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「できる日本語」の「できる!」に悩む人に伝えたい話

 先日、こんなツイートをしました。

このツイートから数日たったある日、思いがけず「できる日本語」の監修者である嶋田和子先生からメールが届きました。

私はTwitterはしていないのだけど、友人からこんなツイートがあったと教えてもらった。もしかしたら、「タスク」の捉え方が違っているのでは?と思ったりしている。

先生のメールを読むうちに、恥ずかしいやら、情けないやら、申し訳ないやら・・・いろいろな感情があふれてきて、あんなツイートするんじゃなかったと後悔しました。

しかし、伝わってしまったからにはしかたがありません。
意を決して、私がうまくいかずに悩んでいる状況を返信させてもらいました。

すると、「メールでは伝わりにくい部分があるから、Zoomで話しましょうか」とお声がけいただいたのです。

そして、そして、そのZoomミーティングが昨晩でした。
嶋田先生といっしょに、「できる日本語」の著者のお一人森節子先生もお話を聞かせてくださいました。

嶋田先生には「メールアドレスも知っているし、facebookでもつながっているのに、どうして早く相談してくれなかったの?」とも言われました。

いやいや、どうしてって・・・こんな個人的な悩みをお忙しい先生に直接相談するなんて畏れ多くて・・・としどろもどろになっていると、先生がカメラの向こうで両腕を広げながらおっしゃいました。

「私はもっとみんなとつながりたいの!つながって、みんなでよくしていきたいんです!」

表情からも手ぶりからも気持ちがあふれていました。
お二人の先生とお話させていただいた時間はこれ以上ないほど有意義なものでした。何かお礼をしたい・・・心底そう思います。

そんな学びを無償でくださった嶋田先生と森先生の心意気を今度は私と同じように悩んでいる人にお伝えすることで、恩返ししようと思います。

今日ここに書くことはCan-doシラバスに慣れた方なら当たり前のことかもしれません。でも、私のように文型積み上げシラバスにどっぷりつかり、アンラーニングできていない人にとっては有益な話ではないかと思います。

恥ずかしながら、私の勘違いや失敗も書いてみます。
私も嶋田先生のように「みんなでつながって、よくしていきたい」そんな気持ちで発信するので、お付き合いください。

「できる日本語」の構成

念のため、できる日本語の構成を確認しておきます。「できる日本語」P8に各課の構成と授業の流れがありますので、そちらをご覧ください。

私が現在教えている「できる日本語初中級」(黄色)は各課に2つのスモールトピックがあります。

スモールトピックは チャレンジ→言ってみよう→やってみよう の流れになっていて、二つのスモールトピックを終えたら、最後に「できる!」をやることになります。


私がツイートした「タスク」とはこの「できる!」のことです。
そして、今回のこのnoteのキーワードは 行動目標、接触場面、対話 です!!

「できる日本語」の「できる!」は課のまとめではない!

私は「できる!」はこの課で学習したことの総仕上げ、まとめだと思っていました。
「まとめ」だから、習った語彙や文型を使ってほしい。
「総仕上げ」だから、この「場面やトピック」でたくさん会話をしてほしい。

例えば、第9課の「できる!」は以下の二つです。

1、 グループでアルバイトや仕事の経験を話す 
2、 聞いた話をもとにシナリオを作って演じる

来日できずオンラインで海外から授業を受けている学生たちにはアルバイトの経験が1度もありません。だから、このタスクをこのまま使うことはできず、私はこの課で学んだことを踏まえて、以下のようにアレンジしました。

1, 自分の店を作ろう!どんな店を作りたい?その店のルールを考えて、店長として、スタッフに仕事を教えよう。
2, あなたの国のゲームを紹介し、そのルールを説明しよう


こんなふうに考えてやってみたものの、1で特にお店をやりたいと思っているわけでない学生から出てきたものはスモールトピックの繰り返しのような話ばかり。そして、どうしても「自分の話」ではないというジレンマがありました。

2に至っては、「ルールの説明」をしてスモールトピックででてきた表現は使えてはいるものの、果たしてこれが今回の場面やトピックに合っているのか?これを目標に勉強してきたわけではないのに・・・。そもそもゴールって何だっけ??前の練習とのつながりは??とモヤモヤが残ってしまいました。


ここで私の問題提起をふりかえると、自分でも気がつくことがあります。
それは、私が考える「習ったことが使えていない」というのはこの課に出てきた語彙であり、文法であり、「合っていない」と感じていたのは「場面」だということです。


 それは「行動目標」ではありませんでした。


そこには気づけたものの、いまいちすっきりしません。そこにたたみかけるように嶋田先生がおっしゃいました。


「つながっていなくたっていいのよ。そもそもまとめは「やってみよう」で終わってるし。」


え??まとめは「やってみよう」で終わっている??

