見出し画像

私訳:エミリー・ディキンソン「林檎の樹に降るひとしずく」(「雨の詩」)

【日本語訳】

林檎の樹に降るひとしずく
屋根の上にもひとしずく。
軒には六回、キスの音
切妻からは笑い声。

雫は川へと加わって
川は海へと加わった。
私はひとり推し量る、雫が真珠だったなら、
どうネックレスにしようかと!

舞う土埃も帰り道
浮かれた様子の鳥の歌。
陽射しが帽子を放り投げ
きらめき残る果樹の園。

竪琴たちのさみしさを
幸せな風が洗い落とす。
東に一つの旗が立ち
お祭り騒ぎを締めくくる。

【英語原文】

A drop fell on the apple tree
Another on the roof;
A half a dozen kissed the eaves,
And made the gables laugh.

A few went out to help the brook,
That went to help the sea.
Myself conjectured, Were they pearls,
What necklaces could be!

The dust replaced in hoisted roads,
The birds jocoser sung;
The sunshine threw his hat away,
The orchards spangles hung.

The breezes brought dejected lutes,
And bathed them in the glee;
The East put out a single flag,
And signed the fete away.

【解説】

・4連構成。第1連を全てAで始め、第3連を全てTheで始め、第4連をThe-A-The-Aで始める冠詞遊びが面白い。その点で言えば、Aで始まる全ての行が後半にTheを含むという対比も計算してのものかもしれない。(第2連のwのように)子音や母音のリフレインも多いように感じるが、偶然か作為かよくわからないので分析はしないでおく。韻は断片的に踏まれている。
・東に立つ「旗」とは夜明けの空を広がる旗に例えたものと指摘されている。例えば、ディキンソンの別の詩でも「東の空が琥珀の旗を掲げる」(Still rears the East her amber Flag)という一節が登場する。
・最終連の「竪琴たち」(lutes)はおそらく第一連で歌われた家屋のさまざまな部分のことであり、ぽろぽろと鳴る雨音を竪琴をつま弾く音に例えているのだろう。そうすると、雨が過ぎることで竪琴たちの演奏は止んでしまうが、それを慰めるようにそよ風と朝日がやってくる、という流れになる。

【カバー情報】

トマス・コール、『オックスボウ』(『嵐の後、マサチューセッツ州、ノーザンプトン、ホリヨーク山からの眺望』)、1836年。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?