バーチャルな世界と手に触れ香るものづくり
薫風の勝山。
ここ数ヶ月のコロナ騒動が嘘みたいに、新緑は美しく、澄みわたった空気と小鳥のさえずりが心を和ませてくれます。
お客様と直接お会いできる工房オープンは当面お休みとしていますが、それでも商品を切らさないように製造と発送に集中する日々。
一時期は子どもの学校が休校になったりもしましたが、システムを見直し、時には子連れ出勤したり水曜日の発送をお休みすることにより、なんとか私もスタッフも仕事と家庭のバランスをとるように働き方を変えている最中です。
「ピンチはチャンス」という言葉が、私はあまり好きではなくて、できれば自分の中で
「ピンチはチェンジ」にしていきたいと日々思う。
そして、こんな時だからでしょうか。
最近お客様から
「石けんに癒されました」
というメッセージを数多くいただいています。
植物からのアロマと、見目麗しくやさしい泡に包まれる石けんは、コロナ禍の疲れた人たちの心に水紋を描くように響くのかもしれない。
今は家に居ながら便利なツールがたくさんあります。
動画配信やzoom、子どものゲームやAI教材など、あれこれ試してみましたが、最初は便利だなぁと感心するのですが、次第に物足りなさを感じてくるのです。
例えばどんな名作映画を見ても映画館での心震えるようなあの一体感は感じられない。
zoomの向こうの相手からは顔だけ見えても、微妙なしぐさだったり相手の持つ空気感が伝わらず、言葉だけで会話している感が否めない。
もちろんこんな時だからこそデジタルの恩恵は大きいのですが、でも、やっぱり私たちは実際に、見て聞いて触れて味わう「リアル」をどこか欲していて、今はコロナ以前よりも更に五感を喜ばす本質的なものを求めている気がするのです。
思わず笑顔になってしまう美味しい食べもの
肌触りの良いリネンのシーツ
顔をうずめたくなるふわふわのオーガニックコットンのタオル
すべすべに磨き上げられた木工製品
気持ちを明るくしてくれる美しい音楽
落ち込んだ時に癒やしてくれる花の色や植物の香り
こうした「美しく上質なもの」は緊急時には不要不急なのかもしれないけれど、私たちの生活に彩りを添えて豊かにしてくれる絶対に必要なもので、デジタルが介在して人と人との触れあいが希薄になってくる分、これから更に必要とされるだろうなと思う。
デジタルツールという言葉があるけど、これからはリアルな「もの」が「ツール」としての価値が高まってくると感じるのです。
私たち人間の身体は、20万年前からほぼ同じ構造のまま変わっていないのだから、心の奥底から求めているのは皮膚感覚だったり嗅覚だったり、もっと動物的で原始的なものだと思うのです。
五感を喜ばせるものは人それぞれ。
こんなコロナ禍だからこそ、漠然と私たちをとりまくものの中から「不要なもの」と「絶対必要なもの」がはっきりと輪郭を帯びて表出化してくるのだと思うのです。
いろいろ制限される中でも、
どうしても見たい、触れたい、使いたい
MATSURIKAの石けんがそんな存在のひとつになれたらいいなぁと思う。
先日、ヤマブドウ石けんの原材料の日本山葡萄の樹液を生産者のひるぜんワイナリーさんよりいただいたのですが、
春先に剪定した枝ひとつひとつにボトルをとりつけて、一滴ずつしたたり落ちる樹液を採取する気が遠くなるような作業を本当に有り難いと思いました。
こうした植物からの樹液やオイルや香りなど、生産者さんの丹精込められた原材料を10種類以上も使って石けんにするのは、料理をするのに似ています。
食べた人に喜んでもらえるような料理を作ることや、ひとつひとつ手作りで石けんをつくること
どんなにバーチャルな世界が台頭しても、データを大量コピーするようにはものは作れない。
生身の私たちは五感を満たす「もの」なしでは生きていけないのだから、非効率で作業が膨大でも、創り出すことができる製造業っていいなって思える。
そんな、誰かに「必要」と思ってもらえるような、手に触れ香るものづくりを、エシカルで持続的な生業にできたらこんなに幸せなことはないと思うのです。
手から手へと、私たちの想いが届きますようにと、
これからも石けんを作り続けていきたいと思います。