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そろそろ結婚でも。

そろそろ結婚でもしてみようと思って。

仕事の帰り道、母にLINEをした。
数分後、すごいです!という文字の下に、ペンギンみたいな鳥が3羽、拍手をしているスタンプが送られてきた。
正確には、結婚は前提でまずは一緒に暮らすことにしたということなのだけれども。

大事なことだから直接話すべきことなのはわかっているのだけれど、昔からなかなかそういうことが苦手だった。
生まれてこのかた彼女を紹介したこともないし、彼女とは付き合いはじめて1年半になるけれど、今回だってもちろん何も伝えていなかった。
だから、帰って話す前にちょっとジャブを入れておこうと思って。

駅を出て、歩く。
はたして母はどんな顔をして待っているだろうか。
緊張のあまり、すこし顔が熱くなった。

おかえり〜!!

家に帰ると、いつもよりひとつトーンの高い声で母が迎えてくれた。
もうひとりの家族である犬は、いつも通り尻尾を振って、差し出した手をこれでもかと舐めまわす。
恥ずかしさのあまり、しばらく母の顔を見られないでいた。
決心して顔を上げ、

そういうことを考えています。

と、伝えた。

事情があって地元に帰り、母と暮らしはじめて5年あまり。
毎日淡々と家と職場の往復をつづけるアラフォーの息子を、母はどんな気持ちで見ていたのだろう。

食事を出してくれた母の目は、すこし潤んでいるようにみえた。
これですこしは安心させることができたのかなぁと、感慨に浸る。
...ヒマもなく、

どんな人なの?
いくつなの?
どこに住んでるの?
実家は?

仕事終わりでぐったりしているぼくにはお構いなしの、怒涛の質問ラッシュがはじまった。
本人よりもよろこんでいるみたいだ。
そう思ったけれど、実際そうなのだろう。

ごはん、食べたいんだけど...。
というぼくのつぶやきは、無視。

すこし経ち、一通り質問し尽くして、息切れしたようだ。
それでも、よかったね、あんたは昔からなんとかかんとか、独り言のように延々話しつづける母。
逃げるように食事を済ませ、シャワーを浴びる。
髪を乾かしてから、明日は早いからと、キッチンで作業をしている母におやすみの挨拶をした。

はい、おやすみなさい。

こちらを振り向くことなく、母は言った。
その背中はいつもより小さく見えたけれど、とても温かいと思った。

部屋に戻り、ベッドに入る。
目を閉じて、母のよろこんでいる顔を思い浮かべた。

あんな笑顔、久しぶりに見たかも。

そう思った瞬間、ぼくの目もすこし潤んでしまった気がしたけれど、目は閉じていたからほんとうのところはわからない。






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