韓国ドラマ「39歳」にみる内観志向
内観を促す問題提起が余韻を残す
ソン・イェジンの結婚前の最後の出演作となった「39歳」がNetflixで配信中だ。日韓ほぼ同時で、世界配信であったが、わたしはリアルタイムで視聴した。女性たちの友情を描いた丁寧なつくりのヒューマンドラマだった。
韓国では、時間帯やジャンルの割には、視聴率も善戦して評判も良かったようだし、日本はじめアジア諸国では、ネトフリランキング1位も取っていたようだった。しかし、そういった評判以上に、わたしには余韻の残るドラマとなった。なぜなら、あなたはどう思うのかという、いろいろな問題提起がなされていて、視聴者に内観を促すドラマだったから。
わたしが問題提起だと思ったことは、以下のとおりである。
(1) 39歳の女性3人の友情を中心に描いているが、子どもを産むかど
うか選択については、全く触れていない点。3人とも、未婚の設定なの
で、触れなくとも不自然ではないが、出産適齢期という点からみれば、
29歳の設定なら差し迫った選択は迫られず、これが49歳の設定なら
ばもう関係ないと言っていいだろうが、39歳という微妙な年齢をドラ
マの表題に持っていきながらまるで触れないのには、なぜだろうか。
(2) 「養子」問題の光と影を描いている点。
子どもを育てるのは、家庭である。血縁関係がなくとも、素晴らしい
親子関係を築ける人たちもいれば、そうでない場合もある。このドラ
マでは家族を縛っている「血」の呪縛からくる偏見についても、ちゃ
んと向き合っていた。
(3) 39歳で仕事を持つ独身の女性たちが、生きづらさやストレスを互
いに支え合って乗り切ろうとする点。
主人公3人の女性の恋愛模様も描かれているが、男性とは高揚した
ウキウキ気分で付き合っているが、自身の心のなかの悲しみと向き合
うときは女同士の友情が支えとなっていた。
以上の3つの視点は、ドラマのなかでは、ありそうでなかった、少数派であるという点が面白かった。
多数派の関心を引こうとして、ドラマを作ろうとすれば、39歳は、出産するかどうかの決断の時期としてとらえるか、はたまた、子どものいる女性、未婚の女性といったように、カテゴライズして、それぞれの持つ悩みを共感できるような友情物語するか、といったところではないだろうか。
また、出産育児で、どうしたって弱い立場に置かれる女性は、自分を守ってくれる男性(恋愛相手)を見つけられるかどうか、といったところに同世代の多く女性の関心が集まるわけで、そこを狙ったメロドラマといった感じではないだろうか。
それにしても、「愛の不時着」で世界的な人気を獲得して、大作ドラマや映画のオファーもたくさんあっただろうソン・イェジンが、なぜこのマイナーな観点からのドラマに出演を決めたのかといろいろと考えさせられるのであった。
チョン・ミドが言った「千軍万馬を得た気分」とは?
「39歳」の主演3人の中で、最初にキャスティングされたのが、チョン・ミド。彼女が演じるチャニョンが、このドラマのキーマンであり、彼女を中心にストーリーが展開されていく。普通なら彼女の役が主役だろう。
そんなドラマに、あのソン・イェジンが、親友役として加わると知った時、チョン・ミドは、まさに千軍を万馬を得た気分となったと語っている。
これは、ソン・イェジンの演技力とネームバリューが、ドラマの視聴率を押し上げてくれるだろうという期待と、なにより、実力はあってもマイナーなクリエイーターたちにとって、強力な援軍を得たことが嬉しかったのではないだろうか。
役者の格付けからいえば、ソン・イェジンは主役をはるところだが、前宣伝こそ彼女を前面に押し出しているものの、ドラマでは、3人のコラボがちょうどよく配置されていた。そのあたりのバランスも良かったと思う。
チョン・ミドを主演に抜擢しただけあって、他の出演者も実力派ぞろいだ。私が、特に注目したのは、ソン・イェジン演じるミジョの姉役のカン・マルグム。映画「チャンシルさんには福が多いね」の主演女優だ。
このドラマの監督も、爽やかな好青年といった感じで、脇役陣も見たことある方ばかりだが、制作発表会はなんかほっこりした雰囲気を感じた。それは、今問題となっている映像コンテンツ制作現場での、パワハラやセクハラとは真逆の雰囲気だった。
ソン・イェジンはこれからどこに向かおうとしているのか
ソン・イェジンは、「愛の不時着」の世界的ヒットを受け、ハリウッド映画への出演が予定されていたが、コロナのために延期となった。
あのSF映画の名作「ガタカ」の監督アンドリュー・ニコルからのオファーだというので、大いに期待していたが、今はどうなっているのだろうか。
あくまで延期なのか、それとも白紙に戻ったのか。
どちらにしても、ファンとしてはちょっと残念だったが、あの「世紀の結婚式」の写真で、だいぶ満足した。我ながらなんてミーハーなのか。
ソン・イェジンは、大作もいいけれど、「39歳」を見たら、こんな小作品の映画でもいい気がする。やっぱり確かな演技力があるからだろう。
このドラマのインタビューのなかで、チャニョンのためにミジョは自分のやりたいことを諦められる成熟した女性だといっていたソン・イェジン。
一見、自分のやりたいことを、誰かのために後回しにするという決意表明に聞こえなくもない。だが、ミジョはチャニョンのために、アメリカ留学をあきらめたけれど、それよりももっと大事なものを手に入れたように、そこは、やっぱりCEO気質のソン・イェジンなので、ドラマ「39歳」で知り合った人脈を生かしつつ、新しいジャンルのものを見せてくれるのではないだろうか。思わずそんなことを期待してしまった。