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武器と素手の違い:考え方と活用法について
素手の格闘技の世界でたまに武術的な攻撃方法を取り入れる人がいるのだが、今のところあまり効果的だという話は聞かない。
これは要するに武道や武術に対して「試合に出て強さを証明しろよ」が難しい理由でもある。
武道武術的な素手の攻撃は格闘技のそれとは考え方や運用方法が違うと思うので、それについて考察してみよう。
武器の技術
まず多くの人が誤解しているのは、武道武術の中には素手ではない技術を素手で使っている流派が存在するという点だ。
例えば空手にしても元々は船のオールなどを改造した棍であるとか、六角棒、ヌンチャク、トンファーなどわりとそこら辺にある農具などを武器にしたものが多い。
あるいは対武器としてのサイなんかもある。
つまり素手の武道・武術と思われがちな空手でも、実はベースには武器があったりする。
柔道だって創始者の加納治五郎は武器や素手の攻撃への対処を想定しないルールには苦言を呈していた。
そもそも空手が謳っていた一撃必殺だって、素手でやるのは難しいけど武器があれば遥かに簡単であり、むしろ武器の方が主だったとも言える。
武器術の素手の技術
ではこういう流派が素手になった時に、まったく別の技法として素手の技術を持つだろうか?
本来の運用を考えるとそれでは効率が悪い。
そもそも武器を想定しているのだから素手は優先順位が低い。
ではなぜその上で素手でやるかと言えば、武器だと危ないとか、用意するのが大変だとかいう理由があると思う。
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つまり武器が基本にある流派にとっての素手というのは、あくまで武器の技術の延長線上なのだ。
だから武器を持てばそのまま武器が使えるような動きを素手の時にもしておくことで稽古をしている。
素手は自由
これが素手の格闘技に武道武術があまりうまくアジャストできない理由でもある。刀、槍、棒など想定される武器というのは基本的には一本であり、両手武器は稀だ。
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ところが素手の格闘技では両手を自在に使うことの方が優先されるので、武器を想定した流派よりも自由に動き回らせることができるし、武器のように一発で終わるやり取りをしているわけでもない。
逆に言えば一発で大きく仕留めるための力を出せるのは武道武術の方だったりもする。
なのでたまにその威力みたいなものが注目されるのだと思う。
速いと軽い、遅いと重い
例えばサンドバッグを一発だけ殴って大きく揺らすのは素手では難しい。
サンドバッグは大きいものだと50キロ以上で、吊るされているとは言えこのサイズのサンドバッグが曲がって跳ねるような衝撃を瞬間的に与えるためには相当なフィジカルが要求される。
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が、実は瞬間的ではなくずっと押し続けたりして動かすことは容易い。
片手でも偏りのない部分を押しながら前に進めばサンドバッグは動く。
その代わり当然ながらパンチのように素早く衝撃が伝わるわけではない。
軽自動車とトラックのように、軽くなければ早くは動けず、重いとパワーはある分だけ初速のスピードが犠牲になる。
このスピードの差を減らすには手だけ先に当てて、それからその手に向かって体当たりするように身体を入れる。
いわゆるブルース・リーなんかのワンインチ・パンチのようなゼロ距離で相手を吹っ飛ばすような打撃はこうした理屈で行われる。
速くできると凄そうに見えるが、タネとしては手を前に出して身体で押すわけだ。
特に両足を揃えて立っているような人は踏ん張りが効かないので簡単に押せる。
武術的な打撃の基本
こうした動作をより早く実践的にするとイメージとしては無反動ハンマーのように当たれば良いということになる。
無反動ハンマーも構造としては振り上げた時には内部で重みが当たる側とは反対にかかっており、振り下ろして物体に当たった後で内部構造が追いかけるように前方に衝撃を与える。
これを腰を切ったり、足を利用したりして身体でやるのが武術的な動作であり、剣を振り下ろしたり、槍で刺したりする動作も本質的には同じだ。
武器が当たった瞬間に身体の構造が接触した一点に衝突するように当たることで衝撃を逃さずに接点に伝えられる。
衝突の物理
これまでの方法論で当たった時に身体のパワーをなるべく逃さずに伝えることはできるが、これはあくまで半分の要素でしかない。
ヘビー級(体重90.72キロ以上)ボクサーのパンチとフライ級(体重50.8キロ以下)ボクサーのパンチの威力がまったく違うように物理的に重いものの方が圧倒的に威力が出せる。
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武器とはこうした絶望的な威力の差を覆すためにあるのであって、素手と素手になってしまうと体重のアドバンテージは計り知れない。
これを変えるためには物理的に正しく条件を修正する必要がある。
重い方が強い
トラックと軽自動車がぶつかると当たり前のように軽自動車がふっとぶように、物理的には重い方が強い。だから基本的には体重差は覆すことができない。
しかし、同時に人と人である場合は相対的な関係性が生まれる。
距離や位置、接触する場所などでどちらが重いかを変えることはできるわけだ。
マジックなんかでもあるトリック、持ち上げられない女
体重差があっても関係性によっては相手の重みを利用するなどして自分の方を重く、相手の方を軽くすることができる。
その状態で打撃を当てるからこそ、より威力が伝えられるのではないだろうか。
槍などの武器では相手への攻撃と同時に相手がこちらに来るのを止めるストッピングパワーとしての役割もある。こうした相手の動きを止めるためには自分自身や槍が相手の下から地面とのつっかえ棒になるように当てる。
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こうした技法を活用していれば素手でもある程度の効果を出すことはできるだろう。
道具を使った稽古
色々と書いたけど、武器とは要するに道具を使った稽古だ。
道具を使うことで実はそれがない時にでも身体操作に活かすことができる。
そうした動きをしているのがもともとは武道とか武術だということで、現代の格闘技も必要な動きを道具を使って実現させることはできるしやってると思う。
ボールを受け取り力を抜ける状態から、瞬時に投げ、急激に力を入れることが出来る練習。
— ミヤ☆オク (@miyaco326) January 29, 2025
天から軸を通して一本のライン上に自分がはまっている。
下半身がしっかりしている。 pic.twitter.com/BufdL6xHQY
武道や武術は本来はあくまでも武器が主にあるので、素手の競技にアジャストしにくい。
競技では武器を使って戦うわけではないので、取り入れるべきは道具を使っていかに素手での格闘に適した身体の動きを身につけるか?という考え方であって、武器の扱い方そのものではないはずだ。
というわけで結論は「もちはもち屋」なのだけど、それでも武器、あるいは道具の活用というのはかなり大事である。
武道武術や格闘技はそれぞれ考え方が違う。しかし、その考え方を取り入れてうまく活用することはできるだろう。
武器について何かと攻撃的な面ばかり注目しがちだけど、いかに攻撃を捌くかといった面からも参考になるものは多い。
長くなったけど、武器のための技術と素手のみの技術の違いについてはこんな感じだと思う。
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