そう思って、「やってみよう」を見てみると、確かにスモールトピックで学んだ「場面」「トピック」での語彙や文法などの表現のまとめになっていて、ここで出てきたものを振り返られる内容になっています。


そして、もう一度「できる!」に戻ってみてみると、「できる!」はその枠を超えていることに気がつきます。でも・・・。

私は無意識にこう言いました。「でも、学生にどんなことを話させたらいいかわからない」。

これに対して、嶋田先生がおっしゃったのです。

「話をさせるんじゃないんですよ!対話だから。対話って、相手がいるんですよ。だから、まず聞かないと。学生に話させるんじゃなくて、あなたは学生から何が聞きたいのか。自分が聞きたいたいと思っていないことは対話にならない。」


これはガツンと聞きました。
頭だけでなく、おなかの底に。
ガツンというより、ドスン。


腑に落ちるとはこういうことを言うんだなと思いました。
私の頭はどうしても、「あの文型を使って、何が言えるか。」「あの語彙を使うには?」に行きがちです。だから「学生に何を話させるか」という発想になってしまうのです。

 私は学生から何を聞きたいか。

そういう視点で自分の作ったタスクを見ると、これは私が学生から引き出したいことではなく、やっぱり「言わせたい」ことだったのだと思います。


行動目標=場面・トピックではない!Can-do=場面・トピックではない!

上の見出しを見ると、おそらく多くの方が何を今さら?そんなの当たり前じゃん!と思われると思います。


昨日までの私もわかっているつもりでしたし、日本語教師養成講座でシラバスについてレクチャーしたこともあります。


それでも、昨晩の嶋田先生と森先生とお話して、自分が何もわかっていなかったことに気がつきました。


第9課を例に続けます。

スモールトピック
1、 アルバイト先のルール
2、 楽しいアルバイト


だから、私はこの課ではアルバイトの話をしなければならないと考えました。


アルバイト先のルールを言う道具としての文型。
アルバイトの経験を話す道具として語彙がある。


本気でそう思っていました。

でも、この課の行動目標を改めて見直すと、

集団の中で気持ちよく仕事ができるように、周りの人のことを考えながら、会話することができる

「アルバイト」なんて一言も出てこないのです。

そして、「集団の中で気持ちよく仕事をする」というのは「趣味の集まり」や「近所付き合い」とは違います。接触場面が違うのです。


「趣味の集まり」はおそらく「友達」であり、気が合う相手です。もし、人間関係に失敗したら付き合いをやめてもかまわない相手です。でも、「仕事」における人間関係はそんなに簡単に離れられるものではありません。性格が合わない、話が合わない、そんなことに関係なく「仕事」という目的のために協働しなければならない人間関係です。

「周りの人のことを考える」には待遇表現も必要でしょう。待遇表現は敬語だけでなく、気遣いの表現も含まれます。


簡単に離れられない相手と気持ちよくやっていくために気遣いをする。
この行動の場面を考える時、多くの留学生にとって、それがアルバイトであっただけで、場面は必然ではありません


仕事の場面では言いにくいことも言わなければならないかもしれません。それが、「アルバイトのルールの説明」であっただけ。本質は「周りの人のことを考えて話す」ことにあるのです。

そういう視点で私が考えたタスクを振り返ってみると、
「自分の店のルールをスタッフに伝える」というタスクは自分がオーナーだと、極端な話少しくらい横柄な話し方をしてもいいかもしれません。


「ゲームのルールを伝える」に至っては、発表のとき、「相手を嫌な気持ちにさせない」なんて意識は微塵もなく、語彙や文型ばかりを気にして聞いていました。

しかし、本来ここで考えるべきことは「職場でルールを伝える」という表面的なことではなく、「どうしてもうまくやっていかなければならない相手と気持ちよく話すこと」です。

そういう意味で、私が考えたタスクは全く的外れのものでした。

私がこういう勘違いをしてしまった原因は出発点が「語彙と文型」×「場面・トピック」だからに他なりません。

だから、「場面が合わない」、「習ったことが出てこない」と感じ、モヤモヤしてしまっていたのです。

「集団の中で気持ちよく仕事ができるよう、周りの人のことを考えて会話する」をゴールとすれば、まだ来日できていない学生にもあり得る状況です。

「ルールを伝える」は言ってみれば、その場にふさわしい行動を伝えることです。

だったら、例えば国のマナーでもいいのかな?

そう言うと、森先生がおっしゃいました。

国のマナーを他の国の学生や私(日本人)に教える。
私(日本人)があなたの国でマナー違反を犯したら、あなたはどうするか。どう伝えるか。
これはこの課の行動目標にあった接触場面ですよね?

ああ、そのとおりだ。

少しずつ自分の理解が深ってくるのを感じました。

それなら、オンライン授業を受ける際のマナーだっていい?
オンライン授業を始めて受ける後輩にミュートやブレイクアウトのマナーを伝えたり、オンライン授業でマイクがミュートになっていない人を注意したり。

こういう場面ってたくさんあります。

考えればどんどん出てきます。

そう考えていたら、「場面が合わないから、辛い」なんて気持ちは吹き飛んで、いろいろ試してみたくなりました。

今、私と同じように「場面が合わないから使えない」と感じている方がいらっしゃったら、もう1度「行動目標」を読み込んでみてください。そうすれば、やらなければならないことの本質が見えると思います。本質を考えれば、「場面」は決して狭いものではなく、アイディアも浮かびやすいです。

まとめ

しみついた「文型積み上げ頭」から離れるのはたやすいことではありません。私のモヤモヤの原因は教科書ではなくて、どうしても教科書の語彙と文型と場面から離れることができない私にありました。


「できる!」は課のまとめではありません。

行動目標は 語彙・文型×場面・トピックではありません。

行動目標の本質を考えれば、場面は必然ではありません。

もし、このnoteが勉強になったと思ったら、みなさんの周りの方にもこの内容をお伝えください。みんなでつながって、よりよい日本語教育を考えていきましょう!


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