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20240913 最近の大学院生の「気質」の変化

注1 ここでの「気質」は心理学的な「生まれつき持っている個人差で主に遺伝によるもの」ではなく、『当世書生気質』の気質(かたぎ)の方です。
注2 私は心理学分野、しかもそのごく一部の分野しか知りませんので心理学の他の分野や、ましてや心理学以外の分野の大学院生に当てはまる可能性がどの程度あるかは全く不明です
注3 今回の内容は具体的な文献と結びつけて書くのは難しいので書誌情報はありません

 これまで2回もかけて「自分の研究がいけてないのでポスター発表会場でみじめな気持ちになる」ことを書いてきました。
 で、これまではその理由を「加齢などによる研究能力の低下」という自分の内的な要因に帰属して書いていたのですが、学会の参加者の気質の変化も大きいのではと思うようになってみました。特に、その変化は大学院生において顕著かなあと思ったので今日はその感想について書きたいと思います。

1.大学院生の「真面目化」

 まず最初に思うのは「最近の大学院生はまじめに学会大会に参加しすぎでは?」という感想です。昔はポスター会場というのはもう少し閑散としていて、6,7人が群がるような人気発表なんて10発表に1つもなく、誰も質問者がこないでポスターの前でぽつねんと立っていた人はもう少し多かった気がします。そのため、そういう人を心の中で仲間と思って孤独と戦っていた記憶があります。
 しかし最近ではシンポジウムなどでも「人が多すぎて準備した部屋に収まらない」なんてことが増えましたし、ポスター会場も「インバウンドか!」と思うほど人が多く大混雑になってきているため、発表者が一人でいると悪目立ちしやすくなったと思います。
 これが学会の会員数が増えて大会自体が盛況になったためであるといいのですが、記憶ではポスター発表の発表件数自体は昔と比べてそう変わらないと思います。でも会場にいる人の数はかなり増えたような気がするので、「昔は自分の発表の時だけ大会会場に来ている人が多かったが、最近では自分の発表の時以外も大会会場に来る人が増えた。」というのはあるのではと思います。

 自分の大学院生のころを思い出すと、自分の発表やどうしても聞きたい講演などがない時は、もっと遊びに出回っていた記憶があります。「会場ではみかけなくて飲み会でしかみませんでしたね」というのはよくあったなあと。
 しかしおそらくですが今の大学院生は、お昼の前後に少し時間取っておいしいお店でランチを楽しんだり、夜に飲み会に参加することは確実にしているでしょうが、例えば熊本でレンタカー借りて阿蘇を回ったり人吉や天草あたりに行ったりした人はあまりいないのだろうなあと。熊本城をみたり水前寺公園みたりするくらいの人が多かったのではと。
 これは「真面目になってきた」という変化以外にも「大学院生にも学会発表などに資金援助がでることが増えたため、大学院生も遊べなくなった」というのがあるのだろうなあと。大学などから大会参加の援助を受けた場合、宿泊ホテルも会場の近くにしないといけないだろうし、大会参加報告もしないといけないだろうし、「援助を受けているのに遊びに行っていた!」みたいなことを言われて炎上したりするのを避けるためたとえ遊んでいてもSNSに投稿なんて全くできないだろうなあと思います。
 私が院生の時は無能で学振なんて縁遠かったので大会参加費は完全自費でした。そのため「極寒の財布からなんとか旅費を捻出したのだからその分その地を堪能し尽くさないと」という思いが働き大会参加以外にその地の有名な観光地を回っておこうというモチベーションは高かった気がします。また、他の院生も自費の人が多かったので、「私はどこに行ってきた」「~がよかったよ」などの観光情報を交換するのに後ろ暗い気持ちはなかった記憶があります。
 ってこう書くと院生時代の私が遊びまわっていたように思われるかもしれませんが、むしろ私は院生の中でかなり貧乏だったので、他の人たちがレンタカーなど借りて著名な観光地を巡っているのをうらやましく思いつつも同行するお金を出せず、お金を預けてお土産を買ってきてもらうよう頼みつつ大会に参加していた記憶があります。

2.共同研究が圧倒的に主流になってきた

 ポスター発表でお客がいないと悪目立ちするようになったもう1つの理由は「個人研究ではなく共同研究が主になってきた」というものが挙げられます。
 共同研究も「大学院生-同ゼミの院生-指導教員」みたいなものの場合、日頃あっている人同士なので筆頭の人が一人で立つことも多いと思います。
 しかし、複数の大学の教員同士のゆるいつながりの共同研究の場合、「大会が対面で共同研究者にあう貴重な機会」ということも結構あると思うので、ポスターの前にいっぱいの人が集まることが多いかなあと。しかもそこで共同研究者同士がミーティング的なことを話したり、共同研究者のうちの誰にその知り合いが挨拶をしにきてそこで話がもりあがったりなどしていることも多いので、ゆるいつながりの共同研究のポスターの前は人がいっぱいいて活況に見えるのではと思います。
 
3.1,2を踏まえた感想

 基本的に、1も2も「心理学がより理系化を強めている」ことの表れのような気がします。大学院生や学部生の大会参加の援助が手厚いのは工学部などでは昔からのような気がしますし、共同研究が多いのも理系学部の特徴のような気がします。
 で、理系学部でよく聞く悩みだけど心理学ではあまり聞かない悩みとして「PI(Principal Investigator:研究室の主催者)になるまでの競争が激しい」ということがあるように思いますが、今後心理学の院生も同じような悩みを感じることが増える可能性はあるなあと。
 心理学でも、大学院生の経済的負担を減少するために資金援助を増やせば増やすほどその研究は「資金援助を得るためのまっとうなもの。確実な効果を得られるもの。」になることが求められ自由度は減ると思います。また、学部生の段階から共同研究で自分のすべての研究をするようになるとこれまた自由度が下がり、「PIになるまで自分のしたい研究ができない」という状況になってしまう可能性はあるかもなあと。
 心理学の場合、指導教員のテーマとずれていても指導ができる可能性がまだまだ高いと思うのでそのあたりは大丈夫と思うのですが、今後さらに研究の仕方が理系化していくとそのあたりで苦しむ院生も増えるかもしれないなあなどと。

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