かつての肩書を活かすか殺すか
私は、陸上自衛隊を定年退職して9年経ち、第2の人生もまもなく終了し第3の人生に進む段階になってきました。
冒頭から過激なタイトルを掲げましたが、「元自衛官」という肩書はなかなか厄介なもので、いろいろな集まりで会話をしていると「日本の安全保障」について意見を求められたり、協力を頼まれたりすることが多々あります。
ある大学で5月連休明けに「我が国の安全保障」に関する話をしましたが、内容的には若い会員の皆様にも参考になるかもしれないと思い、今回初めて修親に投稿しました。
大学で話をすることになったきっかけは、その大学で特任教授をしている中学時代の同級生から1年前に「私のクラスの学生に日本の安全保障」について話をしてほしいと頼まれたことでした。「私は、自衛官として訓練や任務遂行の現場で行動してきたので、部隊の指揮・統率の話はできるけれど、安全保障という命題に対しては、系統だった深い教育を受けたこともないし、日本という国全部を背負って安全保障施策を実践してきたわけではないので、勘弁して」と断り続けていました。
ただ、3度目の頼みを聞くに至り、ついに引き受けることにしたのですが、引き受けるにあたっては、「安全保障に関するプロフェッショナル」ではなく、「元自衛官である日本国民の先輩としての立場で話をさせてもらえるということなら引き受けましょう」と返事をしました。
時間は1時間、英語の勉強が中心で安全保障についてほとんど知識のない学生を相手に何をどう話せばよいのか、複雑にならないようある程度単純な形で分かりやすく話を進めなければならないことは理解しましたが、さて、どうしたものかと悩みました。
その結果、過去から現在までの日本の安全保障に関わる歴史をさかのぼって
「歴史上、日本が亡びるかも知れなかった歴史的出来事」を学生たちに質問して思い起こさせた後に、その出来事を説明しながら安全保障上の特徴について話をすることにしました。そしてそれらの歴史を踏まえた上で、「日本の安全保障」についてどのように考えたらよいかということの話をすることにしました。
これなら、1時間で何とか話ができるかなと思ったのですが、さらに自衛官時代に「図示説明」ということの指導を受けたことを思い出し、「安全保障を一枚の図」で表すことにし、結局話の進め方としては、①⇒②という形で話を進めていきました。
① 日本が亡びるかもしれなかった日本の歴史上の出来事と安全保障を確保する要素(手段)の特徴
「663年白村江の戦いに大敗した後の日本⇒元寇(1274年文永の役・1281年弘安の役)⇒1853年黒船襲来⇒1941年~1945年太平洋戦争」
これらの出来事を契機に日本の安全保障を確保する要素(手段)としてどのようなことが行われたかを話しました。
② 現代における安全保障確保の手段と現状
日本の安全保障≒日本を大切な要素(手段)でコーティングして強固にするということであろうという1枚の図を使って話した内容は下記の通りです。
1 日本をまずコーティングすべきものは、基本的理念を定めている憲法ですが、解釈によって白(合憲)だ、黒(違憲)だと意見が食い違うので、グレーのグラデーションで色付けしている。
2 2番目の防衛力については、核兵器はもちろん保持しませんが、通常兵器においても専守防衛に限定された防衛力を保持しているわけで、我が国に対する他国の武力侵略があった場合、日米同盟に基づく米軍との共同作戦が不可欠であり
特に今は、尖閣諸島に対する中国の脅威は年々高まっているし、シーレーンの安全確保からも海をイメージできるブルーで色付けしている。
3 3番目の条約・同盟・外交については、日本として国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から同盟国である米国を始めとする関係国と連携しながら、地域及び国際社会の平和と安定に積極的に寄与していくことを国家安全保障の基本理念としているが、特に「自由で開かれたインド太平洋戦略」により国際的な多国間の枠組みを一段と強化発展させてアジア・太平洋諸国が一枚岩になれるような政策(合掌策)が行われていると認識しています。中国の「一帯一路」構想に対する牽制的な意味もあるかもしれません。
4 4番目の国力については、戦後「日本国憲法制定」「財閥解体」「農地改革」「教育改革」「選挙改革」と戦後GHQによる民主化政策が進められてきたわけですが、経済的には高度成長による奇跡の復興を遂げてきました。しかし、その高度成長もバブル崩壊やリーマンショックなどにより、経済は停滞し、この間に1位だった外貨準備高も今は2位、1位の中国は日本の約2.5倍となっています。人口減少、少子高齢化の拡大などにより、若い人たちの負担が大きくなってきていますので、グレーで色付けしています。
最後に、「日本の安全保障に関する内容を話してきましたが、今後どうすべきかについて若い人たちは、他人事として傍観者の立場にいるのではなく、当事者としていろいろ考えることが必要かもしれませんね、『「チコちゃんに叱られる』」という番組がありますが、日本の安全保障は我々の生存に関わることですから、チコちゃんから『ボーっと生きてんじゃないよ』と叱られないようにしましょう」と締めくくったわけですが、若い皆さんも、考えてみてください。
さて、私は第三の人生を踏み出すにあたり、日本が亡びるかもしれなかった歴史上の出来事に関わる史跡を訪ね歩きながら、自衛官が受け継いでいるはずのこれらの危機に立ち向かった「防人」「鎌倉武士」「明治維新の志士」「大日本帝国軍人」のDNA探しの旅に出かけようと思っています。