見出し画像

7Artisans 35mm F2 (第1世代)の愉しさ

中国・深圳にあるレンズメーカー「7Artisans」(七工匠)のライカMマウント対応フルサイズ用レンズ「35mm F2」(Gen 1 = Generation 1 = 第1世代)を愛用しています。色々と欠点の多いレンズですが、実に愉しいレンズなので気に入っています。

今回は、そんな「7Artisans 35mm F2(Gen 1)」を紹介します。


結論: ズミクロンに匹敵?も、暴れ馬な一面が

このレンズの特徴を述べると、概ねネット上の評判は以下の通り↓

・それなりに解像度も高い
・ライカ「ズミクロンM f2/35mm」との比較では「違いを見つけるのが難しい」
・なのに僅か36,500円と格安!
・歪曲収差は若干目立つ


評判通り、良い写りのレンズであると気に入っています。

私はミラーレス一眼「Canon EOS R」に装着して用いていますが、こうしたミラーレス一眼で利用すると「周辺部分(=写真の四隅)に”色被り”の症状が出やすい」欠点が見られる(詳細後述)など、暴れ馬な一面もあります。

7Artisans 35mm F2.0

ライカ・ズミクロンMがモデル

例によってこのレンズの”元ネタ”と表現するのは不適切かも知れませんが、はたまた”リスペクト対象”と言うべきか。とまれ、その作りからライカ社のズミクロンM(SUMMICRON M f2/35mm)、中でも”7枚玉”と呼ばれる3世代目を意識した作りとなっているのが分かります。

SUMMICRON M f2/35mmと7artisans 35mm F2の比較
SUMMICRON M f2/35mmと7artisans 35mm F2の比較

上記のように、かなり意識した仕様になっている事が分かりますが、レンズ構成がかたや「ガウス型」、こなた「ゾナー型」と全く異なります・・・なにより価格が10倍以上の決定的な差があり、正直比較するのもバカげた話しと思われるかも知れませんが、もう少し見ていきましょう。

ライカ社のズミクロンM(SUMMICRON M f2/35mm)は、歴代人気の高いレンズ故にリスペクト品が多数あります。代表例として、この7Artisansの他にも中国LIGHT LENS LAB社の通称「周八枚」が有名ですね。

ライカ純正と7ArtisansとLIGHT LENS LABそれぞれの35mmを対応させると、凡そ以下の位置付けになります ↓

ライカ、7Artisans、LIGHT LENS LABそれぞれの35mmの位置付け
ライカ、7Artisans、LIGHT LENS LABそれぞれの35mmの位置付け

こうして並べると、7Artisansがライカの「第3世代」目を、周八枚がライカの「第1世代」目を意識しているのが分かります。

周八枚が忠実な再現度で本家ズミクロンと遜色ない(Side by sideで比較しても見分けがつかない!)描画と言われるのに対し、7Artisansはその価格からも分かるように、本家とは「全く異なる品」で、あくまでも「見た目がズミクロン風」を志向したに過ぎない点を認識する必要があります。

とまれ、ライカとの比較はナンセンスにしても、この「7Artisans 35mm F2 (Gen 1)」が、どのようなレンズなのか、もう少し踏み込んでみてみましょう。
 

MTF曲線で検証

以下、7Artisans 35mm F2 (Gen 1)のMTF曲線です ↓

7Artisans 35mm F2 (Gen 1)のレンズ構成とMTF曲線
7Artisans 35mm F2 (Gen 1)のレンズ構成とMTF曲線

一般的に10本/mmのMTF特性が0.8以上あれば優秀なレンズ、0.6以上あれば満足できる画質が得られるとの事ですが、MTF曲線を見るに絞り開放では中心部の解像度は優秀も、周辺はかなりガクんと落ち込むのが分かります。

・・・では実際の写りはどうでしょう。
 

ズミクロンとの画質比較(Leica Rumorsより)

ライカの噂情報を集めたサイト「Leica Rumors」が、畏れ多くも本家ライカのズミクロンと写りの検証比較をしています(ライカM10に装着して撮影)。

SUMMICRON M f2/35mmと7artisans 35mm F2の作例比較
SUMMICRON M f2/35mmと7artisans 35mm F2の作例比較

詳しくはLeica Rumorsの記事を参照いただきたいのですが、同サイトの検証記事によると ↓

I am planning to do some more testing in the future, but I really had a hard time finding any flow in the 7artisans lens or any significant difference in the image quality when comparing it to the Leica Summicron-M 35mm f/2 ASPH lens.

