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タスクシラバスの「会話」教科書でJLPTに対応できるのか?
私が「みん日」をやめたいと言い始めた時も、「やめる」と宣言した今も、いちばん言われるのがこれです。
「行動中心」、「場面の会話中心」の教科書でJLPTに合格させられるのか?
JLPT対策なら、文型シラバスの教科書がいちばんいいでしょ?
JLPTを目標にすることの是非はひとまず置いておいて、今日はこの疑問について、考えたいと思います。
JLPTは何を測る試験なのか?
まず、これをおっしゃる日本語教師に問いたいです。
日本語能力試験=言語知識の多少を測る試験だと思っていませんか?
確かに旧日本語能力試験は言語知識の量を測るものでした。
出題一覧表があり、それさえ覚えておけば合格できる。1級の一覧表を見て、1つずつ例文を作るというような勉強をしている学習者がいたくらいです。
現在のJLPTは問題が公開されていないので、市販の教材のほとんどが公式問題集で問題形式をチェックして、旧試験の出題一覧表を参考に作られた「予想」問題です。
だから、旧試験時代からある完全マスターなどが、「新試験対応」で出版された時は、旧3級と2級の間にN3ができ、4級から1級の4段階だったものが、N5からN1までの5段階になって出版されただけというイメージでした。やっぱり言語知識を問う問題が多数を占めていたからです。
ところで、みなさんJLPTって何の略かご存知ですよね?
JAPANESE-LANGUAGE PROFICIENCY TEST
JLPTの「P」はProficiencyのPです。JLPTの公式サイトにはこう書いてあります。
日本語能力試験では①日本語の文字や語彙、文法についてどのぐらい知っているかと言うことだけではなく、②その知識を利用してコミュニケーション上の課題を遂行できるかと言うことも大切だと考えています。 私たちが生活の中で必要とするものを遂行するためには、言語知識だけでなく、それを実際に利用する力も必要だからです。
そして、①を測るものとして 言語知識(文字・語彙・文法)があり、②を測るものとして読解と聴解があるという図が示されています。
https://www.jlpt.jp/about/points.html
つまりJLPTに合格するには言語知識を詰め込むだけではダメで、課題遂行能力が必要だということです。課題=タスクです。
課題遂行能力の育成ならば、タスクシラバスの教科書のほうがいいというのは自然な発想ではないでしょうか?
学習者がJLPTに合格するために必要な能力とは?
2タイプの学生
私の携わる学生の中で、JLPTに合格できない人には2タイプがいると思っています。
A:言語知識のパートでは高得点がとれるのに、読解と聴解パートが苦手な学生
B:聴解パートはできるのに、文字・語彙・文法・読解で点数が取れない学生
Aの学生は公式サイトの①言語知識の基準は達成していても、②の課題遂行能力が基準に満たない。だから合格できません。
私の肌感覚ではAタイプは漢字圏出身の学生に多いです。
漢字のアドバンテージで「わかる」。でも、使えない。だから、読解や聴解ができません。
読解の種類によっては、漢字から内容を類推できることもあるので、時に点数をとったりはしますが、聴解は全然できません。こういう学生は会話がからっきしダメだったりします。
Bの学生は中国・韓国の学生中心だった時代はあまりいなかったタイプです。こちらは母国が他民族多言語環境で、公教育が多言語で行われていたり、子どもの頃からインターナショナルスクールで英語授業を受けていたような学生に多い気がします。
おそらく、わからないことばのシャワーを浴び続け、その中から「なんとなく」わかる言葉を拾い、「なんとなく」意味を類推してきたのだと思います。でも、語彙や文法を正確に覚える勉強はしたことがないので、言語知識の学び方を知りません。
読解が苦手というよりは、読解に必要なパーツ(言語知識)が足りなくて、まとまった文章が読めないという感じがします。
ちなみにこのタイプは一から全部書かなければならないような筆記試験をすると、全く書けないのに、JLPTのような選択問題はできたりもします。
これは「なんとなく」覚えているからこそ為せる技だと思っています。
Aタイプの学生に必要なもの
さて、Aのタイプの学生が読解・聴解力を伸ばすのに必要なものは何でしょうか?
