周囲がゆっくりになる「タキサイキア現象」の正体について
合気道にしろスポーツにしろ、相手の動きとかがスローモーションに見えたらスゴイのでは?と誰しも考えたことがあるだろう。
実際どうなのか、マジメに論文や文献にあたったので、そこらへんをわかりやすく解説してみる。
タキサイキア現象(Tachypsychia)
タキサイキアはギリシャ語で精神の速度という意味らしい。
事故にあった時なんかにスローモーションになったように感じる現象にこの名がつけられた。
実際にこういう現象はよく報告されている。
危険だと思った瞬間、スローモーションに感じるのなら危険にしてしまえばいいのでは?
と考えた神経学者が『学生を鉄塔から仰向けでバンジージャンプさせる』というイカれた実験で検証を行った。
その結果、みんなが「スローモーションになった!」と言い出したのだが、ここで終わらないのが学者のえらいところ。
次に通常の速度では読み取れない速さで数字が変わるデバイスを腕につけさせてまた鉄塔から飛び降りさせた。
本当にスローになっているのなら読めるはずだが、結果は失敗。
スローにはなってると思いこんでるだけだったのだ。
実は速くなっている
これに対する反論としてバンジーじゃそんなにスローにならないんじゃね?というのが出た。
厳密にはバンジーは命の危機じゃない。
また様々なデータを集めた結果、アイスクライミング中に足を踏み外したクライマーは、多くの人がスローモーションを感じて冷静に対処したと語っていたりすることがわかった。
出典『Time Slows Down during Accidents』(事故にあうと時間が遅くなる)
危機的な状況になると証言ベースでは70%以上がスローモーションを感じるという。
じゃあそもそも何がスローモーションになっているのか?世界が遅くなっていないことはもう判明した。
結論からいうとそれは「自分の思考がいつもより速くなっている」ということらしい。
つまりいつもより速くなっているのは思考速度であり、時間の流れそものが遅くなっているのではないというワケ。
速いのはいいことか?
タキサイキア現象というのはつまり、通常時よりも圧倒的に多く思考しているわけで、そのためには脳に大量の血液を送る必要がある。
身体が全速力で走る代わりに頭が全力疾走しているようなものだ。
そもそも危機的な状況になっている時点で「後手」にまわってしまっているとも言える。
スポーツなんかではゾーンに入るとかいうけれど、必ずしも集中こそが大事なわけではない。
同じくらい緩和も必要だし、緩和するためには前もって準備ができている必要がある。
ヤバい瞬間というのはどうしても来てしまうけれど、その時のタキサイキア現象をアテにするのもなんかちょっと違う。
ロマンはあるけどアテにはできない。それが合気道的なタキサイキア現象に対する解釈のような気がする。
おしまい