【展覧会レポ】半・分解展 2024東京 -100年以上前の洋服が触れる嗅げる着れる?!-@大和田ギャラリー
この夏、生地や反物から、お洋服や布小物を作っていらっしゃる、通称:縫人(ぬいんちゅ)のお二人から、長谷川さんの「半・分解展」という展示が、
激アツなので、行ったほうがいいよ!お話をいただき、お洋服に関する知識などは何もありませんでしたが、日本に限らず、西洋も含めて歴史だけは好きなので、こちらの展示へ行って参りました。
ほんと、びっくりするほど激アツ展示でした。
「半・分解展」とは?
衣服標本家の長谷川彰良さんが、100年以上前の洋服の精緻な作りと優れた品質に深く感銘を受けたことが契機として、その構造を分解して美しさの理由を解明し、その魅力や歴史を多くの人に伝えたいという思いから、「半・分解展」と題した展示会を開催されています。
また、ガラスのない美術館として、こちらで展示されている多くの収集物の数々は、実際に自分の手で触ること、匂いを嗅ぐこと、分解した型紙から作った服も試着することが出来て、まさに五感で楽しむことができる展示です。洋裁ができる方は、さらに型紙から作る楽しみもありますね。
「半・分解展」をみて
・歴史の重み、素晴らしい職人の技
正直、想像以上の体験ができて驚きました。
今までの美術鑑賞の概念が完全に崩壊しました。
会場に足を踏み入れた瞬間、まず圧倒されたのは、展示された服がまるで時間の流れの中に生きているかのような存在感を放っていたことです。
それぞれの服が、どれほどの年月を経てきたのか、その物語が自然と伝わってくるような気がしました。
繊細な刺繍や風化した布地の質感など、細部までしっかりと見て取ることができ、職人の手仕事がいかに時を超えて伝わるかを感じさせてくれました。
・展示品に触ることができる
さらに、驚きだったのが「触る」ことが許されている点です。美術館や博物館では通常ガラス越しにしか見られないような貴重な品を、直接手で感じられることに驚きを隠せませんでした。
触れることで、素材がどのように時を刻んできたのかがよりリアルに伝わってきて、年月や歴史の重みを実感しました。裏地の様子や裾や袖口、襟首の内側までもを見ることができるのです。
私は、衣服や生地、素材についてが無いため、身近に布を触ることをされている方はより一層、たくさんの情報を得ることができるとおもいます。
シルクやウール、レース、リネンや刺繍が経年劣化によってどのように変化するのか、繊維の風合いを通じて手で触れて体験できるのは、非常に貴重な経験でした。
どのようにの縫い合わせているのか、洋裁をされている方であれば、もっともっとくさん知識を得ることができるかと思います。裁縫に詳しい方が羨ましい!
・匂いを嗅ぐこともできる
そして、何よりも興味深かったのが「嗅覚」の体験です。服から漂ってくる古い匂いには、時代の空気や保管の状況が反映されているようで、視覚や触覚とはまた異なる次元で歴史を感じることができました。例えば、服の繊維からでしょうか、それとも着ていた方の身体の匂い、きっと使っていた石鹸や香水、香料から変化したのでしょうか、なんとも言えぬ歴史の香りを、感じることができました。この服は、当時、どんな人々が着て、どのような暮らしをしていたのだろうかと、想いを馳せてしまいました。
・分解されて初めて知れること
「半・分解展」は、まさに「分解」というテーマ通り、100〜200年と時が経つ中で、その当時の服がどのように工夫されて作られているものなのかを、服の半分を解体し、裏側や細かい装飾などを見せてくれるユニークな展示方法でした。
私は普段、服を買って消費し、古くなったものを特に活用もせずに捨ててしまうことが多いです。
ここでは服が持つ時間の流れと価値を再発見する機会を得ました。男性用のスーツが女性用のドレスになったり、何度も仕立てられるようにたっぷりと布を使ったり、襟などに修繕の跡がみられたりしました。長く大切に使ってきた持ち主や、それを仕立て直す職人技をこの展示を通して見て、知ることができました。
美術館や博物館でみたら、一見ただの美しいドレスや軍服に過ぎないような見方をしていたかもしれません。しかし、その裏には無数の物語が詰まっていて、それを触れたり感じたりできるというのは、
まさに特別な体験です。
・昔の服の型紙から作られた服を、着てみる
試着コーナーにあるヨークケープを着てみました。ケープなので、袖はなく肩で羽織るようなかたちなのですが、なんとも心地良い重さがあり、腕を動かしても落ちてきません。思った以上に肩の動かせる可動範囲もかなり広いです。肩で羽織っているにも関わらず、ですよ。
前側のすとーんと降りた部分が特に好みなラインです。
かっこいいケープです。
裏地を派手な着物地とかにして真っ黒いケープとか、最高だろうなって思いました。もし、自分に洋裁の知識が少しでもあれば、型紙を購入して自分の手で洋服作りを始めていたかもしれません。(いや、いつか挑戦してみたい。死ぬまでには必ず!)
