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食と農の狭間でゆらゆら

大学生の頃、自分が将来どんな職業に就きたいかを模索していた。

4年制大学に入学したからには、普通に考えれば就活に力をいれ、大手企業に就職するのが王道ルートであった。
しかし、何分世間知らずであったことと、自分のようなものが大手企業に採用されるわけがないという謎の劣等感があったため、大学で学んだことをガン無視して、やりたい道を突き進むことにした。(お父さんお母さんごめんなさい)

食べることが好きだし、食や農業に関わる仕事がいいなと漠然と思いつつ、何が自分にあっているか全くわからなかった(※ちなみに大学は語学系であった)。
実際に体験しないと納得できない性分であったため、とりあえずやってみようということで、大学3年生の夏休みに福井県の米農家へ1週間インターンをし、就農体験をした。
食の上流である、農家として働くということを経験してみたかったのだ。

インターン先は、稲作や野菜栽培を行いながら若者の新規就農支援を行っている企業だった。
全国各地からインターン生を募集しており、私も確か「農業 インターン」とかで調べてたどり着いた記憶がある。
学生でお金がなかったため、青春18きっぷで実家の長野から京都まで行き、ゲストハウスで前泊し、次の日の朝福井まで鈍行を乗り継いだ。

インターンに行ったのは8月であったが、早稲品種の稲刈りがすでに始まっており、太陽がギラギラ照りつける中、汗だくで稲刈りをした。

稲刈りは基本的には機械だが、機械が届かない田んぼの隅を人の手で刈った。
隅だけならまだしも、ぬかるみすぎて機械自体が入れない田んぼはオール人力刈りであった。
刈った稲穂は束にくくって干し、こっちの田んぼが終わったらあっちの田んぼ。
日焼止めなどもはや意味をなさず、肌は真っ黒に焼けた。
コントのようにぬかるみで尻もちをついても、そのまま作業を続けた。

割と野性的に育ってきた自負はあったが、こんなにも体力を使う仕事があるのかと絶望した。
使っていない筋肉はないというくらい、持てる身体機能という機能をすべて使い切り、夕飯をむさぼるように食べ、夜は泥のように眠った。もはや気絶だった。

農業インターンは1週間と2週間から選べ、当初2週間にしようかと迷っていたが、バイトのシフトの関係で1週間にしていた。
1週間を選択した自分を心の底からほめてあげたいと思った。

死にうる。
米農家は無理だ。

インターン3日目くらいで、早々に米農家の道はあきらめたが、野山に囲まれた環境で自然相手に仕事をするのはとても気持ちがよかった。
自然豊かな場所で思いっきり身体を動かし、自分たちで作った作物をお腹いっぱいたべることの尊さと豊かさはこの上ないものだった。
同時に、自然を相手に仕事をすることの厳しさと、若者が少ない集落での農業の限界、田舎で暮らすことの難しさも肌で感じた。

私は「この町の農業を、日本の農業をなんとかしたい!」と立ち上がれる程骨のある若者ではなかったため、農業の厳しさを肌で感じただけで終了してしまったが、やはり実際に体験してみて本当によかったと思っている。

農家にもいろいろあるが、とりあえず自分は米農家にはなれないということがわかったことと、こうして心血そそいでおいしい作物を作っている農家さんの橋渡しになるようなことをしたい!という新たな目標が生まれた。

その後大学4年生のとき、農業専門のコンサルティング会社でインターンをすることになるが、ここでも学びを得る。

農家さんにもいろいろなモチベーションの農家さんがいるということだ。

これからどんどん農業を盛り上げて、自分たちの作物をガンガン企業に売って、農業は儲かることを証明してみせるぜ!という新進気鋭のベンチャー的農家さんもいれば、じぃちゃんばぁちゃんで細々農業を続けていて、基本はJAに出荷するだけ、あとは道の駅とかで売れたらいいな、農業はうちの代でおしまい、という慎ましい経営をされている農家さんもいる。

農家というとなんとなく一括りにされがちだが、経営方針は農家さんによって千差万別で、何が正解とかもない。
だから、自分がそこに出向いていって、勝手に作物に感動して、「この作物をみんなに広めましょう!儲けましょう!」というのは違う気がした。
感動するのはいいとしても、やはり作物を作ったのは農家さんなので、農家さんが作物をどうしたいか、農家としてどうありたいかという気持ちが一番大事だと思ったのだ。
橋渡し、という立ち位置は、消費する側からではなく、農家さんの望みがあって初めて成立するものだということを感じた。

そんなこんなで、結局自分が食と農にどうかかわるのが正解なのかいまいちよくわからないまま、食品スーパーに就職し、料亭に転職し、全く関係ないオフィスワークに転職し、サラリーマンをしながらお菓子作りをして今に至る。
我ながらキャリアに何の脈絡もなさすぎて、将来転職するときがきたら面接官にどう説明すればいいのか震えている。
そしていまだにどう食と農にかかわるのが正解なのかわかっていない。

ただやはり食に関わってきたことは間違いではなく、食べることが好きという気持ちに偽りはなかった。
すべてが中途半端な経験ではあるが、すべてが少しずつつながっている。
お菓子作りというのは食とか農とかのアウトプットのごく一部であるが、今までの経験をそのアウトプットに活かせるかどうかは、これからの活動次第ということにしたい。

将来は国際機関で働きたい!と大海を夢見ていた高校生の頃の私よ、すまん。笑
でも今、なんだかんだで楽しいですよ。

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