「東京観光日誌」#17|芦花公園|世田谷文学館
1月18日(火)晴れ。フランスでは日本の漫画の認知度が高く、特に有名な漫画家は「手塚治虫」「水木しげる」そして「谷口ジロー」だという。
先日テレビ東京の番組「新美の巨人たち」で「描くひと 谷口ジロー展」を取り上げていて「これは原画を観てみたい!」と思い、急きょ有給休暇を取って行くことにした。再び“まん防”も始まるし、臨時休業にでもなったら観れなくなってしまうだろう。機会は逃したくない。
そもそもFUKUDA kojiさんのさくっと書かれた記事を読んだ時も「行っておきたいな~」と思っていたのが、あっと言う間に時間が過ぎてしまっていたのだ。
・ 早起きは三文の徳
2017年2月11日。4年前になるのか・・谷口ジロー氏の訃報は耳にしていたが、残念ながらあまり作品には触れていなかったので記憶に留めるだけだった。「孤独のグルメ」はテレビでよく観るが、漫画は読んでいない。
何だろう・・絵柄がぱっと見、ちょっと古く感じたせいだったかもしれない。
だからテレビや展覧会で紹介されて初めて正面から向き合った時、その作品の絵力に目を見張った。こういう作品を描く人だったんだ・・と。
展覧会が開催されている世田谷文学館の最寄り駅は、京王線の各駅停車駅「芦花公園」(写真上)である。ここで降りるのは初めてだ。もちろん世田谷文学館へ訪れるのも初めて。知らないところへ行くのはワクワクする。
ちょっと前から展覧会へ行くのはできるだけ開館時と決めていて10分前に世田谷文学館(写真下)に到着した。駅から歩いて5分程度で着くから便はいい。
誰もいない。いや・・入り口前を掃除している・・館内職員の方がいた。ちょっとローカルな感じがいい。では、早速エントランスでも撮ろうか・・と近くに寄って左下に目を落とすと・・お、錦鯉(写真下)!
ああ・・優雅だな・・目に優しい。これは文学館で世話しているのかな・・通勤路だったら毎日覗きたいところだ。
さあ、10時きっかり開場となった。ここの関係者だろうか、どこからともなく現れた中年女性の固まりがすぐさまガヤガヤと入場していく(写真下)。
その後、観客も感染対策を行って入場(写真)。
あれ!? 入り口右手の壁面に絹谷幸二氏の大作がある。作品は「愛するもの達へ・希望」とあった。
ここは特に事前予約はない。窓口でチケットを購入し2階の展示室へ向かう(写真上)。本展の料金は一般当日900円。階段を上がるとすぐ目の前が展示室の入口になっていた(写真下)。
入口に「写真撮影可」のマークがあった。ラッキーだ。本文にも写真が入ると楽しくなる。錦鯉、入口の大作、そして写真OKと今日は小さい幸運がつづいている。“三文の徳”というやつだ。ではじっくり見せていただこう。
・ 谷口作品を年代と共に追う
入口近くの壁面にはおそらく今までの谷口作品の流れが大まかにまとめられているようだった(写真下)。
あいさつ文にあった谷口氏の写真 (photo ©Isabelle Franciosa)。
先に進むと「1 漫画家への道のり」という表示があり(写真上)、谷口の若い頃の情景や出版物が展示。(写真下2枚)順路は時系列で紹介されていそうだ。 *写真をクリックしたら拡大可
すぐ隣には「2 70年~80年代 共作者・原作者とともに時代の空気を描く」のスペースになっている。28歳頃青年コミック誌に作品を発表し始め、32歳で関川夏央との共作「事件屋稼業」を「漫画ギャング」誌で連載(79~94年)。ケース内には原画が展示されていた(写真下)。
翌年33歳には「青の戦士」(原作:狩撫麻礼)を「ビッグコミックスピリッツ」誌で連載(80~81年)。年を追うごとに忙しくなっていくようだ。
キャラクター設定用のラフ(複写)も見せてくれる(写真下)。
奥には「3 80年代 動物・自然をモチーフに拡がる表現」(写真上)とあって、「ブランカ」(84~85年)といった動物を主人公にした作品を手掛けていく(写真下)。谷口は動物描写も得意なのだ。
1987年谷口が40歳の時、関川との共作「『坊ちゃん』の時代」を「漫画アクション」誌に連載(87~96年)。写真(上)は物語の人物紹介等の説明。写真(下)は表紙用イラスト(写真下)。(後半にこの作品のセットもあった。)
これが漫画家として大きな転機になった作品、ということである。関川の「『坊ちゃん』の時代」のシナリオ(写真下)。まだ手書きの時代だったんだね。
ここから谷口の新境地が現れてくる。「4 90年代 多彩な作品、これまでにない漫画に挑む」からさらに面白くなっていくようだ。展示作品は代表作「歩くひと」の「よしずを買って」の原画だ(写真下)。
それから「歩くひと」の表紙用イラスト(写真上)。1990年谷口が43歳の時の作品である。これは「モーニングパーティー増刊」誌(90~91年)に連載された。
「5 2000年代 高まる評価、深化する表現」(写真上)。説明文では・・
95年に発売された「歩くひと」フランス語版は、熱烈なファンを獲得しました。ついで「ブランカ」、「父の暦」、「遥かな町へ」などもフランスをはじめ各国で紹介され、「Jiro Taniguchi」は着実に愛読者を増やしていきました。海外での本格的な評価は2000年代に入ると一気に高まり、フランス、スペイン、イタリア、ドイツ、韓国他各国の漫画祭等で次々と賞を受賞します。(後略)
「歩くひと」「孤独のグルメ」の原画が陳列(写真上)。2000年と言うと、谷口が53歳。この年「神々の山嶺」(原作:夢枕獏)を「ビジネスジャンプ」誌に連載(00~03年)。
