに持たせて一緒に撮影してみたり。


そんな楽しい宴の終了間際。
私は外に出て家を眺めていました。

なんだか感慨深くて、じんわりと心に沁みるものがありました。

20年間の眠りを経て、再びともる灯り

楽しそうな声が聞こえて、
美味しそうなにおいがして、
人が集まるあたたかい空間になる。

扉をあける
風をとおす
灯をともす

そうやって、この家が再び時を刻みだしたのを実感しました。


私が見てみたかったものも、ほんの少し、垣間見えました。

それは、こどもたちが楽器やカメラを触りながら見せてくれた、ワクワクいきいきとした表情。
大人も、おんなじ顔をしていた。

やっぱりこの場所が、普段出会えない人やモノやコトに出会えるような場所になったら面白いなあ、と思いました。

この世界には、多様な生き方のひとがいて、どんな生き方だって許される
正解なんてない

こんな人もいるんだ、こんな生き方もあるんだ。
そんな風に人生の選択肢が広がるきっかけになったら、すごく嬉しい。

私もそうやって色んなことを試しながら生きていきたい。

道のりは長いかもしれないけど、少しずつでも、ここを開いていこう
そう決意を新たにした日でした。


後編へ続く


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