(和訳)
私たちは将来、更なる検証を行う予定ではあるが、ライカ「ズミクロンM 35mm F2 ASPH」と「7Artisans 35mm F2」を比較した際、画質に大きな違いを見つけるのが困難であった

Leica Rumors 記事より

とのこと。本家ライカ(450,000円)と中華レンズ(36,500円)を比較して「大きな違いが無い」というのは、穏やかではありませんね(!)。

実際、同サイトには元画像を掲載しており原寸比較が可能ですが、さすがに本家ライカがシャープさでは優っているものの、等倍表示など拡大した際になんとか判別できる程度の差なのは確かです。

なにより興味深いのは本家ライトと7Artisansでは(周八枚のような忠実再現とは違って)レンズ設計が異なるのに、Leica Rumorsの検証では共に似た絵が出ている点にあると考えます。

ライカが「ガウス型」(一般的な特徴としてシャープネスが均一、滑らかなボケ味、ナチュラルで自然な描写)なのに対し、7Artisansが「ゾナー型」(一般的に、シャープでクラシカルな描写で、背景のボケが柔らかで、コントラストが高い描写)なので、本来大きく描写傾向が変わってもおかしく無い筈なのですが、Side by side比較で両者に顕著な差が無いのは興味深い。

ライカが古い「ガウス型」を極めて性能を上げてきたのに対し、7Artisansはよりモダンな「ゾナー型」で上から性能を落としてきた、その結果、両者が同じような位置で対峙した、と言えるのかも知れませんね。

7Artisans 35mm F2をメルカリで探す
↑ 7Artisans 35mm F2をメルカリで探すリンク ↑

”マゼンダ被り”に留意

この7Artisan 35mm F2に限らず、レンジファインダー用に設計されたレンズのうち、”後玉”が突出した古い設計のレンズを最近のミラーレス一眼などのデジタルカメラに装着すると写真の四隅がマゼンダ色に染まる、いわゆる「マゼンダ被り」の症状が出てしまいます。

この四隅に見えるのが「マゼンダ被り」
この四隅に見えるのが「マゼンダ被り」

私はキヤノン製フルサイズミラーレス一眼「EOS R」を愛用していますが、これはなにもキヤノンでライカ用レンズを使っているからバチが当たった、という訳ではなく、本家ライカ製のM型に装着しても同様の現象が生じます。

どうしやら裏面照射型センサー搭載機ではマゼンダ被りは出難くなるようですが私は持っていないので試せていません(実際、ライカ社も2022年にリリースした「LEICA M11」から裏面照射型CMOSセンサーを搭載していますが、このマゼンダ被りを避けるためと言われています)。

いわゆる”後玉”が突出したレンズ
こんな感じで”後玉”が突出したレンズ

こうした「マゼンダ被り」はデジタル補正するか、もしくは「味わい」として愉しむか・・・その気分的な違いによって当該レンズの評価も大きく変わると考えます。私は当然、後者な訳ですが。
 

電子先幕シャッターによる露出ムラにも注意

さらに注意点として、下記画像(左)の様に写真の下側が帯状に黒くなる「露出ムラ」にも注意が必要です。

電子先幕シャッターによる露出ムラの影響(写真左)
電子先幕シャッターによる露出ムラの影響(写真左)

この現象、どうやら推察ですがカメラ本体であるEOS Rの設定「LVソフト撮影」(電子先幕シャッター)の影響による露出(露光)ムラのようです。

LVソフト撮影とはシャッターの動作特性を選択する設定で「LV1」、「LV2」、「しない」の3点から選べます。デフォルト値は「LV1」。これを「しない」に設定する事で上記画像の右のように現象が消えます(=電子先幕シャッターを用いずに、機械式シャッターとなる為、シャッター音は煩くなりますが)。

