あの叙述トリックは失敗だったのか?(2)自己参照式フィクション/『虐殺器官』読解
(第1回から続く)
『虐殺器官』はキャラクター優先で書かれていた。
この事は、作者自身のインタビューでも明言されている。
テクノロジーにより成熟を阻まれた、青二才のキャラクター。
では、このキャラクター造形はどこから来たのか?
殺し屋として仕事をこなし、ある時は内省しある時は欺瞞する。
そんなユニークなキャラクターは、果たして。
改めて、振り返ろう。『虐殺器官』とはどんな小説か。
表面上は無論、「近未来、特殊部隊を舞台にしたスパイミステリー」である。特殊部隊の潜入作戦はもちろん、ゲーム『メタルギア』シリーズの影響を思わせる。
一方で、作家・伊藤計劃に従軍経験はない。ましてや、アメリカ人だったことも。自伝や体験の反映などと述べる余地は、およそ無さそうに見える。
ここで留意すべきは濃淡の存在だ。何かしら体験の反映があったとして、それが作品の全てとは限らない。誰が見ても分かる事もあれば、部分的にとどまる事もある。
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