貧しい人たちが全く救われない
今朝、フィリピンのローカルテレビ局GMAで、地方政府のお金を管理する人がインタビューに答えていた。
タガログ語で話しているので、同棲中の彼女の通訳が無いと理解出来ないのだけど、どうやら給付金担当の人の返答は、あたかも誰かに指示されている様にずっと同じ台詞を復唱するだけだった。
「OFW(フィリピン人海外労働者)の家庭は後回しで、貧困層への給付が先です」
同居人はそれを観て怪訝な表情になり、
「こんな回答じゃあ、ここでは汚職がありますよって言ってるようなもんだよ」
と、溜め息を漏らしながら言った。
しかし、インタビュー後のニュースでは、襟の部分が猫に引っ掻かれたような破れたTシャツを着て、役所の前で布マスク越しに何かを叫び続ける若者をカメラは撮っていた。彼の言葉は、役人の言葉とは全く逆の状況を伝えていた。
「2階建てで塀もちゃんとある一軒家の家庭に給付金が下りて、何でトタン屋根で密集した小屋に生活する私達には何も来ないのか」
フィリピンで生活した事がある人はお分り頂けるかもしれないが、高層ビルやコンドミニアムが建ち並ぶエリアのすぐ外はトタン屋根が並ぶ。ここまで貧富の差が分かりやすい国も少ないかもしれない。
また、経済的に発展したエリアから少し離れたところには、一軒家が並ぶところと、トタン屋根の集落が混在する場合もある。トタン屋根に住む貧困層は、コンドミニアムに住むかけ離れた存在より、飛び抜けて裕福では無いけど、ちゃんとした家に住み普通の生活を送る存在の方が、身近で差が分かりやすいのかもしれない。
そもそもOFWはそういったトタン屋根の集落にも存在する。
沢山のOFWが他国でコロナが流行している時に帰国した。政府は彼らに自宅での自主隔離を義務付けた筈だが、もし自宅隔離の場所がトタン屋根の集落なら、隔離なんて到底言えない環境下だった筈だ。5畳くらいの部屋に、何人も住んでいるのだから。
そして案の定、マニラやセブの都市部では、そういった集落での感染が多発している。
これは僕の周りでもそうなのだが、話を聞くと、そこまで生活には困っていない人たちが政府からの食べ物も含めた支援を受け取り、すぐに受け取るべき人たちに限って、受け取れてない場合が多い。
トタン屋根の狭い家、部屋に何人も住んでいるわけだから、多少漏れが出るのは仕方ないのではと思ったのだが、同居人はこう言った。
「でも選挙の時は、ちゃんと漏れ無くリストアップされるんだよ。立候補者から直接投票を催促されるくらいだし」
デュテルテ大統領は汚職の防止に力を入れているし、先日も会見で汚職は許されないと国民にアピールしたが、腐りきった地方政府を隅から隅まで掃除することは難しいのだろう。給付金を配るのだって、大統領府から直接国民全員に支給できる訳はないし、地方政府に一旦分配するしかない。
受け取った地方政府はまたそれを各市町村に分配し、そこから国民に配られる訳だが、この過程でどれだけのお金が手つかずで残っているか、それを証明する議員なんている訳も無く、給付漏れが発生するのが給付システムの甘さによる漏れなのか、もう既に議員のポケットに入ってしまってお金が無いのか、疑心暗鬼になった給付漏れの人達が怒りの声を発する。
同居人は更にこう言った。
「でも本当に貧乏な人は、お金が貰える事も知らないと思うよ。テレビすら無いから、情報が入らないし」
日本はコロナの対応で日本政府の対応が遅く、マスク製造会社の事で色々と話題になり、大阪や北海道などの地方政府の方が対応が断然早い現象が起きているが、フィリピンでは真逆の事が起こっている。
人口は増え続ける。もう既に1億を突破している。
広がり続ける格差に、終わりはあるのか?デュテルテが踏み出した1歩は、今まで誰も踏み出さなかったものだが、それはとても小さい。