
Canon EF17-40mm F4LとAPS-C機の相性が良い
Canon「EF17-40mm F4L USM」(2003年)なる、20年以上も前の超広角レンズを愛用しています。フルサイズ用レンズですが、APS-C機で便利ズームレンズとして用いるのがワタシ好みです。
価格が安すぎる、とくに中古
「EF17-40mm F4L USM」は一応キヤノンの高級レンズ「Lレンズ」のラインナップですが(定価120,000円、実売80,000円程)、Lレンズでは最も安価な中古価格相場で実売30,000〜40,000円程で取引されています。その為、所有している方も多いと考えます。
安かろう悪かろうなのかとネット上での評判に目を通すと、Amazon.co.jpのレビューでは「☆4.1(509レビュー)」、価格コムでも「☆4.69」(284レビュー)、ヨドバシカメラ.comでも「☆4.66」(53レビュー)と、ほぼ完璧と言える高評価を得ている(いずれも2025年2月現在)反面、肝心の写りがあまりよく無いとのネガティブな意見も目にします。
こうした両極端な意見はどうしてでるのか。そして何より中古が「格安」で流通しているのは何故なのか。なにせ1980年代FDレンズ時代のLレンズより安価な相場だったりしますからね。安いなりには相応の理由がある筈なので、以下、詳しく見てみいきましょう ↓
フルサイズ機では周辺解像度が甘い
どうやら「EF17-40mm F4L USM」の弱点は周辺解像度の描画力の甘さにあるようです。下記MTF曲線を見てみると ↓

MTF曲線の読み方(私も簡単にしか知りませんが)、ざっくり言うと曲線が上に張り付いているほど良い画質(グラフy軸=縦軸がコントラスト)を意味します。そして、下に書かれた0〜20の数値(=グラフx軸)は、センサー中心からの距離をミリメートルで表しています。
フルサイズ機(=35mm判)のセンサーサイズは約36mm×約24mm、この対角線を計算するには「三平方の定理」だから、=√(底辺2乗+高さ2乗)なので、iPhoneの電卓アプリで計算すると、約43.3mm。中心からの距離は半分なので÷2=約21.6mmが写真でいう右隅とかの端っこにあたります。
グラフを見ると、超広角レンズなのに広角端(左の曲線)を見ると、分かりやすいように赤枠を付けた部分、つまりセンサーの中心から14mmくらいの位置でガクンっと数値が落ちています。黒線の実線がコントラストの良さ(抜けの良さ)を表し、水色の実線が解像度の高さ(シャープさ)を表していますが、その両方とも見事な落ち込みようです。
分かりやすい比較として、最新キヤノンRFレンズラインナップで似た超広角レンズ「RF14-35mm F4 L IS USM」と比較してみます。以下がそのMTF曲線↓

なんだ、この雲泥の差は。凄いですねRFレンズ。「RF14-35mm F4 L IS USM」は236,500円と「EF17-40mm F4L USM」の約2倍の価格ですが、性能差は歴然ですね。
つまり、要するに「EF17-40mm F4L USM」は、超広角レンズなのに肝心の広角端(そして望遠端)の画質はあまり良く無いという事を意味します。
APS-C機では一転、高画質レンズに
ところが「EF17-40mm F4L USM」をAPS-C機に装着すると高画質レンズに早変わりするのです(!)。
なぜなら、APS-C機のセンサーサイズは(冒頭画像のキヤノンEOS 7D markIIでは)22.4×15.0mmなので、例によって「三平方の定理」で計算すると、対角線は27mmで、この半分となると13.5mmとなり、例のMTF曲線を13.5mm基準で見ると ↓ 以下のようになります。

キヤノン公式サイトの説明によると ↓
一般的に10本/mmのMTF特性が0.8以上あれば優秀なレンズ、0.6以上あれば満足できる画質が得られると言われています。
とあるので、APS-C機で使うと広角端は「優秀なレンズ」、望遠端でも「満足できる」〜「優秀なレンズ」に入ることが分かりますね。
尚、キヤノンとしては画角の近い「EF20-35mm F3.5-4.5 USM」(1993年・定価77,000円)の上位機種として開発されている訳ですが(その旨が公式サイトに記載あり)、1993年発売の「EF20-35mm F3.5-4.5 USM」はフィルム時代に作られた古いレンズです。MTF曲線を見ると ↓