横や後ろのラインも素敵なんです。きっと、おしりの上がったクリノリンスカートを履たときも、シルエットが美しくなるように計算されているのだなと思いました。現代のスカートに合わせても、違和感ない造形だと思います。時代を超えても美しいものは美しいなと思いました。
こればかりは着ていただかないと、良さを伝えづらいです。
他のコートもたくさん試着してみたらよかったな。
ミニレクチャーについて
長谷川さんが、展示されているものを実際に広げたりトルソーへ着せたり、歴史や作りなどを解説してくださる、レクチャーです。
ミニレクチャーの時間にはあっという間に、人だかりが!大人気です。
服に関する知識が全く無い私ですが、
長谷川さんのお話がとても面白くスッと内容が入ってきました。
優しげな語り口はもちろんのことながら、本当にお洋服が好きなんだなという、熱い気持ちが伝わってくる素晴らしいレクチャーでした。
レクチャーを聴講されていた皆様もみんな、歴史やお洋服、長谷川さんが大好きなんだろうな、私もあっという間に長谷川さんのファンです。
レクチャーを聞いた後だと、なんでこんな変な形してるんだろう?から、ここを綺麗に見せるために工夫して、行き着いた形がこれなんだ!と知れて面白かったです。
・女性下着:19世紀の下着を愛でる会
19世紀の女性たちの美しいドレスの下には、体型補正のコルセットやドレスの下に着る、ドレス。いわば下着のような役割を持つ、シュミーズやドロワーズのようなものを日常的に着用していました、
そんな、普段目に触れることのない、女性の下着の歴史についてのミニレクチャーを受けてきました。
女性がドレスを着るには
①シュミーズ
②ドロワーズ
③コルセット+バッスル
④コルセットカバー
⑤ペチコート
④〜⑤(アンダードレスとすることも)
*アンダードレスにはスカートを4枚履きしてボリュームを出すことも
⑥ドレス
ここで、ようやっとドレスが登場します。
オープンドロワーズ、内股が縫われていない下着です。お着物でも下穿きのような、巻きつけるスカートのような下着があるので少し似ているなと思いました。この時代の女性たちは、ボリュームたっぷりのドレスをきているので、お花を摘みに行く時はとても大変そうです。
そうしたところからお花を摘みやすい、内股が縫われていないオープンドロワーズのような、下着が生まれたのだと思います。
このオープンドロワーズは、ウエストが大きいですが、腰あたりにあるスピンドルを締めると、ウエスト部分がぎゅっと縮まるそうです。
2枚の布が足の形に、巻きつくようなとてもシンプルな構造です。
女性の下着の中でもクラシックなものだそうです。
内股が縫われていないオープンドロワーズは少し恥ずかしいとなったときに誕生したのが、こちらのドロップシートドロワーズです。腰の辺りに、3箇所小さな貝ボタンがついていて、こちらを外すとお尻が出せるようになっていて、用がた足せるようになっています。ただ、こちらのドロップシートドロワーズあまり普及はしなかったようです。オープンドロワーズの500着中のうちにドロップシートドロワーズは1着程度の割合でしか見つからないそうです。普及しなかった、理由についてはボリュームたっぷりのドレスや、バッスルをかき分けて、腰の小さなボタンを3つ外すことが非常に難しかったからなのではというお話でした。
・バッスル&コルセット
女性の美しいドレス姿を作る為に、必須とされていたのがコルセットによる美しいウエストのくびれと、そのウエストをさらに強調させるお尻のボリュームです。このシルエットの美しさが前から見たときはもちろんのこと、横や前から見た時の美しさに繋がります。