キヤノン EOS Rのマニュアルを確認するも「高速シャッタースピード、絞り開放付近で(中略)ボケ像が欠けて写ることがあります」と簡単な記載のみ。この「ボケ像が欠ける」現象とは異なるものの、電子先幕シャッターでは高速なシャッタースピードにおいて露出(又は露光)のムラが生じるものと推察されます

キヤノンの説明書より
キヤノンの説明書より

キヤノンのマニュアルでは言及されていませんでしたが、ソニーα7R の説明書を見ると電子先幕シャッターの注意点として「高速のシャッタースピードで撮影する場合、撮影条件によっては画面の明るさにムラが出る」との記載があります。

ソニーα7R取扱説明書(P192)より
ソニーα7R取扱説明書(P192)より

なるほど、やはり電子先幕シャッターが原因のようですね。7Artisans 35mm F2は、かなり明るいレンズになりますので、日差しの強い場所では高速シャッタースピードになりがりであり、こうした露出ムラ等にも注意が必要です(私は気づかず何度か失敗しました)。
 

作例 (キヤノンEOS Rにて撮影)

以下、拙い作例で恐縮です。前述の「マゼンダ被り」や各種収差も「味」として愉しんで頂ければ幸いです。

Miitecafe.

(1/100 , F2.0 , ISO100) 開放F2では「周辺減光」が結構キツく出ますが、逆にこうした薄暗い場所では雰囲気出て(&「マゼンダ被り」も暗いと目立たなくなり)良い感じに撮れます。

因みに左上に写る小さな電球たちの光に注目すると歪んでいるのが分かりますね。
 

Cafe on the farm.

1/80 , F2.0 , ISO200) 同じく開放F2にて撮影。F2くらいだとEVFで拡大表示しなくてもピントが合わせやすいのがいいですね。
 

Cafe CUCO.

窓辺に陽がさしこむカフェにて撮影(f2 , 1/60 , ISO320)。フレアや色収差が激しいですが私が印象的に感じた風景を上手く再現してくれていると感じました。
 

Cafe FAbULOUS.

こちらも別のカフェでの朝の風景(f2 , 1/60 , ISO320)。中央こそ相応に解像していますが、すぐ周辺は割と直ぐにデタラメな写りなのも気に入っています。
 

Atrium.

周辺減光と色収差とマゼンダ被りの分かりやすい例ですね(f2 , 1/4000 , ISO100)。中心部以外は甘々で解像しないのも楽しいものです。
 

Sakiko is climbing rope-net. (KOTOBUKI CP-80034R).

こちらも随分と周辺減光と色収差とマゼンダ被り、更には露出ムラまで出てしまった失敗例な一枚(f2 , 1/5000 , ISO100)。

シャッターの設定変更を忘れた為に左側には縦に帯状の(前述の電子先幕シャッターによる)露出ムラが出ていますが(これをデジタル補正しない不精なのが私の性格)、手前から奥に連なる立体感が気に入っています。
 

sofacoffee wool.

カフェにて撮影(f2 , 1/125 , ISO100)。玉ボケ感はこのように中心部以外は若干潰れているものの、光のボケそのものは結構キレイと感じますが如何でしょう。
 

Sakiko enjoys a hot summer day at Moerenuma Park.

奥行きの遠近感、フレアの感じ、私は好きです(f2.8 , 1/400 , ISO100)。
  

収差が暴れているだけのレンズを・・・

手軽に買える値段で本家ズミクロンMと顕著な差が分からないと評された「7Artisans 35mm F2」ですが、収差にしても周辺減光にしても歪曲にしてもマゼンダ被りにしても、相応に癖の強いレンズなのは確か。それを”味”として愉しめる人には、は面白いレンズである、と考えます。

・・・そう、まさに↓この「収差が暴れているだけのレンズを〜」(By ていこくらんち)の件りを思い起こさせますね。〔了〕

「カメラバカにつける薬」(飯田ともき)より
カメラバカにつける薬」(飯田ともき)より
7Artisans 35mm F2をメルカリで探す


いいなと思ったら応援しよう!