ここまでの作品の量を見渡すと・・何だか起きている間中ずーと描き続けているような感じがする。自分のペースはあったと思うが、仕事とプライベートが融合してしまったようなそんな生活だったのではと想像してしまう。
確か「新美の巨人たち」では「孤独のグルメ」の原作者・久住昌之氏が出演し、谷口氏と会った時にその仕事量に感嘆し「描く時間が相当かかるのでは」と久住氏が尋ねたところ「「ええそうでよ。一コマ一日かかります」と谷口さんは言いのけた」と語っていた。そうだよな・・と頷いてしまう。
・ 谷口作品と私
実は私も恥ずかしながら漫画を職業にしたくて、2000年帰国当初は頑張って作品を作ろうとしていた。しかし、様々なことが起こりいろいろ選択していくうちに漫画からは離れてしまった。
当時まだPCで描く時代ではなかったのでその先駆けになれるかと思い、パワー不足のパソコンで必死に描いた。「ハノイの休日」という作品(写真下7枚)がデータとしてまだ残っていたので最初のコマだけ見てください。
最後のコマはやはり一日かかったと思う。谷口氏の作品同様、私も緻密に描き込むのが好きでシンパシーを感じてしまった。恐れ多い話ですが・・💦
では、展示コースに戻って「「神々の山嶺」のキャラクター設定用のラフ」(写真下)。よく見ると「ビジネスジャンプ 川嶋さま。とりあえず 送ります。谷口ジロー」というメモ。仕事のやり取りが感じられて微笑ましい。
年代別の区切りとしては最後となる「6 2010年~ 自由な眼、巧みな手。さらに新しい一歩を」のスペース(写真上)に進む。
2011年に「モーニング」誌で「ふらり。」の連載が開始。谷口64歳。伊能忠敬をモデルにした主人公が江戸の町を散策するという「歩くひと」の江戸時代版。原画がより洗練されているような気がする(写真下)。
この後、コラムとして「食」や「動物」をテーマにした作品の原画が集められていた(写真上)。「原画事典 カラーイラスト」(写真下)。
「ネーム」と「仕上がった原画」が比較でいる展示等、漫画家を志す方には是非見ておいてほしい内容となっている。
自画像と愛用していた画材等(写真下)。
最後のスペースには「世界で認められる谷口作品 海外とのコラボレーション」ということで、ヨーロッパの出版社等から直接依頼を受けて制作にあたった作品が展示。「私の一年」(原作:モルヴァン、ダゴール社)、「ヴェニス」(ルイ・ヴィトン)、「千年の翼、百年の夢」(ルーブル美術館、フュチュロプレス社)など。ゴッホとの出会うなんてユニークだ(写真下)。
出口には「エピローグ 最期まで「描くひと」として」とあって、闘病中に描き始めた作品「光年の森」「いざなうもの」の未完の原稿が展示されていた(写真下)。享年69歳。
ここで出るのが惜しくなってもう1回気になったものだけ観に行こうと最初の方へ戻ってみた。あらら・・いつの間にか大勢の観客。こうやって見ると鑑賞も“三文の徳”になっていた。ゆっくり観れて良かったな。
・ 世田谷文学館の1階をぶらり
出口を出ると目の前に入口があった。おっと、手前にロッカーもあったんだ(写真上)。それからお手洗いもこの並びにある。階段を昇るとすぐに会場入口だったので見渡す余裕を欠いていた。
階段を降りて1階のフロアを見てみよう。エントランス近くにミュージアムショップ(写真下)があり、谷口ジロー関係の出版物が並べられていた。
「文学サロン(イベントスペース)」と施設案内に書かれた広間には「孤独のグルメ」の主人公、井之頭五郎の等身大パネルがおもむろに置かれていた(写真上)。「営業先からふらりと文学館を訪れた井之頭五郎さんと写真を撮りましょう」と書かれてある。気が利いているな・・。
中庭があって開放感がある造りになっている(写真下)。
回り込んだこの奥は「喫茶どんぐり」が営業中。えーと看板メニューは「ウィンナーカレー」(1000円)。それから本日のパスタは800円・・ふむふむ・・コーヒー、紅茶は280円。井之頭五郎さんだったら立ち寄るかな。
1階フロアには別に展示室があった。谷口展のチケットがあれば、無料で入れるとチケット売場で説明があったな。「セタブン大コレクション展 PART I」(写真下)の展示場内は撮影不可であったが、世田谷区所縁の文筆家の品々が一室に展示され、見応えがのある内容だった。
入り口前の入り組んだ通路にもロッカー発見(写真上)。
1階展示室の横は「ライブラリーhon-to-Wa」となっていた。日差しがたっぷり入って寛げそうなライブラリー兼憩いの場という感じだ。
世田谷文学館は1995年に開館されているというのですでに27年経っているが、実に丁寧に維持・管理されていることが見て取れる。
基本理念として「世田谷固有の文学風土を保存・継承し、まちづくりの活性化に寄与することをめざす文学館」、「区民の文化交流の場と機会をつくりだし、新たな地域文化創造の拠点をめざす文学館」とあり、とにかく地元ファーストの羨ましい施設である。
過去の展覧会もイラストレータ安西水丸や原田治といった興味深い作家の展示会も行われていたようだ。また訪れる場所になりそうだ。
ごろ~ごろ~い・の・が・し・ら~♪
世田谷文学館
住所:東京都世田谷区南鳥山1-10-10
電話:03-5374-9111
[開館時間]10:00~18:00(入館は17:30まで)
[休館日]毎週月曜日(祝日の時はその翌日)年末年始(12月29日~1月3日
公式ページ:https://www.setabun.or.jp/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?