藤子・F・不二雄『ヒョンヒョロ』2周目を読む。
・本稿は既読が前提です。必然、オチを含めた作中のネタに触れています。
・ページは『藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編』4巻のものです。157pが1p目(表紙)に相当しています。
・扱うのは本編中の描写のみに絞っています。
登場人物一覧:
マーくん(マーちゃん):空想癖のある男の子。字はまだ読めない。
うさぎちゃん:宇宙人。ヒョンヒョロを入手すべく人間へ接触。
ママ:マーくんの父。
パパ:マーくんの母。
警官:誘拐事件の担当。部下を多数率いる。語尾はほぼ「でしゅ」。
・うさぎちゃんと人間のすれ違い
本作には様々なすれ違いが描かれているが、作品の把握にはまず、以下の一点をおさえるといいだろう。
・「ヒョンヒョロとは何か?」を、うさぎちゃんに対しどう確かめているか?
この点について振り返ると、およそまともには聞けていない。聞けたのは唯一、マーくんだけでだ。しかしながら、そのくだりの結末はどうか。
結局のところ、最後まで聞けなかった点では他の人間と同じだ。かくして、ある時はギャグ、ある時は文化の違いにより、作中でのヒョンヒョロの正体は長く謎のままとなる。
そして終幕直前。何気ない一コマに、決定打は仕込まれている。
ヒョンヒョロが何か分からない父親は「金で換算してもらうよりしょうがない」と考え、うさぎちゃんへ「預金やら家内のヘソクリ」などの「あらいざらい」を渡そうとする……気が急いてか、約束の時間よりも早く。
そんな父親に、うさぎちゃんは言う。
ここでのポイントは3つだ。
1・うさぎちゃんは時間通りの行動を誠実さと見なしていること。
2・ゆえに、時間より早く渡そうとした相手を「ルーズ」と判断したこと。
そしてもうひとつが、
3・事前に中身を確認できず、誤解をとく余地がなくなること。
かくしてすれ違いは、ヒョンヒョロの正体を尋ねることで最大の山場を迎える。
うさぎちゃんにとって非常識であるとの判断は、直前の「ルーズ」さと整合してしまう。必然うさぎちゃんは、警官の台詞をそのままなぞりつつ、この結論に達するのだ。
そして眼の前の相手が「信ジラレナイ」となれば、交渉は決裂するしかない。なぜなら、ヒョンヒョロの所持者である子どもを巻き込まないよう、既に約束しているからだ。
このシーンではうさぎちゃんだけ、子供がヒョンヒョロを持っていると知っている。台詞の意味を補完すれば、
・「(子供がヒョンヒョロ所持者なのに交渉から外すのは)ちょっとおかしいのでは」
・「(所持者を交渉から外すのは)変則的だが約束する」
となる。約束を果たしたがゆえに、うさぎちゃんが取れる手段はひとつしか残されていない。
・エピローグ後
うさぎちゃんが作中の手段に至らざるを得ないことは分かった。
ではその後は、果たしてどうなるのだろうか。
これについては作中情報で、ある程度まで絞り込むことが出来る。
以下、該当箇所を見ていこう。
まずは仮に、うさぎちゃんにヒョンヒョロを渡せた場合だ。これは以下の箇所が参考になる。
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