「もっと“みんな”を探したい」松屋だからできる、多様性へのアプローチ
「松屋が現代日本の多様な“みんな”を学ぶ」というテーマで、様々な食卓を取材してきたこの企画。約1年半で29もの食卓におじゃましました。
連載のひと区切りとなる今回は、noteの運営を担当していた松屋フーズ社員の田中英介さんにインタビュー。週4日は食べるという松屋の牛めしを食べてもらいながら、共に取材をしてきたチームメンバーで「みんなの食卓」を振り返りました。
「みんなの食卓でありたい」をスローガンに掲げる松屋にとって、“みんな”とは一体誰なのか。変化の途上にある老舗外食チェーンの「これから」を模索します。
週4日は松屋「ぜんぜん飽きません」
田中 いざ自分が取材をされる側になると緊張しますね(笑)。
——ははは! 「みんなの食卓」の取材を29回も経験してきたのに。
田中 ぜんぜん違いますよ! ご飯を食べながら取材を受けるってすごく不思議な感じです。
——取材に行くとみなさん、「普段の食事でいいの?」「食べてていいの?」って戸惑っていらっしゃいましたよね。
田中 そうそう。みなさんの気持ちがよく分かりました。特殊なお願いをしてたんだなって(笑)。
——では田中さん、今日のランチメニューを教えてください!
田中 牛めしと豚汁です。今日はミニにしました。最近、豚汁が好きなんですよね。
——普段からお昼は松屋で食べることが多いんですか?
田中 そうですね。朝に食べる日もあるので、朝昼合わせたら週4日は食べてます。本社の社屋の1階に店舗が入っていて。僕以外にも、昼は松屋系列でって社員は多いと思いますよ。とんかつの「松のや」、本格ステーキの「ステーキ屋松」、カレー専門店「マイカリー食堂」と系列店も近くに揃ってるので、松屋フーズの系列店だけでもぜんぜん飽きないんです。
——今日のように牛めしが定番ですか?
田中 いや、普段は牛めしより新メニューを食べることが多いですね。最近だと、カルボナーラハンバーグがおすすめ。取りつかれるくらいのおいしさですよ!
松屋ひと筋17年。バイトから「松屋を伝える」先頭へ
——田中さんはいま、どんなお仕事をされているんですか?
田中 販売企画部に所属していて、主にデジタル広告の制作・運用などPRまわりを担当しています。あとはTwitterやInstagramといったSNSの運営に携わったり、QRコード決済の導入やキャンペーン施策を実施したり。最近では券売機の改良や、アプリの改良に取り組んだりも。業者さんと松屋営業との窓口みたいな仕事も多くて、普段から40〜50人の業者さんとやりとりをしています。
——お仕事の幅が広い! 松屋に入社されてどれくらいなんですか?
田中 いまは17年目です。もともと松屋でバイトをしていて、店長になって社員になって、という感じでした。
——へぇ! バイトを始めたのは松屋に入りたかったから?
田中 いやいや、学生時代の家の近くに松屋があったからです(笑)。接客が好きだったし、自分に向いているなと感じていたこともあって、就職を考えたときに飲食業界って良いなと思ったんですよね。
——店長を務めた後は、すぐ今の販売企画部に?
田中 いえ、初めて本社に呼ばれたときは、新卒採用の部署でした。入社7年目くらいかな。就活生向けの合同説明会に出たり、採用ページを作ったり、入社後の研修をしたりしていました。人前に立って話すのが苦手で、あんまり向いていないなと思いながらやっていたんですが、松屋のことを深く知ることができた、自分にとって大事な期間になりました。
——ターニングポイントだったんですね。
田中 はい。店舗にいた頃は、仕事はバイトの延長線上って感覚でしたし、お店の中とその近所しか見えていなかったんです。会社の規模さえもきちんと理解できていなかったと思います。恥ずかしい話ですが、採用担当として会社を紹介しなきゃいけない状況になって初めて、「松屋フーズ」を勉強しはじめた。自然味・無添加にこだわっていること、自社工場で安心安全な食を作っていること、全国各地、海外にもお店があるスケールの大きな会社だということ。
知れば知るほど「松屋って深いな」「めっちゃすごいじゃん松屋!」って(笑)。松屋の魅力を知ってから、「この企業をどうやったら世の中に広められるのか」と考えながら働くようになりましたね。
——なるほど。田中さんって、とても松屋への愛情が深い方だなと思っていたんです。それは自ら学び取ったからこそ生まれた気持ちだったんですね。
田中 そうですね。このとき学んだことや、身につけた視点は、いまの販売企画部での仕事にもすごく影響していると思います。
松屋にとっての“みんな”には、もっと可能性がある
——noteで「みんなの食卓2021/2022」という企画を立ち上げた背景には、どのような思いがあったのでしょう?
田中 きっかけは新型コロナウイルスの流行でした。外出自粛が求められる世の中になって、人が道を歩かなくなった。店頭だけでは伝えたい情報が伝えられない。そこで、インターネット上でしっかりメッセージを伝えられるnoteをやってみてはどうかという話になったんです。
でも僕は、杓子定規な“企業メッセージ”ってちょっと苦手で。採用担当のときから思っていたことですが、一方的に言いたいことだけ言っても、誰の心にも響かないでしょう。このnoteは、読んだ後に「あ、松屋っておもしろいことやってるんだな」っていうのが、じわーっと感じられるようなメディアにしたいなと思いました。
だから、あまり松屋のことは話さずに、松屋の「みんなの食卓でありたい」というメッセージだけを強く伝えていく、いままでにないテイストに。販売促進のための活動というよりは、ブランディングのような位置づけで運営してきました。
——連載の中では、「多様性」が大きなテーマでした。
田中 以前から「松屋にとっての“みんな”ってなんだろう?」という気持ちがあったんです。松屋がメインターゲットにしているのはサラリーマンの方々ですが、そうじゃない人にも松屋を食べてくれている人はたくさんいるはず。一部のターゲットにしか目を向けないのは、すごくもったいないんじゃないかと思っていました。
松屋がそれを考える過程を伝えていくことで、読んでいる方にも社会の多様性を感じるきっかけを共有できたら、といった思いもありましたね。
——田中さんが、「“みんな”ってなんだろう」と考えるようになったのは、どうしてですか?