そんな、ドレスを着る際の土台となる、バッスルとコルセットについてもミニレクチャー受けてきました。
コルセットはすでに女性の体のラインに合うように、
ラインが作られているので、平なところにおいても波打っていました。
こちらのコルセットには縦にたくさんのステッチが入っており、そのステッチの間には136本もの鯨のひげが入っているそうです。
女性のウエストをさらに細く、美しく見せる為に頑丈に作られていることがわかります。
1880〜19世紀の間によく着用されていたのは、バッスルドレスです。
鹿鳴館ドレスといえば、伝わりやすいでしょうか腰にふっくらとボリュームのあるドレスです。
写真のこちらは、コイルバッスル。中にコイルが入っていて、軽量化もはかれながらお尻も膨らませることができます。
中のコイルを探す為に、当時の女性たちは鉄屑屋さんに殺到して、バネやコイルととっていったというお話があったそうです。
コルセットを締めたあとの、トルソーのなんと細いこと!コルセットをフルクローズすると56cmになるそう。手の大きい方なら両手で掴めちゃいそうです。実際にこのウエストの方いらっしゃったら、かなりの細いです。以下、日本女性のウエスト平均サイズと比べても、かなりの細さです。
(ウエスト平均って、下記の数値が一般的ですよ…)【日本女性のウエストサイズの平均】
20-24歳:67.0 cm
25-29歳:67.6 cm
30-34歳:68.1 cm
34-39歳:69.2 cm
40-44歳:71.3 cm
45-49歳:73.6 cm
50-54歳:76.1 cm
55-59歳:78.2 cm
60-64歳:80.2 cm
装身具のシャトレーヌについて
「半・分解展」ではシャトレーヌが1点展示されていました。こちらについては、触れることができない展示でしたので、勇気をもって長谷川さんにお声がけさせてもらい、構造をよく見せてもらいました。あと裏に置いていらっしゃった、他の2つのシャトレーヌもみせていただきました。ありがとうございます。
・シャトレーヌとは
「シャトレーヌ(chatelaine)」は、もともとフランス語で「城の女主人」を意味する言葉でしたが、
後に実用的な装飾品を指すようになりました。
特に19世紀のヨーロッパで流行したシャトレーヌは、ベルトやウエストに取り付けて使うアクセサリーで、鍵やハサミ、針、財布などの道具が小さなチェーンで吊るされています。当時は貴族や上流階級の女性たちが家事や裁縫のために便利な道具を持ち歩くために使っていましたが、装飾性も高く、アクセサリーの一部としても見られていました。
現在でも、アンティークのシャトレーヌはコレクターズアイテムとして大変人気があります。
・イギリス製の貝殻パースのシャトレーヌ
素材は、真鍮に金メッキ、又は金貼りの仕上げかなと思いました。
マザーオブパールの飾りには溝が彫られていて、彩色がなされています。赤と透明な石は、ガラスストーンと思われます。
特徴的なのは貝殻のパース(お財布)で、文字がかすれてしまって読めなかったのですが、伺ったところイギリスの港、港町の名前が入っているとのことでした。
貝殻のパースの金属部分は別材です、白い酸化の具合からして、銀と鉛あたりの合金かも。
開くと鮮やかな赤色のポケットが蛇腹になってます。かなり綺麗な状態だったので、ほとんど物は入れてなかったのではないかなと思います。
ボタンブーツを着脱するときに使う、ボタンフック。
爪のお手入れに使う、マニキュアナイフは
セットになっていることが多いそうです。
後は、シャーペンの芯入れ。
ペンもついています。この頃からシャーペンはあったそうで、ペンの後ろ部分を捻ると芯が押し出される仕組みになっているようでした。
