心の国境を越えて
“Are you from Korea?” と言って私から話しかけた相手は、韓国人の大学生だった。バスの後部座席。まさか隣に座っていた男の子が韓国人だとは思っていなかったが、彼が急に他の座席の女の子と韓国語で話し始めたので韓国人観光客であるとわかったのである。”Yes.” と答えた彼は、始めは驚きと戸惑いの表情だったが、すぐに懐っこい笑顔を見せてくれた。大学のStudy tourで金閣寺に行く途中だそうだ。
私は日頃、機会があれば観光客らしき方々に話しかけている。自分自身の数少ない海外旅行経験を振り返ったとき、現地の人の温かさに触れた瞬間が、強く印象に残っているからだ。
韓国人観光客が隣にいると分かったとき、韓国旅行で多くの韓国人に助けてもらった思い出がすぐさま蘇ってきた。道に迷った私たちのためにパソコンで地図を調べ、プリントアウトまでしてくれた人。スマホでどの地下鉄に乗ればいいか調べてくれた人。地下鉄でわざわざ声をかけてくれて降りる場所を教えてくれた人。
そうした温かい思い出と同時に、歴史問題や領土問題のことも頭をよぎった。もしかしたら、彼は日本のことをあまりよく思っていないかもしれないとも思った。
いろんな思いを巡らせながら、私は彼に話しかけることを選んだ。彼は慣れない英語に緊張しながらも、日本人の私と言葉を交わすことを楽しんでくれているようで、一生懸命に笑顔で話を続けてくれた。彼の純粋で真面目そうな人柄はすぐに伝わってきた。たわいもない会話ではあったが、この時間が日本での温かい思い出のひとつとなり、やがて韓国に帰る彼の心に残ることを祈った。
小さな存在でしかない私に、大きな国家間の関係を修復することは不可能だ。しかし、小さいながらも、大きな希望をもってできることがある。そう信じて、今日も街を歩く。この希望の種が国境を越え、いつか花開く日を願って。
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