
人生で初めて暴力に手を染めてしまった話ー【企画】忘れられない外国人のあのひとー
忘れられない人・・・。私が人生で初めて暴力をふるってしまった学生の話です(笑)
私は台北で学生をしながら、いろいろな教育機関で日本語を教えていました。その1つが職業高校の応用日本語科。学歴社会の台湾では高校の職業高校は普通科高校に入れなかった学生がいく所です。しかも、応用日本語科となれば、英語科などの人気コースに入れなかった学生が集まるクラス。学校の生活指導教員は軍服を着たいかつい元軍人でした。
そこで教えていたとき、前から2番目に、まー、態度の悪い学生が座っていました。
身なりからして、いかにもヤンキー。髪は茶色で、ツンツンたってました。
いつもは居眠りしている彼ですが、その日はなぜか授業を妨害してきたのです。私が説明すると、日本語で「わかりません」と言ってくる。
もう1度説明しようとすると、大声で他の学生に話しかけていて、聞いていない。
静かにしろと注意すると、笑いながら私がわからない台湾語で何か話し続ける。
その学生の近くに行って、あなたは質問があるのではないのか?と聞いても笑っているし、静かにしろと言っても聞かない。完全になめていて、何を言っても態度を改めなかったので、中国語で「授業を妨害するなら、出て行け」と言うと、「授業料を払っている」と言い返してきました。
「他の学生も授業料を払っている。私には他の学生に教える義務がある。」と言いましたが、何かわめいて、出ていかないので、とっさに彼のかばんを廊下に持っていって投げ捨て(これは本当に私が悪いです。若気の至りでは済まされません。反省しています・・・。)、「早く出て行け」と言いました。
彼が怒って喚いていたので、その腕を掴んで教室から出そうしたとき、避けようとした彼の腕が、前の席の女の子の頭に当たってしまいました。
不可抗力です。でも、それを見た瞬間・・・
何が起こったのかわかりませんが、私は彼を叩いてました・・・。
思いきり、背中を叩いて、無理やり彼を立たせ、早く出て行け!と言って、彼を押し出し、教室の鍵を閉めてしまったのです。
今考えれば、高校生の男子が私の力に負けるはずもありません。たぶん、私のあまりの剣幕に彼もなすがままだったのでしょう。
でも、彼を追い出した後、私自身やってしまったことを受け入れられず、茫然としていました。教室もシーンとしています。
我に返って、とりあえず授業を始めたのですが、なぜか泣けてきてしまい・・・、涙をふいて、授業をしようとしていると、階下の職員室の方からバタバタと人が走ってくる音が聞こえました。
追い出された彼が職員室で「あの日本人に追い出されて、鍵を閉められた!」と大声で喚いたらしく、校長と学年主任と、そのクラスの担任などたくさんの先生がわらわらと教室に駆けつけてきました。
ドアの鍵を外すと、雪崩れ込む先生方。校長に「あなたが彼を追い出したというのは本当か?」と聞かれたので、「はい」と言って、起こったことを話しました。
すると、担任から「この続きは私が授業をするから、あなたは校長と話してください」と言われ、教室を出されてしまいました。
校長からは「教師には学生を見守る義務がある。何があっても、教室から追い出したら、教師は義務を果たしていないことになる(そりゃ、そうですね。反省)。これからは何かあったら、追い出すのではなく、教室の隅に立たせなさい」と注意を受け、学年主任からは教室で起こったことをレポートに書いて出すよう言われました。(もちろん、中国語・・これは辛かった・・・。)
そんなこんなで大変だったのですが、それより何より、明日以降彼とどう接しよう?他の学生たちも私のことをどう思ったのかな?どんな顔して授業すればいいんだろう???
とても心配になりました。
が、次の日、学校で彼に会うと、拍子抜けするほどの笑顔で彼の方から話しかけてきたのです。
「日本人の女の人がこんなに怖いとは知らなかった!」
え?え?え?
ここは私は何を言うべきなのか??どう接するべきなのか??
全く頭が回らず、なぜか私は謝っていました。
「昨日は教室を追い出してごめんなさい。台湾の学校では追い出してはいけないと知らなかった。もっと他の方法であなたを叱るべきだった。それから、叩いたことも悪かった。」
彼が何も言わないので、私は続けました。
「でも、教室で私の授業を邪魔したことはあなたが悪い。それは許さない。」
すると、彼が言いました。
「じゃ、これからは邪魔しない。」
えええ??なんでそんなに素直なの???
その後、彼が真面目になったり、成績が上がったりするようなドラマチックなことは何もありませんでしたが、彼はいつも私ににこやかに挨拶し、卒業まで1度も授業妨害してきませんでした。
あんなに態度が悪かった学生が私がキレて、校長先生たちに怒られたら、態度が変わった・・・。忘れられない外国人です。
そして、これ以降私は学生を教室から追い出したことはありません(笑)。