見出し画像

どんなに偉くなっても遅刻をしてはいけないというお話: FAILING FAST マリッサ・メイヤーとヤフーの闘争

"BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか"に続いて正月休みに購入したのが本書「FAILING FAST マリッサ・メイヤーとヤフーの闘争」。アメリカでの原書が出たのが2014年の頭で翻訳版が同年の末ということで、気がついたらもう10年前の本だ。なんで今更Yahoo!なの?と自分でも突っ込みそうになったが、ビジネス本は中途半端に理論的な話をしがちな日本のものよりもノンフィクションに振り切った方が好きだったりする。

ちなみに原題は"Marissa Mayer and the Fight to Save Yahoo!”でFailing Fastというフレーズはどこにも入っていない。本書を読めばこのフレーズはマリッサの口癖らしいとわかるのだが、なぜ日本語版にタイトルに持ってきたいと思ったのだろうか。。


すでに答えを知っている私たち

本書が刊行された2014年というのは、Yahoo!がかなりのポーションを持っていたアリババがIPOした年だった。Yahoo!はそれまでにもずっと業績が下がり続けていたのだが、 かなりの株式を保有しているアリババのIPOへの期待が株価を支え続けていたのだった。

2014年はいわばその「ドーピング」がなくなった年だった。本書では2014年い書かれたということで、その苦境からYahoo!は立て直すことができるのだろうかと言う問いかけで終わっているのだが、2025年にいる我々はその結末を知っている。

Yahoo!は、その後業績を回復する事はなく、最後はベライゾンに買収されてしまった。今でもYahoo!の名前は残っているが、それはもはや彼らとは直接関係のないYahoo! JAPANとしてだ。

本書を読む々はそういった神の視点から、Yahoo!の歴史を見て、批評することができる。結局数年であいつらは失敗したんだぜ、という感じで。その事は確かにフェアではないかもしれないが、一方で本書を見ればYahoo!と言う会社が少しずつ少しずつ確実にダメになっていくところが手にとるようにわかる。その歴史の中では、多少立て直す事はあっても大きな判断では常に失敗をしており、その業績はインターネット黎明期以降大きく立ち戻る事はなかった。

タイトルからすると、本書はマリッサ・メイヤーがその yahoo!に入社してからの物語を描くのかと思ってばかりいたのだが、実際に描かれているのは、Yahoo!と言う会社の歴史そのものだ。 後半は確かにマリッサ・メイヤーに多くのページを割いているが、前半はYahoo!と言う会社が立ち上がってから、混乱に陥り彼女がCEOとして降臨するまでが描かれている。


ヤフーを救うのは多分無理だった

繰り返しになるが、神の目を持った我々が過去の経営者の評価をする事はフェアではないと思う。ただ本書読んでみると、おそらくどんな人間が来たとしても、Yahoo!を救うことはできなかったのではないかと感じずにはいられない。

と言うのも、マリッサ・メイヤーが来た時点で、Yahoo!が取り得る選択肢は2つしかなく、残念ならがそのどちらもおそらくはうまくはいかなかったからだ。

1つ目は現実には取られなかった選択肢で、yahoo!を高級ウェブメディア化すると言う戦略だ。2025年現在から見たら、インターネット上で大規模なメディアが生き残る 事は不可能だと言うことがわかっている。正確に言えば2010年代前半であったとしても、WEBメディアが大きく生き残ると思っていたインターネットのフロントランナーは、誰もいなかったんではないだろうか。

本書でも書かれているようにトラフィックが増えるにつれて、1ページあたりの広告単価を下がっていく。またモバイル化が少しずつ進んでおり、ウェブサイトでの広告、特にディスプレイ広告が広告費の中でのシェアを下げていたのはデータからも明らかだった。

確かに今でも広告で収益を上げているウェブサイトはたくさんある。しかし、当時のYahoo!ほどの規模を支えるほどの広告収益を上げているウェブサイトは無い。そういうわけで、おそらくられなかったこの戦略をとっても、いずれどこかに買収されたことだろう。


