「あいつらと売れたい」オズワルド・伊藤俊介さんが愛してやまない芸人4人のルームシェア
M-1グランプリで2年連続のファイナリストとなったお笑いコンビ・オズワルド。ツッコミ担当の伊藤俊介さんは、半年ほど前から芸人さん4人との共同生活をはじめました。
伊藤さん曰く、初めての共同生活は「とにかく平和です。芸人のルームシェアとして、それが正しいのかどうかはわかんないんですけど」とのこと。先輩後輩の枠を超えて仲良く暮らすご自宅にお邪魔して、〝いつも通りの食卓〟を取材させていただきました。
平和な日々を過ごす芸人4人の共同生活
――伊藤さんは現在、芸人さん4人での共同生活をされていると伺いました。
伊藤:そうですね。2020年の夏から蛙亭の岩倉、森本サイダー、ママタルトの大鶴肥満、僕の4人で暮らしています。
――半年ほど共同生活を続けてこられた感想はいかがですか?
伊藤:平和ですね。とにかく平和です。何にも揉め事が起こらないので。芸人のルームシェアとして、それが正しいのかどうかはわかんないんですけど。
――(笑)。相方の畠中さんも、芸人さんとルームシェアをされていますよね。
伊藤:あれは、変態ですよ。1Kの部屋に3人暮らしですからね。しかも、全員が180センチ超えてるので、狭い潜水艦の中で暮らしてるようなもんですよ。
でも、僕がルームシェアをするようになったきっかけは畠中ではあります。もともとは畠中とルームシェアをしていた人が家を出ていくことになって、新しい同居人を探すためにYouTubeでルームシェアオーディションっていうのをやったんですよ。それを見てて、共同生活も面白そうだなと思って。
――今、伊藤さんが一緒に暮らしている蛙亭の岩倉さんと森本サイダーさんは、畠中さんのルームシェアオーディションで落選したメンバーだったんですよね。そのおふたりとルームシェアをしようと思ったのは、なぜだったのでしょうか?
伊藤:せっかくならオーディションを受けてくれた2人と住もうと思ったんですよね。もうひとりの大鶴肥満と一緒に住もうと思った理由は、ピザが焼けるからです。
――ピザが焼けるから……?
伊藤:肥満は、自分のピザ窯を持ってるんですよ。ちっちゃいけど、コンロで使えるやつで。それでしたね、彼と一緒に住もうと思った決め手は。
――あははは。そこが決め手だったんですか。
伊藤:そこがっていうか、完全に「それ」でした。
――一緒に暮らしている3人の方とは、もともと面識があったんですか?
伊藤:僕は前から知ってたんですけど、サイダーと肥満はそこまで絡みがなくて。岩倉に関しては、一緒に住むことになってからちゃんと会った感じですね。
――じゃあ、お互いを知るところからスタートしたんですね。
伊藤:そうですね。でも、思った通り、最初から面白かったですよ。毎日が平和すぎて、話せるエピソードはそんなにないですけどね。
――本当に穏やかな暮らしなんですね(笑)。そうやって平和に暮らしていくために、何かルール決めなどはされているんですか? 家事の役割分担を決めるとか。
伊藤:特に決めてるわけじゃないんですけど、家事はなんかうまいこと分担されてて。僕、今の家に住みはじめて1回しか洗濯したことないんですよ。
――洗濯は、別の人の担当になってるってことですか?
伊藤:洗濯は大鶴肥満がけっこうやってくれるんですよね。自ずとそうなっていったというか、なんか別に嫌じゃないらしいんです。掃除は岩倉がめちゃくちゃ好きで、やってくれてます。メシを作るのは、僕と岩倉が多いですね。サイダーは、ずっとひとりで喋ってます。
――(笑)。自然とそれぞれにストレスがないかたちができていったんですね。
一緒にご飯を食べると仲良くなれる
――みなさん、仕事の状況によって生活リズムが違うかと思いますが、食事を一緒にされることはありますか?
伊藤:自粛期間に入ってから、晩飯はほぼ毎日みんなで食ってますね。ルームシェアって、そういうものだと思ってたんで。せっかくみんな家にいるのにバラバラで飯食うのも嫌じゃないですか。だから、みんなで食うときは割り勘で食材を買ってきて、一緒に食べてます。
時間が合わないときもありますけど、何も予定がなければ、みんなが帰ってくるのを待ってたりもしますね。
――オズワルドがM-1の決勝に出てた日は、みなさんがここでテレビ観戦をして、伊藤さんの帰りを待っててくれたそうですね。
伊藤:帰ってくるまで起きててくれましたね。肥満がピザを作って、みんなで食べなから見ててくれたみたいで。
――肥満さんのピザは、そういうときに振る舞われるんですね(笑)。
伊藤:イベント事のときは、大体ピザですね。お客さんが来るときとかも。
――普段、伊藤さんが料理を担当するときは、どんなメニューを作っていますか?
