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日本のドラマだって面白い「きのう、何食べた?」~ゲイカップルのおいしい生活~

 かつて、アジア文化圏を席巻したのは、日本のドラマであった。
 友人の40代のタイ人女性も、中国人女性も、2人とも、とっくに日本国籍だけれども、山口百恵の「赤いシリーズ」を、少女のころ、母国で見ていたという。
 百恵ちゃんドラマはじめ日本のドラマは大人気だったそうである。
 だから、2人とも、来日した時には、「国立」まで行ったのだという。 「え!百恵ちゃんに会いに?それで会えたの?」と聞くわたしに、「会えたわけないじゃないですか(笑)」とあきれられてしまった。

 しかし、現在はどうだろうか?
 日本のドラマに、アジア圏を席巻するような、魅力があるだろうか?

 いやいや、まだまだ捨てたもんじゃない、日本のドラマだって面白いのだと堂々と言えるドラマがこれ、「きのう、何食べた?」である。
 中国や韓国にも自慢できるこのドラマの見どころを3つ紹介したい。

あらすじ
「シロさん」こと筧史朗と「ケンジ」こと矢吹賢二の2人は、同棲するゲイ・カップルである。
ゲイであることを隠しながら弁護士として働く史朗は、慎ましいストイック気味の倹約家。将来に備えた家計管理の一つとして2人分の食費を月2万5千円に収める事を目標にしながらも、仕事は最小限に定時で切り上げてまで2人の食事をつくることに喜びを感じている。
片やゲイであることを隠しもせず美容師として働く賢二は、自分の「愛」に一途なロマンティスト。そんな2人が、お互いの価値観の違いやゲイ・カップルである事ゆえの葛藤と向き合いながら、2人で一緒にいることの意味を確かめ合って絆を深める姿を「食」を通して紡ぐ物語。

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①「セクシュアリティとジェンダー」をテーマにした洗練されたストーリー展開

 以前に、私の記事で、日本では「セックス・エデュケーション」のようなドラマをつくるのはむずかしいだろうと書いたことがあったが、このドラマでは、LGBTについて取り上げながら、セクシャリティとジェンダーの問題に踏み込んで描いている。
 従来タブー視されていたテーマを、「お茶の間」にあげることを、可能にしたのが、日本のホームドラマならではの上品でリアリティのあるドラマの設定と、そこで繰り広げられる洒落た会話劇である。
 このドラマでは、性的で直接的な表現は皆無でありながらも、LGBTの社会的な障壁については、情緒に流されずにきっちりと描いている
 悪人もいなければ、非現実的な事故もおこらず、「復讐」や「運命」などというスパイスも使わず、日常生活を淡々と描きながらも、そこにドラマ性を持たせて、テーマに迫っていく。
 これぞ、日本のドラマづくりのお家芸であるといっていいだろう。

②大人の魅力満載の出演者の余裕のある演技

 主演は、西島秀俊と内野聖陽。今更、言うまでもないが、どちらも、イケメンでセクシーかつ知的な魅力にあふれ、演技力も保証付きの俳優である。
 それは、たとえば、冷蔵庫のCMになんかに出た日には、今度買い替えるなら、高くても絶対これにするわと主婦に決心させるだけのパワーがある俳優なのだ。って、何言ってんの、わたし?
 このダブル主演の2人が、肩の力を抜いて、熟練の演技力で魅せてくれるシーンの数々は、思わず引き込まれてしまう。そして、脇を固めるヒトクセある登場人物たちも、ドラマに深みを与えている。
 東アジア文化圏に台頭著しい韓国や中国のドラマであるが、俳優は、2枚目と3枚目の間には、きっちり線が引かれ、役割を分けられているような作りになっている。でも、それもまた、男らしい?ジェンダーは、セクシーだという思い込みの表れだと思う。それに対抗するわけではないが、こういうドラマを創ることで、理想の男性像にも多様性を訴えることができるのではないか。


③毎回出てくる料理レシピに集中しているうちに世界観が変わるトリック

 ドラマでは、毎回、料理番組張りの詳細な描写の調理シーンが出てくる。料理の内容も、ストーリーと関係している凝りようである。この私でも作れそうというレシピに集中しているうちに、男女の役割分担やジェンダーについても、自然と考えをめぐらすようになるというところが面白い
 ドラマでは、買い物するのも料理作るのも、シロさんが中心だが、もちろん、ケンジだって家事はできる。料理や家事をしてくれた相手に対してリアクションも良くて、お互いに幸せそうだ。
 そんなシーンが、じわじわと効いてきて、愛するとは、誰かと一緒に暮らすとは、家族とは、幸せとは何かを考えさせられる。これこそが、ホームドラマの醍醐味なんじゃないだろうか。

 だけど、このドラマこんなに面白いのに、私は、リアルタイムでは見逃してしまっていた。こんなドラマをやっていることにすら気が付かなかった。
見るドラマが決まらず、Netflixサーフィンをしている時に、偶然見つけたのである。自分のアンテナが鈍っていることを棚に上げていうが、日本のドラマは、少し宣伝不足なんじゃないだろうか。



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松幸 けい
最期まで読んでくださってありがとうございます。誰かに読んでもらえるなんて、それだけで嬉しいです。もし、気に入っていただけたら、スキしていただければもちろんもっと嬉しいです。よろしくお願いします。