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202409125 心理尺度の寿命

 先生や先輩から「こうしなさい」と言われてきたからそうしているだけで、確固とした学問的裏づけがあるのかは不明ですが、心理尺度を使う際に私は以下のようにしてきました。

・項目は一字一句変えてはならない
・教示も一字一句変えない方がよい
・件法も変えない方がよい(5件法を4件法になど)
・件法の表記(よくあてはまる・あてはまるなど)を変えるのは論外

 これは、心理学も巨人の肩の上に立つ学問である以上、同じ心理尺度を使った研究と一緒の船にのり未来に知見をつないでいくための「乗船資格」だと思うからそうしてきました。
 そういう作法を守ることで、過去の研究の素点と比較して高低や変化を考えたり、他の尺度の相関関係などから考察したり、メタ分析をしたりすることができるのだろうと。

 しかし、最近「そう単純にはいかないなあ」と思うことが増えてきました。
 単純にはいかないと思う理由は大きく分けて以下の3つに分かれます。

1.紙の質問紙とネット調査では結構数値が異なる可能性がある
2.海外の尺度の場合、定訳が固まらないことが多い
3.言葉自体の寿命(古さ)の問題(今回の主題)

 以下、上の3つについて順に書いていこうと思います。

1.紙の質問紙とネット調査では結構数値が異なる可能性がある
 
 これ、この祭心理学NOTEで既に書いていた記憶があったのですがみつけられない。・゜・。(つД`)・゜・。
 最近はもうネット調査ばかりになってしまったのですが、その平均値などを単純に紙でとったものと比較してもよいのかな?と疑問に思って調べてみると、同じと扱ってもいいという研究と違う可能性もあるという研究のどちらも見つかったけど意外とその検討はあまりなされていないので結論づけられないという旨のNOTE書いたはずなのに…どこに行ったのかなあと。
 体感的にはsatisficingの影響からか「ネット調査ではαが高くなる」ような感想を持っていますがどうなのかなあと。

2.海外の尺度の場合、定訳が固まらないことが多い

 これは上の1について書いたNOTEを探していてみつけましたが、どれだけ上手に訳しても言葉が違うとやはりその得点の比較は困難ですし、翻訳が固まらないとそれぞれの訳ごとでの点数比較しかできないから問題だなあと思います。

3.言葉自体の寿命(古さ)の問題

 今回一番書いておきたいのはこの問題で、言葉が古くなりすぎて現代の人にそのまま実施すると理解されない問題が結構あるなと。
 昔からある定番の尺度だから使用しようと思って項目を打ち込んでいると、表現が古すぎて現代の人には伝わりにくいことが増えた気がします。
 昔の進学率の低かったころの大学生相手ならこの表現でも大丈夫だろうけど現代では確かに難しいよな…と思うことが多いです。
 あと、昔の尺度は長すぎたりダブルバーレル(1つの項目で複数の内容を聞くことで望ましくないとされる)の問題を抱えていたりするものが結構あって、そのまま使うのは心苦しいなあと思うことが増えた気がします。

 紙とネットの違いについてはそれぞれの概念ごとではなく心理尺度全体での傾向がありそうな気がするし、心理測定などが専門の方がもう確実に検討しまくっていると思うので、私レベルの人間にもまもなくその知見が伝わってくると思います。
 しかし、「表現の古臭さや難しい言葉を使っていることによる項目の理解されなさ」に関しては一筋縄ではいかない問題がありそうだなあと。上で挙げた進学率とかだと「サンプリングの偏り」などの問題もはらむし、誰にもわかるようにと「小学生でもわかるものを大人にも使う」ようになると、WISCでWAISは代用できない問題と同様の問題が起きる気もします。
 表情読解に関してエクマンの研究を使って授業をした際、基本情動にあたる「嫌悪」について「嫌悪ってどういう感情ですか?」と複数の人より聞かれたことがあります。おそらく、嫌悪の感情自体を体験したことがないということはさすがにないのでしょうが、そうした感情に「嫌悪」というラベルをつけてこなかったことはけっこうありうると思います。でもその場合「嫌悪」という言葉を何かに変えて説明しても、その説明で得られるものは「嫌悪」とは違うものなのだよなあと。

 これから以下はかなりの私見ですが

2000年以降の尺度:言葉にはほぼ問題なし
1990~2000年:過渡期
1990年以前:ちょっと厳しいものも増えてきた

という感想を持っていて、これはどちらかというと「1990年前後からの日本での心理学の流行と研究人口増の増加による心理尺度の洗練化」の結果であり、2000年以降に作られた尺度は今後30年くらいは使えるかもと勝手に考えているのですが…それは年寄りの感想であって、今の若い人にとっては2000年ころに作成された尺度も古臭いなあと思われているのかもしれないなあと。

 このあたりのことについて心理学研究法とか調査法の専門家に意見を聞いてみたいなあと。

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