言語学の観点で見るアメリカと日本の行動比較
時はコロナ期真っ只中の2020年。大統領選挙に向けた活動が活発化していたアメリカにおいて、トランプ陣営による大規模な集会が新型コロナウイルス感染者を増加させたと、現地の保健局が発表したことがありました。マスクをしない聴衆が密集し、思い思いに大声で叫んでいる姿を見た時には、まさか今年の映像ではあるまい、と思わず目を疑ってしまいました。2020年当初、9割近い人がマスクを着用して外出することが常識であった日本に住む私の目には、それはとても衝撃的な光景として映ったのです。
実は、日米でこのような行動の違いが生まれる原因の一つとして、日本語話者と英語話者の《未来に対する捉え方の違い》が関係していると考えられます。
英語と日本語の大きな違いの1つに、「未来時制の表し方」があります。日本語では、現在について話す時でも、未来時について話す時でも、動詞を含む述部は基本的に同じです。
【例】
〈現在時制〉私は毎日[歌います]。
〈未来時制〉私は明日[歌います]。
一方、英語の場合は、通常、助動詞willもしくはbe going toを動詞の前に用いることで、未来について話していることをはっきりさせる傾向があります。
【例】
〈現在時制〉I [sing] every day.
〈未来時制〉I [will sing] tomorrow.
このことは、日本語話者が《未来は現在から繋がりのあるもの》と捉える傾向があるのに対し、英語話者は、《現在と未来は別の次元にあるもの》と捉える傾向にあるということを表しています。(これは大学時代に何かの本で読んだ知識です。)
つまり、《今、外出をできる限り自粛し、外出先ではマスクをすること》と、《近い将来、自分や周りの人がコロナに感染するリスクを下げること》を関連づけてイメージする力は、英語話者よりも日本語話者の方が高いということが推察されるということです。英語と近い言語を話す国々にも同じ事が言えるでしょう。
話す言語は、新型コロナウイルスのようなパンデミックの感染拡大だけでなく、日常生活の様々な行動決定の場面や価値観にも影響を与えていると予想されます。先のことは心配せず、今を思いっきり楽しむのか。老後を見据えて貯蓄をするのか。食べたいものを食べるのか。長生きするために健康的な食生活を心がけるのか。
《話す言語が寿命を分ける。》
耳を疑うような真実が、現実に存在しているかもしれません。
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