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20230120 東京の祭の特異性 暴力と完全な奉仕の心

 以前,「祭に関しては東京より地方のものの方が有名かも」という感想を書きました。その感想が正しいかどうかはおいておいて,その時は「テレビなどでの報道のされ方」がその原因ではないかと書いておりました。
 https://note.com/matsurishinri/n/nae5cddb4d927

  しかし,今日見つけた論文で,最近の東京の祭はけっこう独特な発展をとげていることを知りびっくりしたので私がびっくりした内容を挙げていきたいと思います。
三隅貴史 2020 祭礼における共同性はいかにして可能か.ソシオロジ, 64(3), 59 – 76.

 やはり大都会東京では「住人のみによる祭の維持」は完全に無理になっており,外部の人の参加をお願いするしかなくなっているようです。これ自体は全国どこでも一緒だと思うのですが,東京の独特なところと思ったのが,「神輿会」というものが存在し,東京のさまざまな祭に複数参加する「プロの神輿の担い手」がいるのがすごいなあと思いました。

東京圏の神輿会の名前と本拠地が掲載されている日暮里ネットによると、神輿会は、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県に九〇〇団体以上存在しているという(日暮里ネット, 2017)。そして神輿会がそれぞれ、年に五回から四〇回ほど祭礼やイベントに参加し、神輿を担いでいる。

 年に40回も参加するような人だと「神輿担ぎのプロ中のプロ」になるので,祭の時しか参加しないようなひよっこの町内の人より偉そうにしてトラブルになるのでは?とすぐ想像されて,確かにそういうことはあったようです。
 しかし,この論文ではそういう対立だけではなく町内と神輿会の共同性も存在しうることを,「町内-神輿会」という二項対立ではなく「町内-左肩-右肩」という三者関係になることによって可能になることをいろいろな社会学の理論を用いて説明されている論文だと思います。
 
 社会学の理論は全然わからないので私は面白かったところを単発で引用させていただくことにします。

A神輿会への入会動機としては、①「神輿が好きで好きで」というように、神輿担ぎが好きで入会した成員、②「祭りに行けば同級生がいるから」というように、友人との歓談のために入会した成員、そして③「どれだけ人を殴っても良いと聞いた」というように、喧嘩をするために入会した成員の三種類が混在している。③からもわかるとおり、設立当初のA神輿会は現在よりも「武闘派」の会だった。これはA神輿会が、複数の神輿会によって棒が独占されていた三社祭宮出しにおいて、力づくで担ぐ棒を奪取する組織として結成されたことからもわかる。

 「暴力」という字面もすごいですが,1つの神輿を複数の神輿会が担ぎ,かつその勢力争いは「担いでいるその場でリアルタイムに行われる」というのはなんだかおもしろいなあと。多くの祭では祭の中での役割は「地域や祭準備への貢献度や年齢など」で「祭の前」に決まっていて,祭の中ではその役割をこなすことが求められることが多い気がしますが,東京の神輿の場合,ある意味役割はその日のその場所で争われることで決まるのだなあと。

A神輿会が参加した二〇一八年鳥越神社X町会の本社神輿渡御で生じた出来事を事例としてあげよう。本社神輿渡御の最中、正式な町会半纏ではない「コピー半纏」を着た男が神輿に近づいてきた。A神輿会の幹部はその半纏が偽物であることを見抜き、その男を神輿渡御から排除した。この実践に対して町会側は、感謝の意を示した。

 山笠の追い山を桟敷席でみるためには桟敷券をゲットするために待たないといけないだけではなく当日も早くから並んで待たないといけないので,締め込みなどは売っているから水法被だけ偽造して清道に行ってみようか~などと冗談で思ったことがありますが,東京の祭で実際に行った例があるのだなあと。しかも,それを見抜いたのがその半纏の作成にあたる町会の人間ではなく,A神輿会の幹部であったというのもまたなにか暗示的だなと。
 
 私が一番知りたいなあと思ったのが,こんな感じで「町会」ではなく神輿会が主役になることが多い状態でも神輿渡御を継続していこうとする町会の人々の心理でした。

たとえば下谷神社X町会睦会には、一九七〇~八〇年代には六〇名ほどが所属したが、今は一五名ほどしか所属しない。そして祭礼当日、青年部は少なくとも二〇〇人ほどの担ぎ手が参加する神輿の仕切りに忙殺されており、自らが神輿を担ぐ機会はほとんどない。

 町会:神輿会=1:13というようなすごい比率になって,しかも当日は神輿を担げない町会の人…これだと町会の家族の人も自分の家族が格好良く担いでいるところなどをみられないわけで「祭でイケた感じになっている家族とピースして写真を撮る」とかのお楽しみがないわけではないですか。・゜・(つД`)・゜・。でも,ここまでの比率になってまでして維持している人は,担ぎ手の「暴力」とはまた全然違う「奉仕の心」のようなものがすごいのではと思われるので,インタビューとかしてみるとすごいいいお話聞けそうな気もするなあと。

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