それは上記のBの学生が得意とする「全体の中からわかるところを拾い、なんとなく意味を類推すること」だと思います。
そういう学生にとって必要な練習は文型を積み上げることなのでしょうか?
私はAタイプの学生が文型シラバスで学ぶと、ますます言語知識にフォーカスがいき、語彙が1つわからないだけで、次に進めない、全体がわからないという状況を作り出してしまうように感じています。
初級からタスクを達成することにフォーカスさせ、場面の中から、「こういう時、日本語では何という言うのかな?」と予想したり、それを確認したりすることが、形ではなく意味にフォーカスする習慣を育てると思います。
課題遂行は言語知識なしには為し得ませんので、もちろん言語知識が疎かになることはありません。もともと言語のパーツに注目する習慣のあるAタイプの学生は放っておいても、自主学習と言えば、語彙を覚えたり、文法書を読んだりしています。
Aタイプの学生がJLPTに合格する鍵が課題遂行能力であるとすれば、必要なのは課題遂行能力を育てる教材だと思います。
Bタイプ(言語知識が足りない学生)に必要なもの
Bタイプの学生はもともと「なんとなく聞く」力を持っていることが多いです。だとすると、必要なのはコツコツと言語知識を積み上げること。
ならば、文型シラバスの方が合っているのでは?と考えられがちですが、事はそんな単純なものでもありません。
先日のnoteに買いたとおり、文型シラバスの教科書は「形」にフォーカスが当たっていて、「形」が同じで意味の違うものが同じ課に並びます。この意味の違いや文法的概念を理解することは「なんとなく」勉強するタイプの学生には至難の技だったりします。
ですが、課題遂行に躊躇なく取り組む力(なんとなく聞いて、なんとなく言ってみる力)は持っている学生たちです。
まずはタスクを与え、その遂行に必要なパーツ(言語知識)を示し、それを学習することで達成感を味合わせ、自信をつけた後で、改めて言語知識を整理するというやり方は彼らに受け入れられやすいと感じています。
人はできないことをするのは気が滅入りますが、できることをするのは楽しいものです。できない問題、わからない問題に挑戦するというやり方は嫌気がさし「勘で選択肢を選んで問題を終わらせる」という学生が出てきます。ですが、タスクを達成した後に、できるものを違う角度で見せ、問題につまづいたときは「さっきの会話のあれだ!」と示すと、「そんなに難しい問題ではなかった」という反応があったりします。
結局、私自身はAタイプの学生にもBタイプの学生にもタスクシラバスの教科書が向いているのではないかと思うようになりました。
そうは言ってもJLPTは言語知識を問う問題が多い
上記のような話をした時に言われたのがこれでした。
課題遂行能力は試験の一部であって、問題のほとんどが言語知識だよね?やっぱり、文型や語彙を網羅することが大切でしょ?
そう思う先生にお伝えしたいのは、タスクシラバスは語彙や文型に穴があるわけではないということです。
同じものを文型という切り口で見るか、タスクという切り口で見るか。
あるいは同じ「日本語」という山を文型登山道から登るか、タスク登山道から登るか。
途中経過こそ違うかもしれませんが、頂上は同じはずです。
そのことは「できる日本語」の語彙リストや、巻末の文型一覧表を見ていただければ、わかると思います。(語彙数や文型の比較はたぶんすでにしている方がいると思うので、そちらにお任せします。)
まとめ
というわけで、JLPT対策には文型シラバスで教えるのがいちばんいいのでは?という質問にはこう答えます。
JLPTの「P」はProficiencyの「P」です。
言語知識だけでなく、課題遂行能力も測る試験です。
課題遂行能力を磨けば、言語知識もついてくるはずです!
タスクシラバスの教科書は文型シラバスの教科書で出てくる言語知識を網羅しているはずです。