苦しみ / 多様性(朝井リョウ『正欲』)*19

朝井リョウさんによる『正欲』から2つのことばを引用します。
これから読もうと思っている方は、この投稿を見ないことをお勧めします。私は、あらすじを読まずに、この本を読み始めました。何も知らなかったからこそ、(読了後に)面白いと感じた部分があったからです。ひとつひとつの言葉が重い。その中でも、強く心に響いたことばを引用してきました。私は本をたくさん読んでいるほうだと思うけど、今までに全くみたことない世界を教えてくれた本。

(ネタバレを避けるための空白)





①特殊性癖を持つ登場人物、夏月は、"普通"の性癖を持つが故に悩み苦しむ人を羨ましく思う。

既に言葉にされている、誰かに名付けられている苦しみがこの世界の全てだと思っているそのおめでたい考え方が羨ましいと。あなたが抱えている苦しみが、他人に明かして共有して同情してもらえるようなもので心底羨ましいと。

朝井リョウ『正欲』183ページ

誰かが共感してくれるから苦しみがやわらぐことがある。夏月には、それがない、できない。
なんでだろう、少し申し訳ない気持ちになりました。誰かに悩みを打ち明けることで、私だけが楽になっていることはないだろうか、相手を苦しめていないか、と。

②夏月が「多様性」について思うこと。

多様性とは、都合よく使える美しい言葉ではない。自分の想像力の限界を突き付けられる言葉のはずだ。 時に吐き気を催し、時に目を瞑りたくなるほど、自分にとって都合の悪いものがすぐ傍で呼吸していることを思い知らされる言葉のはずだ。

朝井リョウ『正欲』188ページ


今、世の中で一般的に理解され、使用されている「多様性」の本質を指摘したことば。私は、軽々しく使い過ぎていたなと反省しました。これからは「多様性」ということばを使う時、自分には好ましくない部分もひっくるめて考え、使おう。簡単じゃないけれど。

朝井リョウ『正欲』(2021年、新潮社)

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