プロダクトで上げる:「価格決定力を上げる」シリーズ
商品やサービスの価格を優位に・戦略的に決めることのできる力、「価格決定力」に関するシリーズ。今回のテーマは「プロダクトで上げる」です。
ビジネスに携わっているならば誰でも、自分たちのプロダクト(有形の商品や無形のサービス)には価値があると信じているはずです。しかし、それがどれだけの価格を支払ってもらえる価値なのかを説明でき、さらに引き上げるための正しい努力ができていると自信を持つ方はそれほど多くはないのではないでしょうか。
結論から言えば、プロダクトで価格決定力を上げる方法は次の2つに集約されます。
顧客が感じる主観的な価値を高めること
代替不可能性を高めること
1.顧客が感じる主観的な価値を高める
人は、自分が支払う価格に対して、それ以上の価値が得られると感じたときにものを購入します。ここでいう価値とは顧客がどう感じるかという、あくまで主観的なもの。この主観的な価値が支払い意思額の上限となるため、まずは顧客が知覚できる価値を高めることが、価格決定の天井を引き上げるための必須条件となります。
逆に言えば、どれだけコストをかけて開発しても、顧客が認識できない・理解できないのであればそれは価値に繋がらないということです。
価値は、機能的価値と情緒的価値に分けられます。何か顧客が抱えている課題があってそれを解決できるとき、そのプロダクトには機能的価値があると言えます。BtoBの取引であれば、購入する企業が得られる機能的価値は、コスト削減額などの具体的な金額で表せることもあります。大きな取引となれば、価格に対して十分な機能的価値が得られることを稟議で明示しなければいけません。
情緒的価値には、愛着がある、誇りに思えるなど、数字にしづらいブランドの要素が含まれます。ブランドで価格決定力を上げる方法については、また別の記事で紹介します。
例えば電気自動車メーカーのテスラは、製品の性能を高めるだけでなく、それを人々が知覚でき、友人に自慢できるよう、効果的に伝えています。0-100km/h 加速の速さ、新しい機能が後から追加されるソフトウェアアップデート、長い航続距離と世界中に設置された充電スポットなどはすべて、顧客の知覚価値を高め、テスラの高い価格決定力へと繋がっています。
2.代替不可能性を高める
人は、そのとき認知している選択肢の中から、最良で最安のものを選びます。顧客にニーズがあり、それを満たせるプロダクトの提供者があなたしかいない、または数が限られている場合には価格決定力が高くなります。いわゆる独占や寡占の状態です。
逆に、あなたのプロダクト以外にもニーズを満たせる代替手段が多くある場合、そうした競合の価格に引っ張られて、優位に価格をつけることは難しいでしょう。
代替不可能な商品を作るといっても、世界最高のプロダクトを目指すだけが道ではありません。顧客の固有のニーズと選択軸においてOne and Onlyに近付けば、それは代替不可能となっていきます。もし検索結果に1つしか商品が出てこなければ、それが自然と選ばれるということです。
例えばAppleは、多数のスマートフォンが存在する市場においても「Appleの製品でなければならない」と言われるプロダクトを提供する企業です。TBMの提供するLIMEXという新素材は、紙やプラスチックを避けてサステナブルな素材を探す顧客にとっては、非常に限られた選択肢のひとつでしょう。ユーグレナは、ミドリムシを原料とした食品としてほぼ唯一の選択肢を提供しています。ただし、健康食品として捉えると多くの代替商品が存在しています。顧客がどこまでの範囲を代替手段として認識しているか、注意する必要があります。
経営における代替不可能性の重要さとその高め方については、様々に研究・言及されてきました。ウォーレン・バフェットはそれをMoatと呼び、企業は代替されない理由や参入障壁を広げ続けるべきと説きます。ピーター・ティールは『Zero to One』で、ネットワーク効果やプロプライエタリ・テクノロジーが、独占的な強さに繋がると示しています。
サマリー:顧客の知覚価値と代替不可能性で価格決定力を捉える
顧客の知覚価値が高いほどプロダクトに対する支払い意思額の上限は高くなり、代替不可能であるほどその中で優位に価格を設定することができます。
どちらの観点でも、忘れてはならないのは「ニーズのないところに価値はない」ということです。
仮に最高速度があと10倍速い自動車を開発できたとしても、それを乗りこなせる人や場所がなければ、その速度は価値として知覚されません。また、世界最高の性能を持つプロダクトを開発し、代替不可能であると思っていても、顧客にとってその5分の1の性能で十分であれば、無数に代替手段が存在することになります。
クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』で示されるように、プロダクトの性能競争はいずれ顧客ニーズを超えてしまい、より安価で必要十分な価値を持つ新プロダクトに市場をボトムから塗り替えられてしまう可能性もあります。
本質的には、今あるプロダクトの価値を考えるのではなく、(顧客の得る)価値からプロダクトを考えるというマインドを持つべきでしょう。それが顧客ニーズに過不足なく適合し、代替不可能性の高いプロダクトの開発へ、そして企業の価格決定力を上げることへと繋がります。
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