伊藤:僕が作る料理は、本当に生きるための飯なんで、別にそんなにこだわりはないです。味付けも目分量ですし。でも、やっぱり自分が実家で食べてたものを作っちゃいますね。ほぼそれです。実家の飯が、めちゃくちゃうまかったんですよ。
――ご実家の味が、伊藤さんの料理のベースになってるんですね。みなさんの反応はいかがですか?
伊藤:みんな美味しいって言って食べてくれますよ。でも、なんですかね。母親に作り方を聞いて料理をするので、限りなく近い味にはなるんですけど、同じものは作れないんですよね。同じ作り方をしてるはずなのに。
――そこはやはりレシピだけでは再現できない味の違いがあるんですね。でも、今のお話を伺っていて、みんなで美味しいご飯を食べているってことが、平和な日常を支えているのかなと思いました。
伊藤:そうかもしれないですね。腹が減ってるとイライラするから。嫌なことがあっても意外とどうでもよくなりますよね、うめぇもん食ってたら。腹いっぱいになったら、あとは寝るだけですから。
――そう考えると、共同生活における食事の時間っていうのは大事ですね。
伊藤:そう思いますね。あと、やっぱり一緒に飯食ってると、仲良くなるのが早いですよ。それはけっこう大事だなと思ってます。
切磋琢磨するライバルであり、信頼もしているルームメイト
――みなさんで食事をしているときって、どんな話をしていますか?
伊藤:仕事の話もしますし、普通になんてことない話をしてますね。最近だと肥満が好きな子がいるってことで、その子の話を聞いたり。
――楽しそう(笑)。
伊藤:「家に呼んじゃえ!」って、みんなで言ってます。芸人仲間を含めて、けっこう人が遊びに来る家なんですよね。
――そういうなかで交友関係が広がっていくってこともあるんですかね?
伊藤:ああ、それはありますね。岩倉は最近まで大阪にいたので、彼女のおかげで大阪の芸人さんとめちゃくちゃ繋がりました。同じように岩倉も東京の友達が増えたってのはあると思います。
――それもルームシェアならではの面白さですね。
伊藤:この前も、ムラムラタムラっていう同期の芸人が遊びに来てて、一緒に飯を食ってたんですよ。そのときにちょうどR-1の結果が出て、サイダーは予選を通過して、ムラムラタムラは落ちたんですよね。そのときは、「ちょっと飯がマズくなるから帰ってくれ」ってなりました(笑)。
――お互いのネタや仕事に関して意見を交わすこともありますか?
伊藤:あります、あります。やっぱり家に帰ってすぐにネタの相談ができる人がいるのは、いいですね。うちは畠中がテーマを出して、そこから2人で作ってるから、第三者目線がゼロなんですよ。だから、みんなに意見を聞くことはよくあります。ここで話して伝わらなかったら、お客さんにも伝わらないだろうって思いますし。
――ルームメイトであり、仕事の相談相手でもあり、ネタを見てもらう最初のお客さんでもあるといった関係なんですね。
伊藤:そうですね、はい。いい刺激になってます。みんながどう思ってるかわかんないですけど、やっぱ僕は負けたくないって思うこともありますし。
だからと言ってギスギスしないのは、いい具合に散ってるからだと思うんです。サイダーはピン芸人だし、蛙亭はM-1も出てますけど主にコントですから。僕らはもう100%漫才で、肥満は後輩なんで。そうやってポジションが散ってるから、お互いに気を使い合う必要がないっていうのはあるかもしれないですね。R-1だったら全力でサイダーを応援しますし、キングオブコントだったら蛙亭マジで行ってこいってなりますし。
――芸人同士だけど闘うフィールドが違うから、本気で応援し合えると。
伊藤:ただ、この前『アメトーーク!』の「仲良し同居芸人」に、岩倉と2人で出させてもらったんですけど、僕が鼻血出るくらいすべり倒しちゃったんで。それは申し訳なかったですね。岩倉に全部けつを拭いてもらいました。
――そうなんですね(笑)。そういうときって、終わってからどんな会話をするんですか?
伊藤:一緒にタクシーで帰ってきたんですけど、もうなんか「ごめんな」って。
――あははは!
伊藤:岩倉は「大丈夫だよ」って。
――優しい言葉をかけられて(笑)。
伊藤:そうですね。ちょっと怖いので、みんなと一緒には見ないかもしれないです。
仕事の悩みは家に持ち込まない
――共同生活をしているなかで、「今はひとりになりたい」と思うことはないですか?
伊藤:僕はないですね、ひとりの時間が欲しいって思うことは。自分の部屋も本当は個室だったんですけど、サイダーと肥満が2人で寝てる隣の部屋にはエアコンがないってことで、ふすまを取っ払って生活してます。
――むしろ、自分からオープンにしていってるんですね(笑)。
伊藤:岩倉は女の子なので自分の部屋がありますけど、残りの僕たちは丸見えの生活ですね。サイダーと肥満の部屋はふすまを開けると廊下に繋がってるんですけど、そこが閉じてるところは1回も見たことないですもん。そういう状態だと必然的に僕の部屋も見えるから、オート干渉状態というか。
――あぁ、仕切りがないから干渉という感覚もないってことなんですかね。
伊藤:そうですね、たぶん。ただ、共同生活なので、人付き合いとして当たり前のことは考えるようになりました。うちの家族はみんながさつだったので、ノックをする習慣とかもなかったんですよ。でも、誰かと一緒に住むってなったら、さすがによくないなと思って、最低限の気は使うようになりました。まぁ、サイダーと肥満の部屋に関しては開きっぱなしなので、ノックもクソもないですけど。
――仕事のことを考えるときも、周りに人がいても気にならないタイプですか?