もう一つの選択肢は、マリッサ・メイヤーがやろうとしてうまくいかなかったプロダクト戦略だ。こちらも本書で書かれているように、おそらくYahoo!がイノベーションあふれるプロダクトプレイヤーとして生き残る事はほとんどなかったと思われる。・・・というか、2014年以降で、2C向けのイノベーションあふれるプロダクトってほとんど生まれてないよねって話なのだ。

当時はGoogleが既に検索市場を抑えきっていたし、FacebookはずっとSNSとして成長続けていた。Twitterも存在感を増していたが大きな 黒字を出すことなく、イーロン。マスクに買収されてしまったのは現代の我々ならよく知っている。 唯一本書に登場しない大きな2CプロダクトはTikTokだが、この段階では、まだ影も形もないし、そもそも中国のプロダクトだ。

そういうわけで、結局のところYahoo!と言う会社は誰が経営者になったとしてもいずれは買収される運命にあったのではないかと、神の目を持った我々であればそう思ってしまう。


ゴシップの方が面白い

ビジネスという観点からは、こういう結論になる以上は本書はやや厭世的な気分になってしまうような一冊なのだが、 正直言うとそういったビジネスの内容よりもゴシップの方がずっと面白かった。

例えば、Google時代にマリッサ・メイヤーと創業者のラリー・ペイジが付き合っていたなんて事は全く知らなかったし、彼女がYahoo!のCEOになった後に大きいクライアントであってもメールに返信しなかったことなど聞いたこともなかった。そういえばMarissa@yahoo-inc.comが他の人に使われていたのを自分がぶんどろうとしたというのも、なんというか人間性がよく現れている。

しかも彼女の場合、傲慢な理由で返信しなかったといるよりも、多分頭の中にメールを返信しなきゃいけないと言うプロトコルがなかったのだろうと思う。 当時のGoogleと言う会社では凄まじい勢いで出世していったが、 今のGoogleであれば、おそらく彼女は全く日の目を見ないだろうと思う。大きい会社ではなんのかんの言っても気遣いができないとダメだから。

そして何よりも面白かったのが、彼女がいろいろな人に嫌われた理由が「 遅刻が多いこと」ということだ。そうだよね・・偉い人が遅刻すると、やっぱりいろんな人がイライラするよね。しかも彼女の場合、自分の部下だけではなくお客も平気で待たせるらしい。広告ビジネスをやっていて、優先順位が常に自分に向いている人ってのもすごい。

何せYahoo!は世界中にあったので、当然部下の中では時差がある職場で働いていた人も多かっただろう。夜中にミーティングが始まって偉い人が来ていないので、ただ待ちましょうとなるときの虚しさは経験した人でないとわからない。最初は眠いなぁと思って、腹が立っていたのが、気がついたら寝てしまってミーティングが始まってしまったりするんだよね。

この遅刻癖も、おそらく業績が良ければ「 人と会うことを忘れるほど何かに熱中していた」 みたいな美談で受け止められたんだろう。結局のところ結果が全ての世界なわけで、業績が絶好調であれば遅刻癖 があったとしても、部下はついてきたんだと思う。顧客は怒り狂っていたかもしれないけども。

そういうわけで結局のところは、人間うまくいかなくなると、小さなことで叩かれて足を引っ張られてしまうというのが、本書から学ぶべきことだった。あと少なくとも欧米文化圏では遅刻はダメ。友人の戦略コンサルタントは「中東では偉い人が遅れてきて権威を示すので、遅れてくるのを織り込んで会議の時間をセットする」と言ってたけど、それはそういう文化の中での話。

それにまぁ、お客さんの社長との会食に1時間半も遅れたら、営業担当だったら死にたい気持ちになるよね。それだけで「ディスプレイ広告」の会社のCEOとしてはかなりしんどいと思う。AdwordsやAdsenseとは違う世界だから。


いいなと思ったら応援しよう!