絞り開放以外も掲載されている為やや混雑気味な曲線ですが、黒い線が絞り開放なのでそこだけに注目して見ると、当然ながら10年後に発売された「EF17-40mm F4L USM」が性能面で良いことが分かります。
以上のように、時代背景も考えると「EF17-40mm F4L USM」はAPS-Cに最適化されたLレンズと言えるのではないでしょうか。実際、MTF曲線でも明らかなように、フルサイズ機での性能曲線は割り切って目を瞑ったようにしか見えないですからね。
APS-C機との収まりの良いサイズ&重量感
上記画像はAPS-C機「Canon EOS 7D Mark II」に装着した際の「EF17-40mm F4L USM」。先般、別記事でも記載したのですが「EF17-40mm F4L USM」はAPS-Cデジタル一眼レフカメラ(DSLR)の相性がとても良いです。
キヤノンのAPS-C機に装着すると焦点距離が×1.6倍となるので、35mm判換算で約27〜64mmなズームレンズとなり、使い易い万能レンズとなります。
「EF17-40mm F4L USM」には純正レンズフードとして「EW-83E」が付属しますが、このレンズフードが大きくてカッコ悪いので、口径が同じな「EW-83H」を装着しています。
上記が純正レンズフード「EW-83E」。見た目以上にガバっと開いた大きなレンズフードで鞄に入らなかったり、カッコ悪かったりで不評です。
こちらは「EW-83H」。一気に引き締まってカッコよくなります。レンズフード自体の大きさが違いますが、APS-C機で使う分には全く影響ありません。反面、フルサイズ機で用いると広角端で僅かにケラれが生じるため、フードを削って使われている方もいるようです(!)。
※私は主にASP-C機に用いているのでレンズフードは削っていません。
ミラーレス機「EOS Kiss M」に装着。マウントアダプターの分、どうしても長さが強調されてしまう感は否めず。
作例(APS-C機で撮影)
拙い写真で恐縮ですが、APS-C機で撮影した作例をご紹介します。
JPEG撮って出し。天気がよかったので近所の公園にて、Canon EOS 7D mark IIに装着し広角端27mm相当にて撮影(f14 , 1/400 , ISO200)。
雪からの反射が強く、F14まで絞っていますが、抜けるような青空が気持ち良いですね。こういう日はEVFなミラーレス機より、OVFな一眼レフカメラでの撮影が好きです。
こちらも近所の墓地にて広角端27mm相当にて同じくCanon EOS 7D mark IIに装着して撮影(f5.6 , 1/1250 , ISO200)。墓石の文字とかくっきり見えるのもどうかと考え絞りを開けていますが、全体的にシャープな写りです。
インバウンド高級リゾート地と化したニセコにて、3月下旬の春スキー。ミラーレス機「EOS Kiss M」に装着して38mm相当の画角にて撮影(f10 , 1/400 , ISO100)。麓の町の隅々まで解像していますね。まるでiPhoneで撮ったように綺麗(!)。
札幌パークホテルのラウンジにて、ミラーレス機「EOS Kiss M」に装着し広角端27mm相当で撮影(f6.3 , 1/640 , 1/100)。当時は新型コロナの影響で店には誰も客が居なかった時代。いま思えば不思議な光景です。
同じ場所にて、こちらは望遠60mm相当の画角からの撮影(f7.1 , 1/320 , ISO100)。日差しの感じとか、カーテンの柔かな感触が伝わるような描画とか、かなり繊細で素敵な写りをしてくれるレンズだと思いませんか。
暗めなカフェの店内にて。ミラーレス機「EOS Kiss M」に装着して広角端27mm相当にて撮影(f4.0 , 1/60 , ISO125)。ズーム全域で開放F4の明るさがあるのは良いですね。
作例(フルサイズ機で撮影)
最後にフルサイズ機「Canon EOS R」にて撮影した作例をご紹介します。
札幌市内にある「国営滝野すずらん丘陵公園」にて、広角端17mmで撮影(f7.1 , 1/80 , ISO100)。ツリーハウスのテラスで寛ぐ次女。APS-Cでの作例に比較すると、粗が目立つ感は否めず・・・
次女とスノーシュー。広角端から少しだけ寄った19mmで、 f9.0 , 1/320 , ISO100。軽いレンズなので(475g)アウトドア遊びにも適しているのは良い点ですね。広々した空間が撮れるのは魅力ですし、明るい場所ではフルサイズでもキレイに撮れます。
EOS Rカメラ内でのレンズ歪曲補正ONでテスト撮影した写真なので奇妙な感じですが・・・広角端17mmにて撮影(f7.1 , 1/80 , ISO125)。歪曲補正機能のおかげで直線はキレイですが、解像感はあまり無いですね(中心部は兎も角)。iPhoneの方が見た目にはキレイに撮れそう。
結論、やはりAPS-Cで活きるレンズ
「EF17-40mm F4L USM」が発売された同じ2003年にキヤノンはAPS-C機「EOS 10D」をリリースしています。630万画素を備えたEOS 10Dは実質的に、一般向け普及用デジタル一眼レフカメラとして最初のモデルとなります(実際には2000年に「EOS D30」が出ていますが僅か325万画素しか無い上に、カメラ本体自体の作りもフィルムカメラ時代の延長に近いものでした)。
APS-C機での本格的なデジタル一眼レフカメラ時代を迎えるにあたり、標準域の万能ズームレンズとして「EF17-40mm F4L USM」が意識的に投入された感があります。つまり、APS-Cに最適化された性能であり、フルサイズ機でも超広角レンズとして「一応は使える」程度であった、と考えるのが自然です。
それ故に使い方によって評価も分かれ、総じて中古価格も格安なのでしょうね。〔了〕
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