伊藤:そういうのは、家に帰る前にやっちゃいますね。
――なるほど。家には仕事を持ち込まないと。
伊藤:そうですね。持ち込みたくないと思ってます。例えば、仕事でめちゃめちゃムカつくことがあったとして、それを面白おかしく話せるならいいんですけど、自分のなかで消化しきれなくて、ただイライラしてるだけの状態だったら、話してもしょうがないですから。
――周りに気をつかわせることになりますしね。
伊藤:そういうのを発散させるために、飲みに行ったりするわけじゃないですか。そうすれば、帰ってくる頃にはスッキリしてますよね。最近は、なかなか飲みに行けないですけど。
――自粛期間中のストレスは、どのように発散していますか?
伊藤:んー。でも、最近は以前よりも、ぐちぐち言っててもしょうがないような悩みになってきてる気がしますね。悩みがもう少し大きくなったというか。
「M-1の決勝に行けない」って悩みだったらネタを直して漫才を頑張るだけですけど、「テレビにあまり出られてない」とかっていうのは、もうお手上げ状態じゃないですか。じわじわやってく以外に、明確な解決方法もないですし。だから、ちくしょうって気持ちはありますけど、そこであんまり悩みすぎてもなって。
――自分がやるべきことを淡々とやっていくという。
伊藤:まぁ、めちゃくちゃ言いますけどね。「なんで呼ばれないんだよ!」みたいなことは。言いますけど、それは卑屈になってるというよりは、せめてこれでどうか笑っていただきたいっていう感じです。もちろん呼んでほしい気持ちはめちゃくちゃあるので、頑張りますけどね。
この4人でなければ、もうルームシェアはしない
――伊藤さんは、今後も共同生活を続けていきたいと思っていますか?
伊藤:思ってます。今住んでる家は1年後に取り壊されてしまうので、引っ越さなきゃいけないんですけど、そのときにみんながどういう状況にいて、どういう気持ちになってるのかってところですよね。でも、今の4人からひとりでも欠けるなら解散になると思います。
――はぁ、そうなんですね。住むなら、この4人がいいと。
伊藤:この4人じゃなかったら、もうルームシェアはしないと思います。
――へええ。バンドみたい。
伊藤:そうっすね。あいつらと売れたいんで、やっぱり。
――(笑)。
伊藤:ただ、これくらいの気持ちでいるのが僕だけって可能性はあります。
――あははは! 他の3人とは温度差がある可能性が。
伊藤:余裕で僕だけが思ってる可能性が高いんで。「何を舞い上がってるんだ、お前は」って思われてるかもしれないですね。そこがちょっとネックではあります。
まぁ、あんまりやんや言うと抜けるとか言いにくくなると思うので、そんなことは言ってないですけど(笑)。
――フィーリングが合うとか、一緒にいてストレスがないとか、仕事をする上で刺激になるとか、いろんな要素があるんだと思いますけど、4人の共同生活の何がそこまで伊藤さんを惹きつけるんですかね。
伊藤:いや、特に理由とかはないですね。一緒に住んでたら、そういう感覚になりました。
――今日は、普段の料理を撮らせていただいて、食事や暮らしのお話を伺いました。最後に、伊藤さんにとって食卓というのは、どんな存在なのかを聞かせてください。
伊藤:うーん、食卓かぁ。なんでしょうね。……優しくなれる場所、ですかね。
――優しくなれる場所。
伊藤:そうですね。ただその、まだ自分で言った「優しくなれる場所」ってワードの免疫がついてないので、改めて言われるとちょっと……。
――すいません(笑)。なんか、強引に取材テーマに引き戻してしまって。
伊藤:いやいや、全然大丈夫です(笑)。
――いろいろとお話を聞かせてくださって、ありがとうございました!
伊藤:こちらこそ、ありがとうございました!
一緒にご飯を食べると仲良くなれる。
それは食卓が持つ普遍的な力だなと、伊藤さんのお話を伺いながら思いました。
年齢や性別はもちろん、先輩後輩という枠も超えて平和に暮らす芸人さん4人のルームシェア。お互いに切磋琢磨し、応援し合い、楽しいときも悔しいときも一緒に食卓を囲む。その真ん中に温かい食事があることで、人は心を許せる繋がりを得られるのかもしれません。伊藤さんたちのお家には、訪れた人の心をも優しくほぐしてくれるような安心感がありました。
取材:松屋フーズ・阿部光平 執筆:阿部光平 撮影:小池大介 編集:ツドイ