セットでメモ帳もついていて、メモ紙は象牙を薄くスライスしたものだそうです。書き心地が気になりますね。
あとは小さな鍵、懐中時計のぜんまいを巻く際に使っていたものだそうです。
手紙の封を止める、シーリングスタンプもついてます。
写真にはうまく写りませんでしたが、小さなと鳥が彫ってあります。
きっと、シーリングワックスと垂らしてスタンプしたら、鳥の模様がつくことでしょう。
こちらのシャトレーヌ、持たせていただくとなかなかの重量感です。
港町の名前が入ったパースから、港町の貿易商の活発で裕福な奥様やお嬢さんが持っていたものなのかなと想像していました。
・オランダ製のソーイングシャトレーヌ
1880年ごろのものだそうです。
イギリス製のものに比べて、より装飾的で煌びやかです。
ハサミ入れや、ハサミにも装飾が細かくされていました。
指ぬきケースと指ぬき。
内側にはフェルトが貼ってありました。
ピンクッション。
ペン。
メモ帳。(象牙製のメモ紙)
ボタンフックとマニキュアナイフのセット。
こちらは、その装飾性の高さから御婦人同士のお茶会ような場所で見せるために作られた、シャトレーヌだったのではないかなと思いました。
指ぬきや、ハサミ、ピンクッションなど、裁縫に関するものが一通り揃っていて、細やかな装飾がかなり女性好みかなと思います。女性の交流会の場で、あら、かわいいのをつけてらっしゃるのね。わたしのはー、と話のネタ一つになったかもしれません。
・シルバーの筆記用シャトレーヌ
どこの国のものかは不明とのことです。
チェーンのコマが丸く太めで、上記の2つに比べるとより重厚感があります。
素材は、刻印は入っていなかったですが、スターリングシルバーかそれに近しい材かなと思います。
ルーペにもグラスにもなります。小さな文字を見るときや何かを観察するときに使っていたのでしょうか。
上記2つより、メモ帳が大きいです。
また、切手をいれるケースもありました。
ロケットもついていました。
どんぐりのような形のケースには、
普段飲むお薬が常備薬として入れていたのかもしれません。
装飾が華美すぎないところや、手紙に関する道具が多かったため、ある程度年齢の過ぎた、まさに女主人が持ちそうなシャトレーヌです。日頃から、手紙を書いたり、送ったり、物を書いたりすることが多い女性が所持していたのではないかなと思いました。また、ロケットの中には大事な家族の写真を入れていたのかもなと思いました。
さいごに
長谷川さんによって収集された服達は、100〜200年近く経って、まだこうしてたくさんの人が観察し触り、時には匂いまで嗅がれて、とても幸せな服たちだと思いました。
服も本来人が着て、初めて血が通うものだと思います。これは、建築においても同じことが言えると思います。
今回の展示されていた数々の服や装飾品たちには、着てくれる主を失った後でも、血が通っているように感じました。これは、長谷川さんを始め、たくさんの人に愛でられて、慈しまれているからこそだと思います。
とても素晴らしい体験をするのことができました。長谷川さんや来場者の方のパッションが伝わってくる、ミニレクチャーや展示でした。
私は洋裁やったことがないのですが、今ものすごくお洋服作りたいです!自分の手であの素敵なヨークケープを作れたらと切に思います。
まだ会期までに、
時間があるので再入場してきたいと思います。
お洋服の知識がなくても、とっても楽しい展示でした。きっと、私のようにもっとお洋服のことをもっと知りたくなること間違いなしです。
皆様も、見て嗅いで触ってと素敵な体験ができる「半・解体展」熱気があって、最高の展示でした。