シナリオ「街角のロー・ファーム」
<登場人物>
本間幸恵(30) 弁護士
イ・ヒョンジェ(30)韓国軍諜報員
キム・スンジェ(50)韓方大久保薬局店主
リン・ズーリン(24)中国人技能実習生
青木恵美(26)法律事務所事務員
簡易宿泊所オーナー・女客・警官
●新大久保駅新大久保駅(全景)
●古いマンション(全景)
○同・居室
玄関に脱ぎ捨てられた何足もの女物の靴、
狭い台所に調理器具が並んでいる。
2kの居室に、2段ベットが三つ。
6人の共同生活。
ベットの上段に、リン・ ズーリン(24)が
座り、中国語の新聞を読んでいる。
部屋のオーナーの女性が入ってきて、
オーナー「リンさん、部屋代三日分滞ったら出てってもらうわよ。
一日千二百円の部屋代なんか、払うのはわけないでしょ。
お金ないなら、いい店紹介するよ]
ズーリン「もうすぐ、会社からの回答もらえるはずだから、
あと、少しだけ待って」
オーナー「この街のビジネスはね、あんたが勤めていたような
ケチな田舎の工場なんかとは違うのよ、お宝を掴むチャンス
がゴロゴロしているっていうのに、その器量でね。
もったいないこと・・・」
溜息をつき、出ていくオーナー。
ズーリン、オーナーを見送ると、再び新聞を真剣に読みだす。
ズーリン「これだわ」
新聞記事に赤マルをつける。
●韓方大久保薬局(全景)
裏通りにある小さなドラックストア。
韓国式の漢方も取り扱っている。
○同・店内
キム・スンジェ(50)が、女客に漢方薬の効能に
ついて説明している。
イ・ヒョンジェ(30)が、汗をかきながら、
店の棚に商品を陳列している。
女客、ヒョンジェを見ながら、スンジェに向かって、
女客「韓流スター並みのイケメン店員がはいったって聞いたけど、
噂以上だわね」
スンジェ、笑いながら、
スンジェ「店員じゃないよ。甥っ子さ。
休暇で日本に遊びに来ているだけ」
女客「なーんだ、それじゃ、すぐに帰っちゃうのね。がっかり」
ヒョンジェ、女客ににっこり微笑む。
●ひまわり法律事務所
裏通りにある法律事務所
○同・中
事務机にむかっている青木恵美(26)。
本間幸恵(30)が、大きなバックをさげ入ってくる。
幸恵、入ってくるなり給湯室の冷蔵庫を開け、おいし
そうに牛乳を飲む。
幸恵「ああ、お腹すいた、調停、長引いちゃって。
やっぱり、遺産相続はお金になるけど気を使うわよね。
どう、中国語の新聞記事、いい宣伝になってる?」
恵美「電話、ひっきりなしだけど、中国語でまくしたてられても、
さっぱりわからない。こんなんで、クライアントが増えるの
かしら。お金持ちの客はいなさそうだけど・・・」
幸恵「いいのよ、まずは依頼が殺到することが大切なんだから。
でも、人権派だけじゃ、弱いかな。ズバリ美人弁護士って
宣伝できればねえ、」
恵美、溜息をつき、
恵美「ここ、つぶれたりしないわよね。もう、男運のわるい女が、
金運にもめぐまれなかったら、最低」
不安そうな恵美の顔。幸恵、恵美の肩
を叩いて、元気づけるように、
幸恵「大丈夫、破産も得意分野だから」
恵美、がっくりと肩を落とす。
そこへ、ズーリンが入ってくる。
ズーリン「あの、新聞、見たのですけど、」
恵美、あわてて、ズーリンを招きいれ、
幸恵にむかって、小声で、
恵美「男運も金運もよさそう・・・」
幸恵、小さく、肩をすくめる。
○同・相談コーナー
事務所内の客用応接セット。。
幸恵とズーリンが向かい合って座っている。
幸恵、手元の資料を見ながら、
幸恵「明らかに、不当解雇だと思うな。特定活動のビザが
切れる前に一方的に解雇、なのに、研修生を送り込む
中国側の共同組合も、動かない」
ズーリン「ワタシ、納得いかない。一人でも闘いたいと思ってる。
それに、まだ、ワタシ、中国に帰れない。日本に来るための
借金が残ってるから」
幸恵「それ、ブローカーも絡んでるってことよね。」
腕組みをして、考え込む幸恵。
○同・事務所(夜)事務所の窓に映る幸恵の姿。
それを、物陰から見ている男の姿。
○夜道
裏通り。人影なし。雨が降っている。
幸恵が、駅にむかって、歩いている。
物陰から、突然、男が現れ、幸恵に殴りかかる。
幸恵、とっさに身をかわすが、驚いて、声が出ない。
男に追い詰められ逃げられない幸恵。
そこに、ヒョンジェが歩いてくる。
ヒョンジェ「(韓国語)なにしてるんだ!」
ヒョンジェ、男に殴りかかる。ヒョン
ジェの回し蹴りが、男の腹に一はいり
男はうめいて、うずくまる。
男、走って、逃げ出す。
ヒョンジェ、幸恵に駆け寄る。
泥だらけの幸恵の服をみて、
ヒョンジェが自分のジャケットを脱ぎ、
幸恵の肩にかける。見つめ合う二人。
パトカーのサイレンの音。ヒョンジェ
あわてて去っていく。茫然とする幸恵
○新宿警察署・全景(夜)
○新宿警察署・内(夜)
幸恵が警官に事情聴取されている。
警官「加害者に、心当たりはないと・・・」
幸恵「ええ。全く。ところで、あの、私を助けてくれた人、
見つかるでしょうか」
警官「韓国人か・・・イケメンでしたか?」
幸恵「はい」
警官「(にっこりして)即答ですね。うーん。
そっちの方こそ、探すのはむずかしいなあ。
なんで、逃げちゃったのかな。やっぱり、なにかな、
彼も脛に傷持つ身なのかな。」
警官、上司に呼ばれて、席を立つ。
幸恵、一人残されて、溜息をつく。
羽織っているジャケットのポケットに
小さなバッジが入ってるのに気付く。
バッジを取り出し、じっと見る。
幸恵「何、これ?」
警官が戻ってくる。幸恵、バッジを握
りしめて隠し、何事もなかったように、
幸恵「そろそろ、帰っても、いいですか」
ゆっくりと、席を立つ。
つづく