田中 Instagramの運営に携わったことが大きいです。Instagramの運営は、あるPR会社さんと協力してやっているのですが、そのディレクション担当が、開始当時20代の女性の方で。彼女が、松屋のことを一生懸命考えてくれているんですよね。仕事であること以上に、松屋を大好きでいてくれていることが伝わってくるというか。その姿を見て、松屋ってもっと幅広いお客さんにも好きになってもらえる可能性があるんじゃないか、と強く思うようになりました。
——会社全体としても、そんなふうに従来のターゲット層以外を意識するような流れがあるのでしょうか?
田中 うーん、基本的にはターゲットを選ばない「日常食」の考え方が根強いですね。良くも悪くも、松屋は商品に絶対の誇りを持っているので、良い商品を出すこと、訴求することが最優先課題なんです。
このnoteですこし挑戦的な発信をすることで、「商品以外にも松屋として伝えなきゃいけないことはあるよね」「松屋の魅力をもっと広げる術があるよね」ってことが社内に浸透したらいいなとも思っていました。
——全部で29回、様々な食卓におじゃまさせていただきました。中でも田中さんの印象に残っている回はありますか?
田中 とくに、と言えば第1回の松岡宗嗣さんですね。過去に、松屋の公式InstagramでLGBTQ当事者の方に登場していただいて、お話したこともあったのですが、松岡さんへの取材では、より深くお二人の葛藤や思いを知ることができました。「みんなの食卓」という新しい取り組みの初回で、どんな反応があるのか不安もあったので、たくさんの方に読んでいただくことができてうれしかった記事でもありましたね。
それから、拡張家族の考え方(第15回)や子ども食堂の活動(第19回)など、自分の知らないことに出会えたのも勉強になりました。
——それでいうと、一緒に取材をしていて、田中さんは「自ら学ぶ」という意思が強い方だなと感じていました。
田中 ああ、その意識は強いほうかもしれないです。お客さんのことを考えるには、ビジネスの話ではないところで、たくさんの人の話を聞くことがいちばん大事だと思うんです。僕は松屋の中で過ごしていることが多いので、取材はとても貴重な時間でした。
会社としていろんな目的があって始めたnoteでしたけど、結果的に、なによりも自分自身の糧になったなと感じています(笑)。いつも取材にうかがえることがうれしかったですね。
やっぱり「みんなの食卓でありたい」
——こうして振り返ると、改めてバラエティに富んだみなさんに取材させていただいたなと思いますね。
田中 本当に、“みんな”の多様さを実感する機会になりましたよね。いままで僕らがみてきた“みんな”はすごく狭い世界の話だった。もっと広い世界の「みんなの食卓」がここにあったんだ、みたいな感覚があります。
一方で、取材したみなさんにとっては、松屋がなくても食卓・生活が完結しているんだなと感じたのも事実です。取材をしながら、みなさんの日常の中に、どうやったら松屋が入っていけるのかを考えていました。
まだその答えは出ていませんが、現時点で思うのは、僕らがもっとみなさんへ寄っていかなきゃいけないということ。たとえばサチコさん(第4回)のようにヴィーガンの方も選べるメニューを考えるとか、浦上さんご夫婦(第24回)のように手作り料理が好きな人に向けてお家でできるアレンジを提案していくとか。今後はユーザーの裾野を広げられるような活動ができたらいいなと思っています。
——多様になっていく社会に対応していきたい、と。でも、松屋には「熱烈な松屋ファン」もたくさんいらっしゃいますよね。鳥羽さん(第20回)のお話も印象的でした。
田中 そうですね。もちろん、新しいお客さんの開拓へ極端に舵を切る必要はないと思っていて。最近はコアなファンの方々とコミュニケーションを持つ場として「松屋研究会」というコミュニティも立ち上げたんですよ。ファンのみなさんの声にも、もっと耳を傾けていきたいと思っています。
うちの一番の強みは、どんどん新しいメニューを開発していける商品開発力です。そんな松屋だからこそ、ファンと新しいユーザーさんの両方にアプローチしていけると思う。松屋にとっての“みんな”を変えるのではなく、従来のファンを含めて、“みんな”を広げていくようなイメージを思い描いています。
——変えるのではなく、広げる。まさに多様性を受容するような表現ですね。「みんなの食卓でありたい」って、そういう思いもすべて抱えているようで、やっぱり素敵なスローガンだなと思いました。
田中 考えてみると、ちょっとおこがましい気もしますけど(笑)。僕も、取材を通して改めて「みんなの食卓でありたい」っていうスローガンを形にできたらいいなと思うようになりました。
もっともっといろんな“みんな”を探していきたい。社会の変化に合わせて、松屋にとっての“みんな”、お客さんにとっての松屋の姿を、常にアップデートしていける企業でありたいなと思います。
——いちファンとして、松屋のこれからもすごく楽しみです。ありがとうございました!
今回で、松屋フーズ公式note「みんなの食卓」連載は終了となります。
松屋の「みんなの食卓でありたい」という思いが、みなさんの心に残っていたらうれしいです。ありがとうございました!
取材・執筆:水沢環 写真:小池大介 編集:市川茜・ツドイ