見出し画像

「課長島耕作」はハーレム系恋愛マンガの型でつくられている?:合気道的「型」分析

よい作品には良い型がある。

というわけで今回は漫画家、弘兼憲史の代表作『課長島耕作』の型について語ろう。

名前は知ってるけど読んだことない、という人が多いんじゃなかろうか?

課長島耕作の概要

物語は大企業、初芝電気の係長だった島耕作が課長に昇進が決まったと告げられるところからはじまる。

そのタイミングでいきなり事の成り行きで社内不倫をしてしまい、バレたら昇進も取消し……という所を乗り切って課長になるのが第一話だ。
このはじまり方だけでも展開の持っていき方がうまい。

画像1

(弘兼憲史『課長島耕作』より)

そこからしばらくは一話完結型のドラマ……みたいな感じで展開され、そして人気が出て来たからか徐々に話がふくらんでいく。

ここからは会社を巡る不正とか横領とか人事とか昇進争いの話がメインになる。ちなみにおわかりとは思うが、島耕作は既婚者である。

課長島耕作の「型」

実はこの課長島耕作の話の構成はワンパターンだ。
どこかに飛ばされたり、出張したりして場所を移動させて、そこで偶然出会った女性とイイ感じの仲になり、その先で起こる会社の問題をふたりで解決していく。

画像2

(弘兼憲史『課長島耕作』より)

ざっくり書くと課長島耕作の型はこれだけだ。

「型」としては007シリーズに近い。
毎回ボンドガールならぬ耕作ガールが出てきて、意外な人間関係から島耕作がチャンスを掴み、問題を解決する。

ニューヨークに栄転したり、東京に戻ったり、京都に左遷させられたり、東京の別の部署に戻ったり、フィリピンに飛ばされたり、だいたいその間に築いた人間関係によってどうにかするので、話のパターンは読めてくる。
しかし、そこで終わらないのが島耕作シリーズが名作となった理由だろう。

島耕作の「型」の多重性

島耕作の型が007シリーズと違うところは、その型が重なっているという点だ。ここが作者である弘兼憲史のうまさでもある。
007シリーズでいうならボンドガール達は毎回その時限りの女という感じだが、島耕作ではクロスオーバーするのだ。

こんなことしたら現実でも話がややこしくなるし、やっぱりマンガでも話がややこしくなる。

さらには会長・社長・常務・専務・部長といった上司たちの妻や不倫相手、果てはその子供や愛人の子供などなど、とにかく色んな人物の恋愛事情が絡んできて話をかき混ぜて行く。
この人間関係を上手に利用してストーリーを動かせるのが、弘兼憲史という作者のスゴイところだ。

だいたい基本構造は偶然の出会い+トラブルで、最後は島耕作大勝利という方程式なので読まなくても内容はわかる。
だけど、本当に話と話の繋ぎ方がうまく、読むのを辞めるのが難しかった。

画像3

(弘兼憲史『課長島耕作』より)

読ませる力

課長島耕作で使われている型はハーレム物のラブコメの変形といってもいいのかも知れない。
少年誌や少女マンガの恋愛ならわりかしピュアでさわやかなものが多いけれど、こちらは中年のラブコメなのだ。
当然、出世や金、権力、愛欲といったものがドロっとしている。

島耕作は顔と性格と寝技(?)が得意というスタイルで策謀渦巻く大企業を渡り歩いていく。
なんなら終末のハーレムファンタジアとか、そういうマンガに似ているのかも知れない。

少女マンガが代表的な例だけれども、恋愛モノというのは型が単純な分、作者の手腕が問われる。
好きと嫌いだけで何十冊も描き続けるのは一握りの天才にしかできない。

そういう意味で課長島耕作というマンガは今ではかなり地味なタイトルだけれども、本当に地力がしっかりしている。
恋愛マンガでもそうなんだけど、別に読まなくても最終的な結果はわかる。だけど、その過程こそが面白さが出るところなのだ。
是非、型の多重性を楽しんでいただきたい。

そしてなんといっても「課長」島耕作という型の良さは、本人が出世に欲がないことも相まって、すごい成果をあげたとしても昇進しないという「型」にある。

画像4

(弘兼憲史『課長島耕作』より)

わかってるけど肩書が変わらないというのがおもろい。
どんなに失敗しようとも、成功しようとも、課長という肩書だけは変えてはならないのだ。
クビにもならないし、転職もしない!
このムリヤリさがまた妙に面白かったりする。



おわり


合気道的型分析シリーズ



いいなと思ったら応援しよう!

合気道化師マツリくん
マツリの合気道はワシが育てたって言いたくない?