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パンケーキ、カモノハシ、プラトンは元々同じ単語

フィンランドで研究者として働いているMattiと言います。

パンケーキはお好きですか?
北欧では、薄くてもちっとしたパンケーキが老若男女を問わず愛されています。

今回は、そのレシピを紹介するとともに、パンケーキの名前の秘密を探っていきます。

友人宅にて夜食のパンケーキ。わんちゃんも気になってしまう香り。

もちもちパンケーキの正体

日本と北欧のパンケーキの大きな違い。

それは、ベーキングパウダーを使わないことです。生地が膨らまないので、弾力がある食感になります。

バターの風味が効いた生地に、クリームやアイスクリーム、そしてジャムをかけて食べます。夜食でもパクパクと食べてしまう、まさに罪の味。

ヘルシンキの老舗レストラン「Sea Horse」でいただいたパンケーキ

僕は甘党です。人生最後の瞬間は特大のメロンパンかクリームパンにつぶされるなら本望かと思っていましたが、こちらに来て心変わりしました。北欧パンケーキに溺れたいです。

僕の心を掴んでやまない、この罪深きスイーツのレシピを紹介します。

<材料 (5枚分)>
・卵 1個
・牛乳 200mL
・小麦粉 100g
・砂糖 大さじ1
・塩 小さじ1

<作り方>
・材料をすべてよく混ぜ合わせる
・30分寝かせる (冷蔵庫で1晩置くのも可)
・バターをしいたフライパンを熱する
・生地を流しいれ、ふつふつとなるまで熱する
・裏返してしっかり焼く
・焼き上がりは平置きで重ねる

<ポイント>
生地は寝かすほどおいしい
 朝に作った生地を夜食まで冷蔵庫で寝かす人もいる
多すぎないか?と思うくらいバターを使う
・ビーガン、グルテン/ラクトースフリーでも作れる

フィンランドにはこのパンケーキを作るためのフライパンがあります。フィンランド人の家に1つはあるのではないでしょうか。こないだも現地のセカンドハンドで売っているのを見つけました。

パンケーキを焼くためだけに使うフライパン、お手頃価格

北欧パンケーキの名前

ここまで北欧パンケーキとごまかしてきましたが
現地の言語での名前がちゃんとあります。

このフライパンで焼くスタイルのパンケーキは
フィンランド語で「Lettu (レットゥ)」と呼ばれています。

Lettuの複数形はLetutです。
みんなで食べるときは50-60枚くらいのLetutを焼いて山盛りにします。


さて、スウェーデンに統治されていた歴史的背景などから、フィンランド語にはスウェーデン語からの借用語がたくさんあります。

日常的にフィンランド語に触れているのでわかるのですが、「Lettu」にはなんとなくスウェーデン語の借用語臭を感じます。

「Lettu」への理解度を深めて、よりおいしくいただくためにも語源を探ってみることにしました。

調べてみると予想通り、「Lettu」はスウェーデン語の「Plätt (プレッ)」に由来するようです。

「Plätt」はスウェーデン語で"薄い"や"平たい皿"を指す単語です。ちなみにスウェーデン語での"パンケーキ"を指す単語は「Plättar」です。

つまるところ、「Lettu」のルーツはスウェーデンの「Plättar」、つまり平べったい形に基づいて名付けられたということですね。

*ちなみに、フィンランドにはオーブンで焼き上げるパンケーキもあるのですが、こちらは「Pannukakku (パンヌカック)」と呼ばれています。

語源を追いかけるには

「Lettu」の語源が気になって、もう少し追いかけてみることにしました。

「Lettu」はスウェーデン語の「Plätt」に由来するということで、スウェーデン語を探っていく必要があります。

まずは言語学の話をさせてください。

現在ヨーロッパで使用されている言語の多くは親戚のような関係です。

18世紀末のイギリス人、William Jonesがインドに駐在した際に、現地の古典語であるサンスクリット語が英語、ラテン語、ギリシャ語とよく似ていることに気づきました。

ひらめいてしまったWilliam Jonesの肖像

その後の研究から、「インド~ヨーロッパにかけての広い範囲に分布する言語は共通の祖先をもつ」ということが分かりました。これらの言語の集合体をインド・ヨーロッパ語族と言われています。

この語族の祖先の言語はインド・ヨーロッパ祖語と呼ばれており、黒海/カスピ海周辺の遊牧民やトルコ周辺の農耕民が5千年前に話していたものとする説があります。その後、民族の移動や拡散によって、現在は400以上の言語を形成しているということらしいです。

スケールが大きい話ですよね…!!!

Wikipedia「インド・ヨーロッパ語族」が話されている地域

上の画像を見てわかることは2つ。

1つ目は、スウェーデン語、ノルウェー語、ドイツ語、英語といった言語は非常に近い関係にあるということ。

2つ目は、フィンランドがグレーに塗られていること。実は、フィンランド語はインド・ヨーロッパ語族ではありません。エストニア語やハンガリー語とともにウラル語族というグループに属しています。

ウラル語族の分布。フィンランド語は他の欧米の言語とは祖先が違う。

英語にある程度親しみがある人であれば、スウェーデン語は見ただけで意味が分かる単語も多いですが、フィンランド語本来の単語は意味が通りません。

「太陽」を例に違いを比較してみましょう。
英語: sun
ドイツ語: sonne
スウェーデン語: sol
ノルウェー語: sol

では、フィンランド語はというと…
AURINKO…!!!

そう、こんなにも違うんです。フィンランド語は習得が難しいといわれる所以はこういうところにあります。

言語でタイムトラベル

上のような考え方を用いれば、
ある単語の共通の祖先をたどることもでき、逆にそこから派生していった単語の姿もわかります。

言語を通じて机上でタイムトラベルができるということです。

つまり、フィンランド語の「Lettu」のもともとの単語、スウェーデン語の「Plätt」は、数千年の歴史を遡れます。

「Plätt」という単語は、英語でいうところの「Plate」に当たります。

「Plate」は少なくとも古代ギリシャ語の「πλατύς (platus)」という単語まで遡れます。

「πλατύς (platus)」は、英語で言うところの"plate", "flat", "broad"という単語のもとになっている単語です。数千年の歴史を経て、この単語から様々な単語が派生してきました。

それらの例を英単語で挙げてみます。

・Plate (プレート)
Plateはflat metal discに由来するようです。

・Place (プレイス)
広い道という意味が転じて場所という意味になったようです。

・Plateau (プラトー)
高原という意味です。また、測定値がピークに達した状態を指すこともあります。

・Platypus (プラティパス)
カモノハシです。平たい脚という意味です。

・Plato (プラトー)
古代ギリシャの哲学者、プラトン。本名ではなく、平べったい胸を指したあだ名だそうです。書物には本名が載っていないそうな。

・Platycerum (プラティセラム)
最近いろいろなところで見かけるようになった観葉植物のビカクシダの学名。平たい角という意味です。

プレートもカモノハシもプラトンも、すべて古代ギリシャ語の「πλατύς (platus)」から派生してできた単語ということです。

スウェーデン語では「Plätt」という単語が平べったい形を指すようになり、スウェーデン語と文化の流入によってフィンランド語では「Plätt」がさらに派生して「Lettu」となったと考えられます。

まとめると、
カモノハシもプラトンも北欧パンケーキも数千年くらい遡れば1つの単語に収束するということです。

まとめ

言語の起源って面白いですよね。

<参考リンク>
Wikipedia インド・ヨーロッパ語族

Wikipedia ウラル語族

Valio Letut


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