見出し画像

『エピローグ』 #ナイトソングスミューズ







でも、ほんとうは
彗星は、あなたであって
わたしだった
暗くて冷たい、とおいとおい雲のかなたからある日
わたしたちは旅をはじめた
わたしたちは、ずっと 旅をしていた


彗星の尾っぽにつかまって、わたしたち 旅をしてきた
そして 今、
燃え尽きた彗星は塵となり 残るのは、ふわり宇宙に
揺られ漂うふたり
宇宙の片隅で、肩を寄せあって そう、やっと
辿りついたのね

つかんでも逃げていく
世界でたったひとり 存在したあなたを
わたしは愛している、
たとえ
燃え尽きたとしても
わたしは、あなたを愛している


彗星の尾っぽにつかまって、わたしたち 旅をしてきた
けれど、ねえ
わたしたち、いったいどこで出会ったのだろう
遥かとおくに
綴じられた記憶
暗くて冷たい雲のかなたから、きっと わたしたちも
ひとりで歩いてきた

ずっと探していた
こんなに近くにいたのね たったひとりのあなたを
わたしは愛している、
たとえ
燃え尽きたとしても
わたしは、あなたを愛している


あの、雲のかなたから
わたしたちは孤独な旅に出た
そうして
いつか出会って、ともに宇宙の旅をはじめた
ある日、
見つけた はかなくて冷たくて
美しい、
彗星の
尾っぽにつかまって


だから、ほんとうは
彗星は、あなたであって
わたしだった
暗くて冷たい、とおいとおい雲のかなたからある日
わたしたちは旅をはじめた
わたしたちは、ずっと 旅をしていた

愛している、いつまでも
彗星はあなたであって、わたしだったから
暗くて冷たい とおいとおい雲のかなたから、ある日
わたしたちは、旅をはじめた
わたしたちは
ずっと、旅をしていた
そして

今、
ここにいる


ふたりの、まほろば

これからも
ずっと、




『エピローグ』







こちらの企画に参加しています。


ポエムに解説をつける、ということに悩みました。
でも。
今回は、敢えて書きます。

この曲の歌詞に、こんなフレーズがあります。

燃え尽きるまで私は あなたを愛するでしょう
そしていつか燃え尽きたら 一緒に漂いましょう

しばらく考えていました。
「燃え尽き」たのは、「彗星」か。
「私」か、「あなた」か。
そしてそれは、考えるうちに「だれのことをも指すものなのでは」と思うようになりました。
だから、

でも、ほんとうは
彗星は、あなたであって
わたしだった

このフレーズからはじめよう、そう決めて、これを書きはじめました。
「わたし」が振りかえる、ふたりのその後の話。
『エピローグ』、として。

(「私」はどうしてもひらがなにしたかったので「わたし」としました)



彗星は、氷や塵からできているそうです。
その尾っぽは、太陽の熱で彗星の核がすこしずつ溶けてそれがガスや塵と混じって表面から放出されたものなんだとか。
宇宙のとおいところから途方もない時間をかけて空間を旅して、太陽に近づくことで己の身体を崩していく。
自らの身体を覆う淡い輝きの理由が、こんなに悲しいものだったなんて。

そう、
最初はそう思ったんです。
悲しい。
でも、考えるうちにそれが変わりました。

太陽にはきっと、だれもが抗えない引力があるのだと。わかってはいても、近づかないわけにはいかない。
どのみち限られたいのち、だれより近く、その深淵に触れたい。
そう思わせるものが、あるのだと。

それはきっと、ぼくらにも同じことが言えるのでは。
手さぐりで流れていく人生、こころ細くて不安で仕方なくて、光なんかどこにもないんじゃないかと途方に暮れる。
でもあるとき、苦難の果てに、やっと見つけるんです。
「毎日帰る場所」を。
孤独に生きてきた時間、それは彗星が黙々と、
耐え忍びそして、光を求めて旅をした軌跡と似ている。


限りある、わたしと同じいのちを持っているあなたと。
ずっと孤独と旅をしてきて、ようやく出会えたから。
だからこれからは、一緒に旅をしよう。
太陽をもとめて、この広い宇宙を旅しよう。
彗星のように人生を歩んできたふたり、
だからこれからは、「一緒に生きてゆこう」。

ふたりの太陽を探す、旅路をともに。


そうしていつか燃え尽きたふたりに、後悔などあるだろうか。
ふたりの太陽を見つけて、その熱を、限られたいのちに刻んで。

いつか燃え尽きたとて、
わたしは、あなたを愛している。

そうしてふたり、漂うところ。
それが、「ふたりのまほろば」なのではないかと。



※ここで書いた「」の中の言葉は、『彗星の尾っぽにつかまって』の歌詞につかわれている言葉です。



『彗星の尾っぽにつかまって』をテーマに自由に創作する。

嶋津さんのコンテスト応募概要にこのように書いてはあったけれど、すでに完結している作品に「終わり」を付け足すということがじつはかなりの暴挙なのではないかと、恐る恐る書きました。
適切じゃないかな、と思いましたが、創作に創作を重ねるというふだん滅多にないこのシチュエーション、怯えていないで思うままに出してみようと決めました。
また、重ねて恥ずかしいことを言いますが、この『彗星の尾っぽにつかまって』が収録されたアルバム『NIGHT SONGS』がリリースされたのが先月(2020年7月)、ぼくはこの応募作品をおそれ多くも、何年後かに「あの後日談」みたいな感じで広沢さんがメロディをつけて歌ってくれるシーンを妄想して書きました。まさに、「エピローグ」として。
ポエムが歌詞になるように、と意識しました。『彗星の尾っぽにつかまって』の歌詞にじっさい出てくる言葉や言い回しも敢えて多用しています。
それがいいか悪いかのジャッジはぼくがすることではないのでこれ以上書きませんが、明確に意図をもって言葉を選びました。

以上、長くなりましたが、「#ナイトソングスミューズ」に応募させていただきます。

広沢さん、嶋津さん
素晴らしい機会を、ありがとうございました。











定期購読マガジン『ポエムのある暮らし』はじめました。

いいなと思ったら応援しよう!

だいすーけ
いただいたサポートは、ほかの方へのサポートやここで表現できることのためにつかわせていただきます。感謝と敬意の善き循環が、ぼくの目標です。